116話 女神ユゴス、転生者に何度も痛めつけられる
勇者エレンが転生者サブローを撃破した。
その様子を、遠方より女神ユゴスは見ていた。
何もない白い空間にて。
テーブルに置かれた水晶玉を、彼女は見やる。
水晶は遠くの映像を映す魔法道具だった。
サブローが炎にあぶられて消し炭になる様が映し出されている。
「ハッ……! ざまぁみなさい! わたくしを辱めるからこうなるのです!」
醜く歪んだ笑みを浮かべユゴスが叫ぶ。
彼女はサブローに散々体をもてあそばれたあげく、ボロ雑巾のように捨てられたという屈辱の記憶がある。
「当然の報いです! 地獄に落ちろこの醜い豚め……!」
と、そのときだった。
「いやぁ、女神ちゃん、結構良い性格してるじゃーん?」
誰かが、この白い空間にやってくる。
「なっ!? なぜあなたがここに……【ニコ】!」
それはかつて、ユゴスが招集したときにやってきた、4人のうち1人だった。
小柄で、ともすれば女に見えなくもない容姿をしている。
「ここは女神以外立ち入れないはず!」
「【フィーア】ちゃんに送ってもらったんだよ」
「フィーア……?」
「あの場にいた4人のうち、黒いフードかぶった人だよ」
ハジメ、ニコ、サブロー、そして最後のフィーア。
ギリッ……と女神が歯がみする。
「わたくしの不可侵結界が、何度も破られるなんて……!」
だがユゴスはすぐに取り繕って、上から目線でニコに言う。
「誰の許可を得てこの場へ踏み入れたのですか?」
「うっわ、相変わらずえらっそうだねあんた」
やれやれ、とニコが呆れたように首を振る。
「当然です、わたくしはあなたたち下等なる人間とは違う選ばれし存在、神なのですからね」
「ふーん……あっそ」
「ところで、何をしに来たのですか?」
ニコが用事もなくこの場に来るとは思えない。
「先日の失礼な態度を謝りに来たのでしたら、今この場で頭を下れば許してあげなくもないです」
「……うっざ」
吐き捨てるようにして、ニコがつぶやく。
「なんですって?」
「うざいって言ったんだよ、おばさん」
ユゴスの頭に血が上り、顔が真っ赤になる。
「無礼者! 女神に向かってなんですその口の利き方は!?」
「口の利き方がなってないのはそっちっしょ? あんた、女神としての力ほとんどないんでしょ?」
表情を一転して、青ざめた顔になるユゴス。
「な、何をバカなことを……」
「うっわ、図星なんだ。うわーバカだね~おばさん」
ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべて、ニコが言う。
「この程度の鎌かけにひっかかるとかオツム足りてないんじゃない?」
「め、女神への数々の暴言……万死に値する!」
「へー、じゃあ殺してみなよ。なぁ?」
ニコが余裕の表情で、女神ユゴスに近づいてくる。
彼女はバッ……と右手を前に向けて、魔法を発動させようとする。
「クソッ! このっ!」
「ほーら無理じゃん。理屈はわからないけど、あんたが今、虫けらにも劣る存在だってことは証明されたね。お間抜け女神さん♡」
「この……言わせておけば! あなただって虫けらのくせに!」
ユゴスは水晶玉に触れる。
そこには過去の映像も記録されている。
ニコが異世界へ初めて連れてこられた日の映像も、バッチリ写っていた。
「あなたの器はたったの10! 与えた恩恵は【小回復】のみ」
フンッ……! と馬鹿にしたように彼女が鼻を鳴らす。
「相手をただ少し回復させるだけのゴミ能力しか持っていないくせに、偉ぶらないことですね!」
だが、ニコはニヤニヤ笑いを止めなかった。。
「ゴミ能力……か。ねえ女神さん、あんたちょっと人間舐めすぎてない?」
ぎゅっ、とニコが拳を握りしめる。
「与えた才能がザコだろうと、人間はどこまでも進化できるんだぜ? こんなふうに……!」
ニコは振り上げた拳を、女神に向かって……超高速で振り下ろす。
「なっ!? は、はや……うげえ!」
神速の拳が女神の腹部をなぐりつける。
ユゴスは体を【く】の字に曲げて、うしろへ吹っ飛んだ。
「ぶぎゃっ……!」
壁に激突し、その場に崩れ落ちる。
「ば、バカな……おかしい、あなたは……ヒールの力しか持っていない。なのに、なんですか、この怪力は!?」
「そうだよ。ボクにはヒールの力しかない」
すたすた……とニコが近づいてきて、ユゴスの前で言う。
「だから極めたんだよ。【ヒール】の力を、最大限」
ぴた、とニコが倒れ伏す女神の肩に触れていう。
「【ヒール】」
ぱぁ……と緑色の光がユゴスを包み込む。
「な、なにをしてる……? ダメージを与えた相手を、回復させるなんて?」
「回復だけが、ヒールの使い方じゃないんだよ。お馬鹿さん」
そのときだった。
ブチュッ……! と何かが破裂する音がした。
「へ……? い、いぎゃああああああああああああああああああ! 腕が! わたくしの、腕がぁあああああああ!」
ユゴスの腕がいつの間にか破裂していたのだ。
痛みで彼女はのたうち回る。
「ヒールの力は、細胞を活性化させ、再生能力を向上させる力なんだ。傷付いた細胞を再生させれば元通りになる。けど健常な細胞にこうして過剰に再生させれば、活性化しすぎた細胞は原形をとどめられなくなって破裂するって寸法よ!」
「早く治しなさい! 治しなさいよぉおおおおおお!」
ニコは嗜虐的に笑うと、うなずいて言う。
「【ヒール】」
バチュンッ!
