結び・慕情
なんと美しい景色だろう。
蛍が夕闇を縫うようにして飛んでいる。そして自分の隣には好きな人がいて、この景色を見ている。
そんな他愛ないことが、千景にはとても嬉しかった。
「今年はこれで勘弁してくれ」
そう言って、桶と一緒に取り出したのは線香花火だ。
千景は虎次郎と初めて会ったその日に花火が見たいと言ったのを思い出した。
やがて虎次郎によってこよりの先に炎が灯る。
ぽうっと炎の花が静かに咲いた。
なんて綺麗なんだろう。
「……好き、です」
気がつけば、千景は虎次郎に想いを打ち明けていた。
それはきっと、自分の恋心と線香花火が似ていたからだ。
静かに燃ゆる千景の恋。
この線香花火にも似た美しい炎が気がつけばいつの間にか千景の心に灯っていた。
つい口走ってしまったけれど、訂正する気はない。
だって訂正してしまえば恋心が偽りになってしまう。
自分の気持ちを誤魔化すこともできないほど、千景の心には虎次郎でいっぱいだった。
――ああ、けれども彼はもう二度と自分に近づこうとしないだろう。
そう思うと千景の胸が痛む。
手元を見れば、千景の花火は消えている。まるで自分の結末を表しているようだと、千景は思った。
「ごめんなさい、気持ち、悪いですよね」
あんなに虎次郎の顔が見たいと願っていたのに虎次郎の顔が見られない。
目頭が熱くなる。泣きそうだ。
千景は長い沈黙に我慢できず、腰を上げた。直後、虎次郎は静かに口を開いた。
「千景……おれもだ。一目惚れと言ったら信じるか? 綺麗な容姿はもちろんだが、過酷な状況でも少しも擦れていないお前に惚れた。なあ、おれとお前。お前のかかさんで畑を作って一緒に暮らさないか」
「虎次郎様はお旗本です。それは無理というものです」
「そうでもない。刀を捨てて農民になる侍だっている」
「でも!」
同性の恋はどうやっても実らない。
「好きだ。おれはお前を抱きたい」
「抱っ!?」
「千景、三つ数える間に返事しろ。いぃち、にぃい」
「そんっ、急に言われても!」
千景を急かす。その間にも、虎次郎は止まらない。三つを数え終わる直前――千景はとうとう音を上げた。
「はい!」
すっかり混乱している千景は大きく頷いた。
虎次郎は満足げだ。
「……もう」
虎次郎には振り回されっぱなしだ。しかしそれさえも嬉しいと思うのは、惚れた弱みというやつだ。
これから自分は虎次郎と一緒に住む。
そう思うと、千景の胸の奥に熱が灯る。
千景は新たな線香花火に手を伸ばす。虎次郎の花火から火をもらうと、やがてこよりの先に花が咲く。千景は美しい花を散らすそれをうっとりと見つめた。
完




