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118話 ニコ、時の牢獄に閉じ込められる


 勇者エレンによって、ニコは逮捕された。

 現在、ニコは砂漠のような、不思議な空間にいた。


 地面に敷き詰められた砂が、どこまでも遠くへ続いている。


 空は晴れているのだが、太陽がない。

 それでも周囲は明るい。


 熱さも喉の渇きも感じない。


 そして特徴的なのは……頭上に表示された【1億年】という数字。


「【時の牢獄】……ね」


 時の牢獄、それはこの世界に存在する、もっとも重い罪人を閉じ込めておく魔法牢獄だ。


 牢獄の中の時間だけが止まっている。

 この中では、罪人は死ぬことも老いることもない。


 刑期が終わるまでは、決して脱出することのできない、まさに地獄のような場所だった。


「懲役1億年か。ま、妥当だろうね」


 逮捕されたニコからは、余罪がボロボロと出た。

 彼は極めたヒールの力を使って、何千何万という無辜の民を、自分がすっきりするためだけに殺したのだ。


 結果、死刑ではなく、禁固刑。

 時の止まったこの地獄のなかで、1億年過ごさなければいけなかった。


「く……くくく……!」


 普通ならば、気が狂ってしまいそうな状況。

 しかしニコは……笑っていた。


 ただ狂って笑ったのではなく、勝ち誇った笑みだった。


「あーはっはっはぁ! まさか、【また】ここに来るとはねぇ……!」


 ニコは高らかに笑う。


「ここはボクのホームグラウンド! 転生して、女神に落とされた場所じゃないか!」


 ……そう、ニコの異世界におけるスタートは、この牢獄の中だったのだ。


「誰も知らないだろうけど、ここでボクは【ヒール】の力を鍛えて、最強にしたんだよぉ!」


 本来、傷を癒やす力しかないヒール。

 それを、大量殺戮能力へと昇華できたのは、無限に等しいほどの修練を、この牢獄の中で行ったからである。


「ここでは魔力の消費はないからね! 好きなだけヒールを鍛えた! 結果! 空間を破裂させるほどのヒールを手に入れて、外に出たんだよぉ!」


 ……そう、彼はこの時の牢獄内から脱出した、唯一の男なのだ。


 つまり、ニコはこの牢獄の脱獄方法を知っている。身に付けている……否、【いた】。


「ま、とゆーことでここからはボク、楽勝に脱出できるんだよね~。くく……ラッキー、なんてボクはついているんだ……!」


 ……そんなわけがない。

 ニコは精霊王に嫌われたのだ。


 彼にとって都合の良い展開が起こるわけがない。


「待ってろよエレン……脱獄したら、おまえに必ず復讐してやる! 勇者を殺したら世界中の人間を殺す! なりふりかまわず……八つ当たりだぁ……!」


 ニコが邪悪に笑う。

 ……彼が余裕を保っていられたのは、ここまでだった。


「そんじゃサクッと脱出しますか。【ヒール】!」


 しーん……。


「なっ!? そ、そんな! どうなってるんだ……!? エレンとの戦いのときと同じじゃないか!」


 力が発動せず、ニコは大いに焦る。


「あれはエレンにヒールが効かなかったんだろ!? 【ヒール】! まさかヒールが使えなくなったわけじゃないんだろ! 【ヒール】!」


 だが、何度ヒールを使おうとしても、スキルが発動しなかった。


「どうなってるんだよ! おい! ヒール! ひーーーーーーーーーーる!」


 彼の叫びが、無限の砂漠にむなしく響き渡った……そのときだ。


「くすくす……バカだね、君は」


「だ、誰だぁ……!?」


 何もない砂漠の中で、パラソルが置いてあった。


 傘の下にはビーチチェアがあり、そこに美しい白髪の女性が座っている。


「ボクはルルイエ。精霊王……といっても、ま、君は知らないか」


