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大掃除

街外れの古ぼけた一軒家に、

占い師のお婆さんが住んでいた。


店のお客さんからよく当たると聞いて、

私は会いに行くことにした。


家は古いが、

庭は綺麗に整えられ、

沢山の薬草が生えていた。


庭で薬草を収穫しているお婆さんがいた。


「あの……、すみません。

占い師のお婆さんですか?」

私は尋ねる。


「何を言っている。

ここにはお婆さんなどいない」


「占い師がいらっしゃると聞いたのですが」


「占い師なら私だよ」


「あの私……」


「あんた娼館の新しい女主人だろ」


「すごい。それも占いですか?」


「ははは。街で聞いたんだよ。若い娘が娼館を継いだって」


「そうなんですか。私、お会いするの初めてですよね」


「あぁ、もちろん初対面さ」


「そうですか……」

私はこの占い師に会ったような気がした。

しかし、本人が否定するのに、

会ったと固執するのは、おかしい。

私は口を閉ざす。


「それで……、娼館の雰囲気が気にでもなるのかい」


「すごい、それも占いですか?」


「あんたは、占い師がしゃべると、なんでも占いに聞こえるんだね」


「ははは」


「それで?状況を話してみな」


「娼館はいつも掃除して、綺麗にしています。

換気もしています。

でもなんか鬱屈した空気があるのです」


「なに!鬱屈した空気が……」


「あ……、危ない状況なのですか?」


「いやいや。ただの演出だよ。そうだね。鬱屈した空気ね」


「シルト。娼館は綺麗にしてると言ったね」


「はい」


「手つかずの部屋があるのではないか?」


「手つかずの部屋……、屋根裏部屋」


「そこに、そうだね。念の強そうな物はないか。探してみると良い」


「念の強そうな物……、どんな物ですか?」


「一番強いのは、手記などだろうね」


「手記?」


「あぁ、日記や、手紙などもだね。つまり人が書いたものだ」


「それが何故?」


「紙というのは、その時の時間を封じ込めるだろ。わかるかい?」


「わかるような。わからないような」


「例えば、昔の日記を見るだろう。その時の心情を思い出さないかい?」


「たしかに」


「いいか。

日記というのは大事だ。

昔の記憶を思い出させてくれる。

しかしね、同時に思い出したくない過去も思い出させる」


「でも……、捨てて良いのでしょうか?」


「そうだね。必要なものか、必要でないものか、判断する必要があるだろうね」


「私にそれができますか?」


「まぁできるだろう。できなかったら、お前の次の代が捨てる事になる」


「そうか……、私もその手記などを引き継いだわけですものね」


「そうだろ。前任者のつけをお前が支払っているようなものさ」


「ソレアは、そんなに悪い人じゃありません」


「もちろんだ。捨てられないのは、悪い事じゃない。ある意味、色々考えられるから、利口とも言える」


「そうですよね」


「でもね。思考が停止しているとも言えるのだよ」


「たしかにそうかもしれませんね。ではどうしたら良いのですか?」


「帳簿の類や国関係の書類は簡単だ。

国が置いておくように指定する期間だけ保管しておけば良い。

それ以外は、絶対に必要なもの以外、捨てれば良い」


「絶対に必要なもの?」


「それがなくなれば、娼館がやっていけない。そんなようなものだ」


「そんなものが、屋根裏部屋にあるでしょうか?」


「まぁ普通に考えればないわね」


「という事は……、全部捨てても良いのでは?」


「もちろんさ。屋根裏部屋に置かれるくらいのものだ。その時点で用なしだと決まったようなものだ」


「でも、なくては困るかもしれない」


「そう思うから、屋根裏部屋が膨れ上がるのさ」


「もしかして、鬱屈した空気というのは、判断できなかった物が発しているのですか?」


「それがわかったら上等だ。さぁさぁ帰んな」


「あの……、お代は?」


「お代?何の事だ。

あんたは占い師の婆さんに会いに来たんだろ。

ここにいるのは、占い師の婆さんじゃない。

占い師の姉さんだ。

ほら帰った帰った」


「ありがとうございます」


「あぁ頑張ってな。シルト」

占い師はそう言って、家に入っていった。


私は娼館に戻る。


何故、

占い師は私の名前を知っていたのだろう。

そんな事を思ったが、

もう聞けるタイミングを失った。


私は、

屋根裏部屋に向かう。

そこは埃っぽく、

空気が淀んでいた。


窓を開けると、風がスーッと入ってくる。

私は部屋の隅から確認を始める。


古ぼけたランタン。

虫食いし、

日焼けしたシーツ。

なにかの部品。


必要か、

必要でないかハッキリしないもの達が、

俺は必要だと、

そういう顔をして、

そこに居ついていた。


片隅に木箱。

そこには多量の書類があった。

私は、

それを運び出す。


別の部屋で、

私は書類を読み始める。

ソレアの代より、

前の代の書類が多量にあった。


私は書類を分類し始める。

年代ごとに固めた。


書類のほかは、

娼婦たちに男から送られた手紙の類が多かった。


そして手記。

今はいない娼婦たちの日常が書かれてあった。

私は、

一つ一つ目を通す。


彼女達の痛みが、

身体を通るのがわかった。


私は春を売ったことがない。


それでも、

彼女達の痛みだけはわかった。


私は、

男からの手紙、

娼婦達の手記を暖炉にくべた。


パチパチと音を立てながら、

思い出と、

やるせない気持ちが、

ふわっと浮き上がっては消えていく。


私は過去を、

誰かの大切な思い出を燃やしている。


そういう嫌な感覚に陥った。


(ばさ)

(ばさ)

(ばさ)

(ばさ)

(ばさ)


音がした。

ふと暖炉を見ると、火の勢いが強くなっていた。


「これ、戦争で亡くなった太客からの手紙」

ミカゲは寂しそうに笑った。


「これは新人時代に書いてた日記」

コクヨウは言った。


「奥さんにバレて来られなくなったお客さんからの手紙」

パールは炎を眺めた。


「これは亡くなった爺ちゃんからの手紙」

フォノは俯いた。


「これは返済が終わった借金の督促状」

ペグマは苦笑いをした。


「これは消したい私の過去」

シェールは恥ずかしそうに言った。


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