117話 ヒール使いとの戦い
ある日のこと。
旅を続けるぼくに、王都冒険者ギルド長から、緊急の念話が入った。
『すまん、エレンくん。王都郊外に【古竜ベヒーモス】が現れた。手練れの冒険者で対処しようとしたがまるで歯が立たなかった。すまないが力を貸してくれないだろうか?』
ギルド長ジェイドさんからの依頼を受けて、ぼくは単独で、現場へと急行した。
不死鳥の大翼でいったん王都まで戻り、現場へと飛んで向かう。
『古竜か、遙か古来より生息する、強力なモンスター。SSランクと聞く。ただの人間にはキツい相手じゃの』
ぼくの肩に止まる、不死鳥のカレンが言う。
「うん、だから勇者の番だね!」
『困っている人がいれば、たとえ旅の途中であろうとこうしてどこからでも駆けつける。うむ、さすがエレン。真の勇者はおぬしじゃな』
現場へと到着、したのだが……。
「ど、どうなってるんだ……?」
『古竜が、死んでおるな』
森の中に巨大な竜が倒れていた。
顔は吹っ飛び、体中から血を吹き出している。
「冒険者達が倒したのかな?」
『考えにくいな。勇者以外に太刀打ちできる強さではないぞ、古竜は』
竜の死体から流れる血は、湯気が上っていた。
おそらく死亡したのはほんの少し前だと思われる。
「だとしたら、誰が倒したんだろ……? それに、冒険者のみなさんは……?」
と、そのときだった。
「た、助けてくれぇええええええ!」
森の木々の間から、鎧を着込んだ男が走って逃げてきた。
「ど、どうしたんですかっ?」
彼はぼくの前で倒れ込む。
「ひどい……右腕がちぎれてる。待っててください、すぐ治療します!」
不死鳥の炎を使い、ちぎれた右腕を再生させる。
男は安堵の吐息をついて、ぼくに言う。
「あ、あんたすごいな……腕を治すなんて。も、もしかして勇者エレン様!?」
「はい! そうです、なにかあったんですね?」
腕が切れても逃げてきたってことは、なにかそれ以上の窮地があったってこと。
身分を隠してなんていられない、勇者の出番だから!
「お、おれらは冒険者だ。依頼を受けてパーティを組み、古竜を倒しに来たんだ……そしたら、【あいつ】がやってきたんだ」
「あいつ?」
「あ、ああ……恐ろしいガキだった。一瞬で古竜を倒しやがった。け、けどそれだけじゃない……おれたちを……冒険者達を……!」
と、そのときだった。
ブシャッ……! と、冒険者さんの体が破裂したのだ。
「なっ……!?」
まるで空気を入れすぎた風船のように、彼が破裂したのだ。
『エレン、気をつけろ、敵の攻撃じゃ!』
ぼくの周囲の木々がバシュッ……! と破裂する。
大量に生えていた樹木達は消えて、視界が開ける。
「へぇ、ボクの【ヒール】を避けるんだ。結構やるじゃん」
少し離れたところに、木々のない開けた場所があった。
そして……そこには、大量の死体が転がっている。
「ひどい……」
死体の山の上に、【そいつ】はいた。
子供のように小さく、女の人のように線の細い人だ。
「はじめまして、ボクはニコ。転生者さ」
ニコはぼくを見て、ふぁあ、とあくびをする。
「来るの遅くなーい? 暇つぶしも飽きちゃってたところだったよ」
「暇つぶし……だと?」
にぃ、とニコが邪悪に笑う。
「う、うう……」
死体の山の近くに、虫の息だけど動いている人がいた。
「! ま、待っててすぐ治癒を!」
「は、させっかよ。【ヒール】」
ニコが手を向けて、力を発動させる。
すると虫の息だった冒険者さんの体が膨れ上がり、バチュッと破裂する。
「……おまえが、やったのか。さっきの人も、冒険者さんたちも、みんな」
「そうだよ。エレン、君をおびき寄せるための、道具に利用させてもらったんだ」
顔に血をつけた状態で、愉しそうに笑う。
「こっちからおまえ探すのめんどうじゃん? けどおまえは勇者だから、ピンチには駆けつける。だから冒険者達ぶっ殺してピンチを作り出したってわけ。いやー、ボクってあったまい~」
ぎゅうう、とぼくは拳を握りしめる。
「殺しすぎちゃったけど、ま、いっか☆ こいつらが弱すぎるのが悪いんだし~?」
「……なんで」
「あ?」
「何でそんな酷いことをするんだ! 治癒の力を持っているくせに! 人を傷つけるなんて最低だぞ!」
人を治す力は、傷付いた誰かを救うためにあるのに……。
こいつは……最低だ!
