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天・術
「さあ、ゆっくり目を開けてください」
先生に優しく促され、千景は瞼を開ける。すると間もなくしてぼやけていた視界はやがて焦点が合う。
「千景……」
目の前には痩せ細った女性がいる。この優しくあたたかな声には聞き覚えがある。
「かか、さんですか?」
「千景……ああ、目が見えるのね。先生、ありがとうございます、ありがとうございます」
感動のあまり泣き崩れるお仲を、助士を務めた女性が宥めている。
「千景、おれが判るか?」
母親に続いて千景に声を掛けたのは、一人の青年だった。
この声には聞き覚えがある。視界を上げる。年の頃なら二十五あたり。肩までの髪を後ろで結っている。背の高い、涼やかな双眸をしたこの男はもしや――。
「虎次郎様、なの?」
「やった! 成功だ!! 先生、ありがとうございました!」
虎次郎と思しき彼は、おそらく自分の目を治療してくれた医師だろう白衣を着た老人の手を握り、喜んでいる。
目が見えるようになったその日から、あんなに病弱だった母親のお仲の体調がずっと良くなり、今では動けるほどに回復していた。
この調子なら金貸しから肩代わりしてくれた借金も、千景の目の治療費だって虎次郎に返せる日が来る。
千景は信じられない気持ちでいっぱいだった。