逆側の腕と両足が、過剰活性によって吹き飛ぶ。
「うぎゃあぁああああああああ!」
「あははっ! だるまさんみたいだねー。無様無様!」
痛みでのたうち回るユゴス。
「【ヒール】」
一瞬で傷が塞がり、また失った四肢が再生する。
「ぜぇ……はぁ……た、たすかった……?」
「まさか。これで終わりなわけないでしょ?」
ニコッと笑って、ニコが言う。
「土下座しろ♪」
「………………は?」
「【お願いしますニコ様。今まで偉そうにして申し訳ございませんでした】って、土下座しろ」
実に愉快そうにニコが笑う。
「そしたらエレン討伐も、考えてあげてもいいかなーって」
「ふざッ……! けんなぁ……! 異世界に呼んでやった恩も忘れやがって! 調子載るなよサル風情がぁ……!」
立ち上がってユゴスは殴りかかろうとする。
「【ヒール】」
バチュンッ……! とまた四肢が過剰再生によって破裂する。
「いぎぃいいいいいいいいいい!」
ヒールの力によって回復はすれど、痛みが消えるわけではない。
四肢を失い、尺取り虫のように地面を転がる。
「もしもーし? 力関係理解してますかー? おまえ、下。ボクが上」
「ふざけたこと、抜かせぇ……! 神が人間より下の訳がないだろぉおお!」
「下なんだよ。今この場に置いてはね。【ヒール】」
ボコッ、とユゴスの顔面の血管が膨れ上がる。
「な、なにを!? なにをした! なにをしたぁあああああ!?」
「ん? 整形してあげたよ☆ 血だまりに写った、新しい自分の顔みてごらんよ」
吹き出した大量の血が池を作っている。
水面に映るその姿を見て……ユゴスは絶叫した。
「うぎゃぁああああああああああああ! いやぁああああああああああ!」
「あははっ♪ おにあいだよその顔。サブローそっくり」
そう、顔だけがサブローになった、ユゴスがここにいたのだ。
「再生の力をいじって、体の細胞の配列を整えれば、こうして姿形も自由自在ってわけ」
「お、おげぇえええええええ!」
ぶしゃっ、とユゴスは吐瀉する。
サブローに犯されたときの記憶がフラッシュバックしたのだ。
「も、もどじで……もどじで……」
「戻して? ください、だろ? 敬語使えよオバサン」
ギリッ、とユゴスは歯がみする。
ニコへの殺意を向けるが、しかし現状彼を始末するすべはない。
「一生そのままの姿で過ごすの?」
「…………………………もどして、ください」
「は? 声が小さいなぁ……!」
ニコは拳を握りしめると、女神の腹部を蹴りつける。
今度は天上へと吹っ飛ばされる。
「自分の細胞を活性化させ、筋肉を一時的に肥大化させればこうして怪力も発揮できるって寸法だよ」
べしゃっ、と女神が落ちてくる。
ぴくぴく……と彼女は白目をむいている。
「【ヒール】」
一瞬に、サブローの顔でもなくなっており、元の綺麗な女神の姿になっている。
「この力いいよねぇ。拷問に、すごく向いてるんだ☆」
ニコニコと笑いながら、彼が近くでしゃがみこむ。
「ひっ……! ゆ、許して……ゆるしてぇ……!」
「許してください、だろ。まったく本当に敬語が使えないんだね。生まれたときから神だから偉そうなの? 【ヒール】」
ボシュッ……! と体が破裂して、瞬時に再生する。
「今から君を調教してあげるよ」
「ちょ、調教……?」
「そ♪ 二度とそんな偉そうな口聞けないように……ね」
涙で顔をぐちゃぐちゃにしたユゴスが、這いつくばって逃げようとする。
「ひぃいいいいいい!」
「逃げんなよ。【ヒール】」
足が吹っ飛ぶ。
「さ、君が謙虚さを身につけるまで拷問は続けるよ♪ 君のお高いプライドは、あと何回でへし折れるかな?」
スッ……とニコが手を差し伸べる。
「【ヒール】【ヒール】【ヒール】【ヒール】【ヒール】【ヒール】【ヒール】【ヒール】【ヒール】【ヒール】【ヒール】【ヒール】【ヒール】【ヒール】【ヒール】【ヒール】【ヒール】【ヒール】【ヒール】……」
「うぎゃぁああああああああああ…………!!!!」
その後、ニコは女神に依頼されて、エレン討伐に参加することになったのだった。
「待ってな勇者エレン。ボクの極めた最弱の力で、おまえの最強の力を打ち破ってみせるよ」
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そんなことさせるかよ、バーカ。
分をわきまえるのはそっちだよ。
恐れ多くも僕のエレンに楯突こうとするんだ。
自分もまた悲惨な目に遭うことを、覚悟しておくんだよ、転生者ニコくん?
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「無駄だと追放された【宮廷獣医】、獣の国に好待遇で招かれる~森で助けた神獣とケモ耳美少女達にめちゃくちゃ溺愛されながらスローライフを楽しんでる「動物が言うこと聞かなくなったから帰って来い?今更もう遅い」」
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