↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/5

屋根裏部屋を掃除した日、

私はひどい下痢に苦しまされた。


でも次の日には、

体調も戻り、

スッキリしていた。


「おはよう。今日はお腹大丈夫?」

ミカゲが言った。


「うん。大丈夫。ありがとう」


「なんか変な物でも食べた?」


「食べないわよ」


「拾い食いとかしてない」


「もうしてないわよ」


「ごめんなさい」

ミカゲは慌てた。


「いいのよ。

もう拾い食いしなくてもいいんだよ。

私は……」

私は少し誇らしげな気分になった。


「ねぇ。

私……、昔パンを貰うのが嬉しかったんだ」


「うん」


「私……、パンをあげられる人になれないかしら」


「できるんじゃない」


「そっか、私パンをあげられる人になれるのか……」


「うん、きっと出来るよ」


「ありがとう」


私はその日から、

時間を見つけては、

自分の給金の一部でパンを買い、

路上生活する孤児達に配って回る事にした。


「偽善者め」

「娼館の女主人が……」

「どうせ孤児を娼婦にするつもりなのよ」

「あくどい事をやって稼いでいるに違いない」

「罪滅ぼしなんだろう」


街からは、

そんな声が聞こえた。


ある日、

娼館のお客さんから、

こう言われた。


「シルトさん。

あなたのやっている事は立派だ。

でもね。

やり方を考えたほうが利口だ」


「どのようなやり方ですか?」


「うん……、

そうだね。

シルトさんは、

自分がやってると印象付けたいのかい?」


「いえ。

私はただパンが貰えて嬉しかったので、私の給金から捻出して配っているだけです」


「そうか……、じゃあ貴族が配っているという風にしたらどうだい?」


「ですが……、私は貴族ではありません」


「私の知り合いにね。貧乏貴族がいるのだよ。貧乏貴族といってもね。世間体は気になる。その男にパンを渡し、配ってもらうんだ」


「私は構いませんが、そんな事を貴族の方がやってくださるのですか?」


「もちろん体面は整えなくてはいけない。あくまで貴族にお願いするという体だ」


「私は構いませんが、どうやれば」


「わかった。では私が話をつけておこう」


「お願いします」


後日、

私はその貴族の屋敷に向かう事になった。


貴族という名とは裏腹に、

屋敷はくたびれた印象だった。


私は店の客に貴族を紹介された。


「こちらが以前にお話したシルトさん。娼館の女主人です」


「初めましてシルトにございます」

私は頭を下げた。


「アリエルだ」

貴族は言った。


「それでお話の件なのですが……」

店の客は言った。


「あぁ、わかっている。

私はシルトさんから、パンを預かる。

それを孤児達に配る。

シルトさんは、パンを配ることが出来る。

私は名誉を得られる。

公平な取引だ」


「お願いしてもよろしいのですか?」

私は尋ねた。


「無論だ」


「ではよろしくお願いします」


「今日からするか?」


「よろしいので?」


「子供たちの腹が空いておらぬと思うか?」


「いいえ」


「財布の都合は良いのか?」


「はい。用意しております」


「では行こう。あとすまぬが、パン屋は指定できぬか?」

貴族はそう言った。


「できますが……」


「値段は同じようなものだと思う。

そのパン屋は、

実は当家の関係のパン屋なのだ」


「なるほど、アリエル様の信頼があるパン屋であれば、間違いございません。そこで手配するように致します」

私は頭を下げた。


「うむ。頼む」

貴族はそう言った。


アリエルの紹介したパン屋はありふれたパン屋だった。

パン屋の多い通りの脇のほうにあり、目立たない。

私が行った時にも、客はまばらだった。


「これはアリエル様。お呼び頂きましたら、お伺いしたものを」

店主は深々と頭を下げる。


「新作のパンはどうだ」

貴族は尋ねる。


「売上は芳しくありません」


「そうか……、これはシルト。お主も知っておろう、あの娼館の女主人だ」


「あぁあの偽善……、いや失礼」

店主は頭を下げた。


「いえ。お気になさらないでください」


「それで、このシルトが、孤児たちにパンを配るために、これからここにパンを買いに来る」


「それはそれは。お得意様になってくださるのですか」


「あぁ。ただな、お前が言うように、シルトが配っては、偽善者呼ばわりされてしまう」


「そうですね。娼館という立場の人間は、善行をしていても、裏を読まれてしまう」


「だからな。ワシがこのシルトの代わりに、パンを配ってやることにした」


「アリエル様が……、それは実にお優しい。なにか娼館の女に弱みでも握られましたか?」


「馬鹿を申せ、娼館に通えるほど、余裕はないわ」


「たしかに」


「無礼だろ」


「それは失礼しました」


私は、店主と貴族のやり取りで、存外この貴族が悪い人には見えなかった。

むしろそれより、民との距離が近い方なのだと、そうも感じた。


「アリエル家は孤児にパンを配ることで名誉という利を得る。

お前はパンの売上という利を得る。

シルトは孤児にパンを配れた満足という利を得る。

子供たちはパンという利を得る。民草は貴族がパンを配ったという納得のいく答えという利を得る。

そういう事だ」


「なるほど、わかりました。では売れ残りのパンを」


「馬鹿申せ。アリエル家は孤児に売れ残りのパンを配っているぞなんて知られたら、損ではないか?」


「では?」


「一番安くて、腹が膨れるパンを売れ」


「ですが、どの程度売れるかがわかってないと」


「シルトどうだ?」

貴族は言った。


「私のお給金の一部ですので、毎月一定額になります。それを予約のような形であれば……」


「それは助かります。前もって別口で焼けますからね。アリエル様。これは中々いいお話ですね」


「当たり前だ。そうでなくては、私がわざわざ出ては来ぬ」


「では今日の分を買うか……」


「はい。ではこのお金で、できるだけ沢山買えますか?」

私はお金を店主に渡す。


「おや。こんなにも……。今ここにあるだけじゃ足りない。今から焼きますんで、しばらく待ってください」

店主は後ろの厨房に向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。