番外編 城島礼
何が間違っていたんだろう。
俺は、何も悪くない。 悪いのは俺よりも学も才能に恵まれていた早乙女桜だ。
最初にあいつを見つけたのは、葉様の女と一緒に欧州に連れて行かされた時だ。妖精と呼ばれる少女が出ると言うコンサートに、無理矢理行かされた。
「今日はヴァイオリンもピアノも聞きたくない!」
子供だった俺はそうダダをこねるた。
周りの大人達は「今日のお稽古はキャンセルですから、このコンサートでしたら坊ちゃん達にとってとても刺激になりますよ」そう押し付けられ連れて行かされた。
初めなんだあのチンチクリンは?巨匠のルッソーと一緒に手をつないでくる事自体、可笑しいだろ!
周りの客達も、ステージに立つ彼女を見て誰もが微笑んでる。
「今日はどんな魔法をかけてくれるのかしらね」
は?あいつらバカか?
魔法なんてこの20世紀あるわけないだろ!
そう鼻で笑っていた僕はピアノもヴァイオリンもそこそこ弾ける優秀な子だ。
だから、どんな子供が出るのか興味はあった。
つまらないコンサートだったら、すぐに出て行ってやる。
そうほくそ笑んでた。
そんな僕の計画を見事に崩して行ったのが、ティンクだった。
なんでだ…? 僕だってコンクールくらい入賞したことくらいあるんだ!なのに、なんであの子の音は、僕と違うんだ?
今まで僕が持っていた音楽に対する誇りが一瞬で塵になった瞬間だった。
「おい、あの子は誰だ?」
葉様の人間に調べて来いと言うと、彼らはすぐに調べて来てくれた。
「彼女の名は、ティンク。坊っちゃまと同じ10歳です。ピアノとヴァイオリンを弾かれるそうです。今度はピアノのリサイタルもあるらしいので行ってみらしてはどうですか?」
「うん、そうする」
「かしこまりました」
ティンクのピアノリサイタルにも顔を出した。
そこでも彼女は絶賛されていた。ティンクはピアノは苦手らしいと葉様から聞いていたが、それだってプロとしてやって行けるくらいに上手かった。
街を歩けば新しい音楽が溢れる。それらの殆どがティンク作曲とくれば、僕は彼女が欲しくなった。
僕にはない才能。僕にはない技量。それらを全て僕の物にするには…。
こうして僕は彼女を自分の物にするべく、作戦を練った。
自分には音楽の才能なんてない。だけど人の才能を引き抜く能力はある。
それに気付いた僕は、早く蝶が蜘蛛の巣にかかるのを今か今かと手をこまねいていた。
高校になってティンクが同じ高校にやって来たことを知った。
だが近づこうにも、真田真琴が邪魔をして彼女に近づきも出来ない。
そうこうしている内に、僕は高校を卒業し、付属の大学へと進んだ。葉様の調べではどうやらティンクこと早乙女桜もこの大学に来ると言う。
そうして時は満ちた。
キャンパスで迷子になっていた早乙女を見た時は、神が降臨したかと思ったほど感動した。僕はすぐさま彼女を確保するとデートに誘った。それまで色んな女性との浮き名を流していたから、女の扱いは慣れてた。
花束やカードを贈れば、彼女の心も僕に向いて来た。
「君と付き合いたいんだよ。結婚を前提に」
そう囁けば、大概の女は目を輝かせる。なんせ、今の僕には株で儲けた金と城島と言う音楽界でも指折りの名家がある。
どんな身持ちの固い子でもすぐに僕に体を預けた。
桜もそうなるはずだった。
だが、何度誘っても桜は体を開いてはくれない。
そこで、大学祭で色々な人に票を操作させ、晴れて僕と桜は大学でも公認のベストカップルになった。
その後は煩い真田から彼女を引き離すため、留学することを勧めた。
もちろん、僕も一緒に。
そして、僕らは結婚した。
子供にも恵まれ、幸せだった。でも僕が欲しかったのは子供なんかじゃない!僕が欲しいのは、彼女の書き貯めた作曲ノートだ。あれさえあれば、一生遊んで暮らして行ける。