 ルルイエは小馬鹿にしたように鼻を鳴らす。


「ど、どうしてここに人がっ? 1人が入ったら、決して開けることのできない牢獄なのに!」


「こんなところへの侵入なんて、僕にとっては容易いことだよ」


 ニコは悟る。

 この女、ただものではないと。


「お、おい! おまえ! ボクになにがおきてるんだ! 知ってるんだろ!?」


 やれやれ、とルルイエは首を振る。


「【スキル使用権限】を剥奪した。君の小さな脳みそでもわかるように言うなら、【スキルを使えなくした】んだよ」


「スキルを……使えなくした、だって……?」


 信じられない、とニコは唖然とする。


「そんな……で、でたらめだ!」


「ま、信じる信じないは君に任せるよ。けど君の極めたヒールが使えなくなったのは事実なんだろう?」


 確かにその通りだった。

 もしもルルイエの言っていることが本当ならば、この状況に対して説明も付く。


「も、戻せ! 剥奪したってことは、戻すことも可能なんだろ!」


「まあね。けど……あげないよ?」


「どうしてだよ!? 寄越せよババア!」


 いきり立ったニコが、ルルイエに近づく。


 彼女は冷たく彼を見やる。


「図に乗るな、虫けらが」


 ルルイエが殺気を向けた、それだけで……ニコはその場に崩れ落ちた。


「おげ、うげぇええええええええええ!」


 胃の中のものをすべて吐き出す。


 殺意とともに、圧倒的な力の差を見せつけられた。


 彼は悟る、この女は……人外の化け物であると。

 そして理解する、彼女の言っていたスキル使用権限は、確かに奪われているのだと。


「僕がスキルを与えるのは、この星でエレンただ一人。そうでなくとも、君のような、人からもらった力を悪事に使うようなクソガキに、力なんて与えるわけがないだろ」


「そ、そんなぁ……」


 青ざめた表情で、ニコが力なくつぶやく。

 ルルイエはイスから立ち上がると、這いつくばる彼に言い放つ。


「さて、君の現状を教えてあげよう。一億年の長い長い時間、この牢獄で過ごさないといけない。ただし、前回と違って、極めるものが何もない状態でね」


 前回のときは、ヒールという奇跡の力を持っていた。

 それを長い時間かけて修練し、必殺の奥義へと研ぎ澄ました。


 ……だが、今回は何の力も持っていない。

「さて、今回はなにを鍛えるのか。見物だねぇ」


 くすくす……とルルイエが邪悪に笑う。


「う、うわぁあああああああああ!」


 ニコは現状がとても逼迫していることに、ようやく気付いた。


「お願いします! ボクを! ここから出してください! お願いします! おねがいしますぅううううううう!」


 極める物があったから、1億年もの長い時間を、修行に打ち込むということで、耐え抜くことができた。


 だが、今回はなにも持っていない。

 そんななかで一億年なんて過ごしたら……。


「発狂するだろうね、間違いなく。けどこの空間内では死ねないね」


「いやだぁあああああああ! おねがいしますぅうううう! 助けてください! 許してくださいいいいいいいいい!」


 ニコは絶望の表情で、涙を流しながら、ルルイエの前で何度も土下座する。


 だがそんな姿を見ても、ルルイエの心が動くことは微塵もない。


 彼女の興味関心は、愛しい精霊の神子のみに向けられる。


「そうやって命乞いしてきた人たちを、さて、君は何人殺してきたのかな?」


 ルルイエが自分を救ってくれないと、ニコは悟った。


「じゃあね、エレンに楯突いた愚かな転生者。時の牢獄の中、刑期が終わるまで存分に極めると良いよ。……退屈と絶望をね」


 そう言って、精霊王は煙のように消え去る。


「う、うわぁああああああああああああああああああああああああああ!」


 ……その後、ニコは砂漠をひたすら走った。

 

