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18話 加筆(8/22)

新倉浩之視点は前半で、後半は真田真琴視点です。

未成年による誘拐、殺人、流産の描写があります。

『サクラと会いたいならのいつものところ(◯◯ホテルのラウンジ)に七時に来い。時間厳守』とお前はどこの教官だよ突っ込みたくなるような内容の電話がかかって来た。

しかも言いたいことだけ伝えるとこっちの都合も聞かずに切りやがって。

こんなヤツが彼女の親友じゃなかったら絶対に耳をかしたりしないんだがな。


やっと彼女に会える!!

話が出来る!もしかするとその後のことも…そう考えるだけで顔がにやけて来た。


善は急げだ!そう思って仕事もいつもよりもやる気一〇〇〇倍でこなして来た新倉は、急いで待ち合わせのホテルラウンジへと向かった。

いつもなら、客で賑わってるはずなのだが…。

今夜に限って閑古鳥が鳴いている。

もしかして、遅刻したかと思い腕時計で時間をチェックしていた新倉の後ろから女の声がした。

「よろしい。五分前行動だったわね。何よその顔。美人がここに居るんだから笑顔でも見せなさいよね。全く…サクラならここには来ないわよ。新倉くん(. .)

まるで嫌みを言ってるみたいに上から目線のこの女は、俺は昔から苦手だった。

真田真琴ー真田商事の社長令嬢。この女は本当に口から生まれたんじゃないかと思うくらい、口が達者だ。

営業を経て、今は秘書として父親の仕事の補佐をしていると聞いたが、本当の所は彼女の方が父親の仕事をこなしているんだろうと思うほど、コイツはアグレッシブなヤツだ。

一度、俺の祖父が『お前の婚約者候補に真田家の姫君を押したいがどうだ?彼女はお前とは違って、常識を弁えとる。ふわふわと危なっかしいお前の手綱をしっかりとってくれる真田の姫君は良いと思うんじゃがな』と言って来た事があったが、もちろん俺もあいつも即断で断った。

冗談じゃねぇ!あんな跳ねっ返り娘を貰う男なんているわけないだろう!

俺たちは互いに似過ぎてる。

それは恋人と言う甘さよりも、同士とか兄弟と言った感覚だ。


「お前…真田か…」


俺の口調が一気に空気を下げたのに気づいた真田は肩を竦めた。


「あら。お言葉ね〜憧れのルッソ様からの『お願い』って言うから来てあげたんでしょうが」


ここでもまたあのエロ爺かよ。

すでにおっさんから格下げされたルッソ。

来てあげたのは俺の方だと言わなかった自分を褒めてやりたい。

こいつにそんな事を一言でも言ってみろ、三倍にして返されるのがオチだ。

今は我慢だ我慢。


「全くルッソ様からの頼みじゃなかったら、絶対ずぇーったいにあんたなんかに私のサクラの過去なんて話したくないわよ。それを猿のあんたにでも分かりやすいように『ティンク』の過去を話してやれって言われたから来てあげたんだからね。ルッソ様と私に感謝しなさい!」


むっとした顔で真田を睨みつけると、何よ本当の事を言って何が悪いのと反対に凄まれた。

初っ端からいきなり人を猿呼ばわりして来たこの女のどこが常識女なんだよ。


おっさん(ルッソ)に感謝するんなら解るが、なんでこの俺様がお前なんかに感謝しなきゃなんないんだよ」


ルッソをただのおっさんと言い切った新倉に真琴はプチンときれてしまった。


「あ〜ら、そもそもの原因はどこかの バ カ がほら吹き尻軽女の葉様と似非大作曲家の城島礼の口車なんかに、バ ッ カ みたいに乗せられて引っかかるからでしょうが。自分のケツも拭えない バ カ のくせに何言ってんのよ!」


これには何にも言い返せない…。

何だよ。さっきから人の事をバカバカバカと連呼しやがって。もういい帰ってしまおうそう思い立ち上がった時、見せられたんだ。胸くそ悪くなるような男の隣で天使のように微笑んでる彼女の写真を。


ほら、これ見せたげる。


バサッと乱暴にテーブルの上に投げ置かれたのは数枚の写真。


「ルッソ様にお願いって言われたからここまでやってんだからね。言われなかったらあの子の秘密は墓まで持って行ってたわよ」


ー秘密って何だよ。しかも墓まで持っていくだと?