「はっ! 粋がるなよザーコ。悔しかったらこいつら治してみろよ」
「言われなくてもやってやるよ!」
「ばーか。ヒールを極めしボクだって、死者を蘇生させることなんてできないんだから、お前程度じゃ絶対不可能だろうけどね」
ぼくは背中に不死鳥の翼を生やして飛び上がる。
そして翼を大きく広げて羽ばたかす。
白炎でできた羽が周囲に無数に舞い散り、死者達に降り注いだ。
炎の羽は死んだ彼らの、壊れた肉体を瞬時に元通りにさせる。
「う、うう……」
「おれたちは……いったい……?」
むくり、と倒れ込んだみんなが起き上がり出す。
「そ、そんなバカなぁあああああああああああああああああ!?」
死体の山から転げ落ちたニコが、愕然と周囲を見回す。
「し、し、死者の蘇生だと!? そんなばかな! ヒールを極限まで鍛えたボクにさえ、なしえなかったというのに!」
『神子たるエレンの治癒の力は、死者すら蘇らせるほどに進化しておるのじゃ。さすがはエレンじゃ』
『ま、ちんけな君のちんけな努力など、圧倒的な力の前では無意味、ってことだよ』
ルルイエさんの声がどこからか聞こえた。
「チンケな努力だと……ボクの死ぬ思いで鍛えたヒールを、馬鹿にしやがって!」
「みんな、町に戻ってるんだ! こいつは……ぼくが倒す!」
ぼくは冒険者達を、不死鳥の大翼で王都へと転移させる。
「調子載ってんじゃねえぞガキぃ! このボクがお前程度に倒されるわけないだろぉ!」
「ぼくは負けない……! 君みたいな酷い人を、絶対許さない!」
「ハッ! 死ねやぁ!」
ダンッ……! とニコが地面を蹴って近づいてくる。
一瞬で距離を詰めて、懐に入り込む。
「おらしねぇ!」
強烈なボディーブローを……しかし、ぼくは片手で受け止めた。
「なっ!? ば、ばかな! 極限まで強化した拳を、見切るだと!? け、けどばーか! 手を掴んだのが運の尽きだなぁ!」
額に汗をかきつつも、ニコが歯をむいて笑う。
「ゼロ距離からの【ヒール】が最も効果あるんだよぉ! くらえ、過剰活性による細胞破裂を! 脳漿ぶちまけなぁ!」
ニコはボクを見て言う。
「【ヒール】……!」
しーん……。
「なっ!? そんな……【ヒール】! 【ヒール】! ひーーーるぅうううううううう!」
ニコが何度も叫ぶが、しかし何も発動しない。
「どうなってるんだよぉおお!」
「たぁ……!」
ぼくは逆にボディーブローをニコにたたき込む。
「ほげぇええええええええええ!」
彼は吹っ飛ぶと、空中でクルクルと回転しながら、ぐしゃりと地面に倒れた。
「な、なんで……どうして……【ヒール】! くそ……発動しない……【ヒール】! 痛い……いたいよぉ……【ヒール】……【ヒール】ぅうう……!」
治癒を使えるというのに、彼は傷付いた体を、動かせないようだった。
ぼくは彼に近づいていく。
「く、来るなぁ……ひ、【ヒール】! このっ! 発動しろ! 発動しろよぉ! ヒール! ヒールぅ!」
「もう、やめにしよう」
ぼくは癒やしの炎で、ニコの体を治す。
「おとなしく捕まって、罪を償って」
「ちくしょぉ……ちくしょぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
涙を流した彼がぼくに突っ込んできて、ぽかぽかと胸をたたく。
あまりに非力なパンチだった。
ぼくは彼の首の後ろに手刀を軽く打ち込むと、がくん……とニコが倒れる。
「く、そぉ……ボクの、ヒールが……なんできかないんだよぉ~……」
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うっひょー! エレン強ええええ! 最☆強!
このガキ、スキルを鍛えたことが自慢だったようだけど、無駄な努力だったね。
スキルの使用権限を剥奪したんだよ。
さぁて、あれだけエレンをこけにしてくれたんだ。
ちゃんと、ペナルティを与えてあげないとね。
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先日投稿した短編が好評だったので、新連載としてスタートしてます!
「無駄だと追放された【宮廷獣医】、獣の国に好待遇で招かれる~森で助けた神獣とケモ耳美少女達にめちゃくちゃ溺愛されながらスローライフを楽しんでる「動物が言うこと聞かなくなったから帰って来い?今更もう遅い」」
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