 出口が必ずあるはずと、探し続けた。

 だが100年探しても、出口は見つからない。


「だしてぇ……だしてよぉ……」


 出口を探すのをやめたニコは、次に行ったのは、悔い改めることだった。


「おねがいします……反省しています……だから出してください……おねがいします……」


 だが250年たっても、脱出はできなかった。


「くそ! どうしてボクがこんな目にあわなくちゃいけないんだよ! くそぉお!」


 次に怒りをぶつけることにした。だがこれは1週間もすれば怒りが収まった。


「ぐす……うぇええええええん! うぇええええええええええええええん!」


 ニコは赤ん坊のように泣き続けた。だがこれも1週間もしないうちに、涙が涸れた。

「…………………………………………」


 ニコは仰向けに倒れていた。

 その表情は虚無の一言。


 彼がたどり着いたのは、無。

 すなわち、考えることをやめること。


 感情の波風を立てず、ただひたすらに自分を殺す。


 心頭滅却。なにも考えないということを、ひたすらに試行する。


 1000年、1万年、10万年と……ひたすらに【なにも考えないこと】を極めた。

 そして……1億年まで、あと数分まで来た。


「やった……」


 ぽつり……とニコがつぶやく。


「やった……やったぞぉ……」


 精神的に疲弊しきっていた彼は、しわがれた声で言う。


 喉が渇くわけでもないのに、年を取るわけでもないのに……彼の精神は、すっかり摩耗しきっていた。


「やっと……出られる……これで……出れる……」


 彼の目からこぼれ落ちたのは、脱出できるという希望の涙。


「もう……復讐とか……どうでもいい……ここを出れば……やっと、死ねる……」


 ニコはもう、死にたかった。

 この時の牢獄内では、決して訪れることのないもの。


「死ねる……はやく……ボクを……殺して、殺してくれぇ……」


 1億年まで、あと5秒。

 4……3……2……1……


「ああ、やった……やっと……でられる……」


 0……。1億。


「………………………………へ?」


 頭上に表示されていた時計が、0になった瞬間……また1億年に戻ったのだ。


「な、なんで……どうして……?」


『あ、言い忘れてたけど、君の刑期って1億年じゃないみたいだよ』


 どこからか聞こえてきた、ルルイエの声。


 ぽかーん……とした表情のニコ。


「なに……言って……?」

『頭上の時計は、1億年という時間をカウントするものであって、刑期が1億年じゃない。忘れたの?』


 ニコはいくら思いだそうとしても、思いだせなかった。


 それもそのはずだ。

 記憶を改ざんしたのだ……この、ルルイエという精霊王が。


『本当の刑期は10億年。つまり、このカウントダウンをあと9ループ繰り返すのが、君の本当の罰だよ』


「あ……あぁ……あぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 ニコは発狂したように叫ぶ。

 だが狂うことは、この空間ではできない。

「良かったね、あと9億年も鍛える時間があるじゃあないか。ほら♪ がんばれがんばれ♪ まあなにを鍛えるのか知らないけどね」


「殺して! 殺して! 殺してくれぇえええええええええええええええええええええええええええええ!」


 狂ったように殺してと叫び続ける彼を、ルルイエは冷たく見下ろす。


「君なんて所詮、スキルの力がなくなればただのザコなんだよ。分をわきまえろ、非力な人間が」

【※お知らせ】


先日投稿した短編が好評だったので、新連載としてスタートしてます!


「無駄だと追放された【宮廷獣医】、獣の国に好待遇で招かれる~森で助けた神獣とケモ耳美少女達にめちゃくちゃ溺愛されながらスローライフを楽しんでる「動物が言うこと聞かなくなったから帰って来い?今更もう遅い」」


https://ncode.syosetu.com/n1158go/


リンクは下に貼ってありますので、そちらからも飛べます!


頑張って更新しますので、こちらもぜひ一度読んでくださると嬉しいです!

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― 新着の感想 ―
[一言] 身体を鍛えればいいのでは?
[気になる点] ×もっとも思い罪人を閉じ込めて ⚪︎もっとも重い罪人を閉じ込めて
[一言] 一億年ボタンを連射した剣士「素振りだ、素振りをするんだ…」
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