その一番上には幸せそうにヴァイオリンを構えている桜と城島礼のツーショットの写真。

へぇ〜城島ってヴァイオリンも弾けたのか、意外だな…てっきりピアノ一本かと思ってたのに。

ていうか…何でこいつら一緒に写ってんだよ! プルプルと写真を持っている手が震えた。

破ってもいいよな。


「これって…」


やばい、声が裏返った。


「あーそれって大学の学祭でのベストカップルの時の写真。まあこの時まだ二人とも付き合っていたしね。もちろん私は反対したわよ。糸先輩も。純情だったサクラは城島の周到な罠に落ちたのよ」


だって、城島はヴァイオリン弾けないし。音楽家の才能なんてゼロだし。


「な!!」


文句を言いたかったが、悔しそうな表情でカリッと親指の爪を噛んで眉を潜めた真田に何も言えなくなった。


「……」「……」


おい、ちょっと待てこいつさっき重要な事を言ってなかったか?

『周到な罠だ』と?


「おい。今言ったことは本当なのか?城島はヴァイオリン弾けないって、それに音楽の才能なしって本当か?」


はぁーっと大きく溜め息を吐いた真田は漸く気づいたかと言うような目で新倉を睨んだ。


「あんた遅!!」

「何だよそれ」

「バカ殿は吊り橋現象って知ってる?」


ありがとと糸井に蕩けるような笑顔を見せた真田は男並みにハイボールを呷った。それを横目で見ながら俺はショートショットグラスに注がれたウォッカを呷ると眉間の皺を深く寄せた。

喉がひりひりと焼け付くように熱い液体はゆっくりとその熱を放出させながら胃へと降りて行く。


「バカ殿って俺の事かよ」


ふふんと真田は新倉をバカにしたように鼻で笑っている。

糸ちゃんおかわりね〜とバーテンダーにハイボールのおかわりを頼んでる。


「そうよ。今まで桜の仕事の足を引っ張ってばかりのバカ猿だったあんたは、周りの事も見えない。ただのバカな猿山の大将よ。」


なんで、こいつがその(俺が桜にばかり仕事を振っていた)事を知っているんだ?

産業スパイでも徳永(うち)に紛れ込ませたのか?


「だからバカって言ってんのよ。そんな面倒臭い事するわけないじゃない」


怪訝そうな新倉の表情を見て真琴は鼻で笑った。


「あんたってポーカーフェイスもできないほど、直情のバカだったんだ。そんなことじゃあ今に部下から足下を掬われるわよ。あ、足下掬われてたから小手先だけの尻軽葉様の口車に乗せられたんだっけ」


俺…コイツには絶対勝てない…。

なんせ目の前のこの女は真田商事の次期社長で、俺よりも若いくせに自社の経営の立て直しをはかり、それが物の見事に上手く行った。

俺の親父や祖父までもこの女の経営手腕を買ってて、一時は俺に彼女との婚姻を結ばせようと画策していたこともあったくらいだ。


ポーカーフェイスくらい覚えなさいよね。

情報って言うのはね、産業スパイだけが持ち運びする物じゃないのよと笑いながら話す真琴に新倉は眉を顰めた。


「じゃあ、どこからその情報が流れたと言うんだ」

「自社からって事は思いつかないのかしらね〜。真田商事と徳永音楽機器とは女子社員同士の交流の場があるからね〜何でも筒抜けなのよ」


偉そうな事を言っているけど、な〜んだただの合コンかと新倉は呆れて目をぐるりと回した。


「あんたはただの合コンだとバカにしているかもしれないけど、結構女子はトイレで自社の情報をバラしてくれるのよね。あんたが毎週金曜日には必ず定時ギリッギリでサクラに書類をバッサと押し付けてるのも知ってるわよ」


ぐっ!!


「そうそう、総務課長が机の引き出しの中に甘味を置いているのね」


へ? それは知らなかった。


「リゾート開発の奥課長だったわよね、彼って以外と女性に手が早いのよね。結構セクハラ受けてる子達が多いって言うのもあなたは知ってたの?」


「それと総務にいる山田って子は曲者よね。あの子には気をつけなさいよ」

「……」


次々と出て来る自社の部下達の事が白日の下にさらされてく。

特にリゾート開発の奥に関しては、新倉は何も知らなかった。そう言われてみれば、祖父も父親もあのリゾート開発に振り分ける社員を全て男性社員にしていた事をふと思い出した。

祖父達は事実を知っていて、自分だけが知らなかったと言うことか…。


「 まあ、あんたみたいに自分の事ばかりやってるスタンドプレーするヤツに腹を割って話し合う同僚も社員もいないんでしょ?」


さっきからこいつは俺の傷を抉る事しか言わない。


 

「そんなバカな猿山の大将も、今ではそこらへんのバカなお猿よりもちょっとだけ進化したって意味で、バカ殿よ」


これは褒められているのか?貶されているのか?


