chapter 03 [dinner]
誰だろう。ラウンジチェアで女の人がシクシク泣いている。両手で顔を覆っているからどんな人なのかも判らない。
呼びかけても返事はなく、近づいて肩を叩いたその時――。
(ここは――)
僕は目覚めた。
真っ先に僕の視界に飛び込んできたのは天蓋付きの広いベッドだ。
ここは自分のお部屋じゃない。
(――えっと)
何が起きたんだろう。
たしか昨日、村長さんに屋敷へ行くよう頼まれて父様にお別れを告げて、それから――。ああ、そうだ。ここは例の幽霊屋敷。僕は今日から殺されるまでの間、住み込みで働くんだった。
(じゃあ、気を失う直前に見た男の人は?)
オリーブ色の目にブロンドの髪。とてもハンサムな男性。
あの人、僕、知ってる。夢の中に出てくる男の人そのままだったから。
(ううん。そんなわけないよね。きっとまたあの男の人の夢を見たんだ)
そして夢の中の出来事を現実にあったことだと思い込んだだけだ。
(それよりも僕はいったいこのお屋敷で何をすればいいんだろう)
室内を見回しても掃除道具は一切見当たらない。
ふと窓を開けると、外はふくろうが寂しげに鳴いている。昨日よりもちょっぴり膨らんだお月様が見える。外は夜だった。
「大変! 寝過ごした!!」
まさか丸一日寝ていたなんて想像もしていなかった。慌ててベッドから飛び起きると、部屋にひとつしかない出入り口へと走る。
それはそれはとっても慌てていたから、勢いよくドアを開けた。すると目の前に、白髪の髪を後ろに撫でつけた執事のサキュロンさんが立っていた。彼は初め驚いた様子で僕を見下ろしていたけれど、コホンと咳払いをすると静かに口を開いた。
「ご主人様が晩餐室でお待ちかねです。こちらにお着替ください」
サキュロンさんの腕にお洋服一式が引っかけてあった。
(えっと――……)
「このお洋服を、僕にですか?」
サキュロンさんから手渡されたお洋服はレースがついたチュニックとチェック柄のジレ。膝丈のキュロット。これらは全部シルクでできていた。
生地はしっとりした手触りで心地好い。だけど僕はこのお屋敷では使用人。当然、こんな高価なものを着られるわけがない。けれども主人の命令ならば仕方がない。だって見窄らしい格好じゃかえって機嫌を損ねてしまうかもしれないもん。
(……ご主人様が怖い人だったらどうしよう)
――ううん。幽霊屋敷って言われているくらいだもん。きっとものすごく怖いに決まっている。
どうあっても与えられた仕事を真っ当しなきゃ。だって僕がヘマをすれば、きっと村にいる父様や皆が呪われるかもしれないんだ。
でも、僕ってばここへ来てたった一日で寝坊というヘマをやらかした。どうしよう。やっぱりお仕置きとかされるのかな。僕だけならいい。僕がやらかした失態だから。でも父様や村の人達に迷惑がかかるのだけはなんとかしなきゃ。
(どうか怒りの矛先が僕以外の人達にいきませんように)
着替えを終えた僕は、そう心の中で祈りながら、サキュロンさんに案内されるがままご主人様がいる晩餐室へと向かった。