でも、桜は誰にもそのノートを見せたことはない。夫である僕にも。
そんな時に、ベビーシッターのテレジアと知り合った。一目彼女を見た時から、彼女が僕と同じ臭いがすることに気付いた。
彼女と話しているうちに思い出したのは、十年前にフランスに観光しに来た時に、ナンパした女だったことに気がついた。
そして、その時の子が今はテレジアの甥ルーファだ。思わぬ家族の再会に三人して喜んだ。
僕たちが幸せになるには、桜が邪魔だ。
そして、子供も。
なら……子供を誘拐してしまえば良い。
そう言って来たのはルーファだ。僕たちは計画を練り、現場をフランスではなく死刑制度のないイギリスを選んだ。
ここならば、警官であろうとも拳銃を持たない。
実行犯は、ルーファ。
そしてルーファは警察に捕まってもすぐに釈放されるように、裏で警察との取引までしておいた。
警察でも中身は人間だ。集団になれば、金に困ってる奴らなど山ほどいる。その中でも地位も高い男を選んで、金と交換すればいいだけ。
子供は計画通りに誘拐された。身代金は金と桜の作曲ノート。
金なんて別に良い。僕に今必要なのはあのノートだけ。
子煩悩な桜はすぐさま犯人の要求に応えた。警察の方はそれはあまりにも安直すぎると非難していたが、余計なことを言うなと僕は心の中でその刑事を罵った。
全ては計画通りにことが運んだ。
ただ、失敗だったのは、子供が死んでしまったこと。
それで桜は呆然としてた。それでも桜には稼いでもらわないと。
すぐに僕は彼女の演奏旅行のスケジュールを立てると、出立させた。
その間に彼女の祖母の屋敷の所有権を僕の名に書き換えると、テレジアを住ませた。すでに僕とテレジアの間には子供がいる。
一度は捕まったルーファも即日釈放され、今は親子四人でこの屋敷に住んでいる。
僕は作曲ノートを見ながら、日本での活動のためにと自分の名前で桜の曲を次々登録して行った。
城島の名前はこの十年間の間に日本では知らない者はいないと言われるほど、僕の力は強くなった。
もう何も恐れる者などない。
たった一つを除いて。
僕の妻であるティンクこと桜。
僕の家族のために彼女には死んでもらわなきゃね。
彼女と顔を合わせる度に罵声を浴びせ、「お前が僕の子を殺したんだ。」「人殺しだ」「君が僕に償えるのは僕に従え」「ひれ伏せ」「泣くな、感情を殺せ。君に出来るのは、ヴァイオリニストとしてだけだ」そう洗脳させた。
彼女は演奏旅行の最中に流産したらしいけど、それさえも僕には痛くも痒くもなかった。ただ「そうか…。君はまた殺したんだね」そう彼女の耳元で優しく囁いただけ。
ようやく彼女が壊れ、ヴァイオリンを持てないほどに衰弱した時は、神に賛美したほど嬉しかった。
これで全てが上手く行くと。
実際、上手く行った。
その栄華も十年でピリオドを打つことになった。
決めてはルーファのお喋りだ。
昔からよくたわいのないことまでペラペラと喋るヤツだと思っていたが、十年前の事件のことまで事細かに当時の彼女に話していた。
そのことから、僕たちにまで被害が及んだ。
僕は殺人容疑、テレジアは殺人擁護としてルーファを匿ってた罪を問われ、僕たちはそれぞれ刑務所にいる。
テレジアとの間に出来た子供は、たまに会いに来てくれる。
とても可愛い子だ。この日も面会日だった。
そして、あの子は無情にもテロに巻き込まれなくなった。
「*****!!!!」
僕は喉が張り裂けるほどに声をあげ泣いた。
天に唾を吐けばそれは自分に帰って来る。
無気力の僕は愛する我が子を亡くし、食べることさえも出来なくなった。
その二年後僕は誰にも見とられることなく、一人寂しく旅立った。