「まさかさ、あんたあれだけの事をサクラにしておいて、今更サクラが好きだから俺を好きになる思ってるわけ?」


うっ…。

こいつは痛い所をついてきやがる。


「もしそう思ってるんだったら、あんたって本当目出たい猿だわ」


やっぱ、俺コイツ嫌いだ。


「サクラはあんたの事なんて好き何て言う感情さえないわよ。うーん何て言うのかな、視野って言うよりも置き物化してるわ。そういうのって無関心って言うのよね」


こ、こいつは一体俺に何の恨みがあるってんだ。

さっきから俺を貶めてるだけ貶めて。


「真田…お前、俺が受けた傷口にタバスコでも入れるつもりなのかよ」


ふふんと鼻で笑う真田にこめかみをピクピクと引き攣らせている。


「あら、それも良いわね。でも本当のことよ。ま、あんたはあの城島礼よりも幾分

マシだから、チャンスをあげるわ」

「なんだよそれ」


だからここの支払いは真田様の分まで払いなさいよと言って来るこの女は、早乙女サクラの大親友だからこそここに来たんだぞ。

大体この女の「サクラと会いたいならいつものところに来い。時間厳守」と言うふざけた誘いに乗ったんだ。

なのに、何だよこの不躾な女の口の聞きようは!マジむかつく!いつもって俺はお前とは仕事以外で会った事ねーよ!


「しかも吊り橋現象ってなんだよ」

「あんただってもう知ったんでしょ?サクラがクラッシック界で有名な妖精(ティンク)だってこと」


そう言うと目の前の女は長い付け爪で器用にピスタチオの殻を剥いてポンポンと口の中に放り込んでいる。


『ティンク』気まぐれで人の心を捕らえて離さない。そして人の物にはならない。

初めにその映像を見つけた時には、鳥肌がたった。心を鷲掴みにされた。そんな凄い人が自分と同じ日本人だったなんて感動物だったんだ。

真田から渡された写真の下には桜が胸に抱えている子供の姿があった。


「サクラはね…城島に自分の全てを奪われたのよ」


ぽつりぽつりと真田が話してくれた早乙女桜の過去は、俺が想像していた物よりも、もっと残酷だった。



「自分が今まで書きためた曲を全て奪われたの。

あの子が人前でヴァイオリンを弾けなくなったのは……一歳の愛娘を誘拐されてその身代金が自分の曲だと言われたからよ」


「!!」


俺や真田のように経営者の一族の人間だったら、幼い頃から常に誘拐の危険にさらされている。だからこそ、護衛を雇っているのだ。

俺も幼少の頃は何度も攫われそうになった。

その度に護衛に助け出され、今に至る。

ましてや、早乙女は一般の人間だ。まして自分の子を攫われる恐怖に落とされるなど思っても見なかったに過ぎない。


「もちろんサクラはすぐに犯人の要求に応じたわ。最初は警察もそれは時期尚早だと言っていたんだけど、サクラは娘の命には変えられないって犯人に言われるがままに今まで書き貯めていた曲さえも手放したのよ。警察はサクラの鞄に発信器を付けてたから、すぐに犯人に辿り着いたわ」


犯人が捕まったと聞いてホッとしたものの、真田は眉間の皺を更に深くさせると小刻みに震える指でグラスをキツく握りしめた。


「犯人はまだ中学生の子供で、当時サクラが雇っていたナニー(ベビーシッター)の甥だったの」


なんてこった…。

子供を他人に預ける事は自分の弱点をさらす事と一緒だ。彼女の事だナニーを雇うにしてもバックグラウンドから何から全てチェックした上で、安全だと確信したからこそ雇ったのだろう。

そうまでして雇った者からの痛いしっぺ返しは、サクラに人間不信を植え付けたに違いない。


「当然犯人は罪に問われたんだろうな」

「……」


暫く沈黙した真琴の態度にまさか…と言う考えが過った。


「犯人は捕まったわ。もちろん子供でも有罪判決は出されたの。でも場所が場所で悪かったのよね。イギリスは死刑制度がないから。でもそこでサクラを待っていたのは、冷たくなった自分の娘の亡骸だったのよ。サクラはまるで屍のようにただ椅子に座っている日々が続いたのよ。それでも彼女はプロだから演奏日が入っていたら演奏しなきゃいけないわ」


「なのにあの男は憔悴し切っているサクラに『お前は人殺しだ』と責めたのよ」


「ストレスと心労で激やせしたサクラにあいつは仕事をやれと言い出したの。スケジュールなんて普段の倍よ! あの時のサクラにはヴァイオリンの弓を持ち上げる気力さえも残ってなかったのに」


ふと店内を見渡せば、誰もいない。

どうやら糸井はこの話を真田にさせるために店を今夜だけ貸し切りにしたようだ。


「あの頃は丁度アンチ桜の連中からの批判が凄くてね。サクラの曲を盗作だと批判された時期だったわ。それこそ根も葉もないデマだったけど。それを広めたのも、あの男」


あの調子のいい口調で人を懐柔し、操るのはあの当時からだったのか。


「娘を失ってボロボロだったショックからやっと立ち直ろうってしていた矢先にあの子は演奏旅行先で倒れて病院に運び込まれたわ。流産だったの。初期流産でね、サクラはすぐに城島と連絡を取りたがってたけど、城島の携帯の電源は切られてたわ」


「たまたま同じ市内に観光に来ていたルッソ様がいたからよかったんだけど、病院の手続きも全てやってくれたと聞いたわ。もしルッソ様がいなかったらサクラはどうなってたか…」


「もっと憎らしい事にサクラが入院して大変だった時、あいつは…あの男はね…愛人と旅行してたのよ」


「あの当時のサクラの周りには敵ばかりで全ての人間を疑わないとサクラ自身生きて行けなかった。そんなぎすぎすした精神状態での妊娠はリスクがあり過ぎたのよ」


ぎゅっと握りしめた拳を見つめながら真田は一息ついた。


「自分の子供も音楽も奪われてサクラは本当にボロボロだったわ。あんなに音楽を愛していたのに…、城島の一言でまたあの子は立ち直れないほど傷ついたのよ。

自分が所有していた祖母様のお屋敷を城島に奪われてたのよ」


『君が俺の子を殺したんだ。君は全てを俺から奪って行く。なら俺も君から奪うよ。君が大切にしてた物をね』


「人前でヴァイオリンを弾く事も出来なくなったの。文字通りクラッシック界を追われたのよ。そんなあの子にあんたはヴァイオリンを弾けって言えるの?あの子にとって音楽は自分から全てを奪った悲しみの権化なのよ。もう、サクラを苦しめるのは止めなよ」


真田の言葉は俺を猿から進化したバカ殿だと言っていたが、その通りだと思ったよ。キュッと唇を噛み締めると立ち上がった。


「どこに行くのよ」


早乙女の家だと応えれば、ニヤリと嫌な笑みをしてきた。


「じゃあ、しっかり蘭ちゃんに文字通りぼこぼこにされていらっしゃい」


そりゃ…ないだろうが。

頑張れ、ヘタレ御曹司と言われ俺は早乙女の実家へと向かった。





「真田、彼処まで話して良かったのか?」


サクラの過去のことを話した私に大丈夫かとハンカチをくれた糸ちゃん。

本当、あなたのその優しさは罪だよ。


「わかんない。でも、ルッソ様からのお願いだったからね。でも全部はまだ話してないけど」


城島の愛人って言うのが件のシッターだったなんて言えるわけないでしょ。しかもそのシッターとの間に子供もいたなんて…。

子供を殺され、新しく芽生えた命さえも流産した彼女を追い立てるように言ったあの男の言葉は、今でもサクラを苦しめている。


そんな事あの劇場型のバカにそんな事言ったら、それこそ自分の親の会社のことも考えずになりふり構わず城島礼の処に殴り込みに行くのは分かっているからね。

そのシッターの甥のことも城島が金で解決させて、即日釈放されていたってことも。

彼女達が今暮らしているのがサクラの祖母様のお屋敷だっていうことも。

そして、今度そのサクラの祖母様のお屋敷が売りに出されるってサクラが知ったら…今度こそ彼女は……。


「糸ちゃんだって、本当はサクラのこと知ってたんでしょ? 私知ってんだから…」


「真琴」


真琴がいらないことを口走る前に、その唇は甘い果実で塞がれた。


「んんん!!」


「なあ、真琴。早乙女達の事が上手く行ったら、俺たちの未来も考えてみようぜ」


「!!」


糸井の言葉にぽろぽろと涙を零した真琴は何度も頷いた。


「ば、ばかぁ〜!!わだじ…ばって…だん…らから…で!」

「おい、真琴お前、何言ってるのか理解不可能!」


サクラ…チャンスの神様は前髪しかないんだから、追いかけて飛び蹴りしてから捕まえなよ。



ちょっと暴力的な言い方ですが、真琴はいつも桜が大事!

でも真琴さん…チャンスの神様を捕まえるのに飛び蹴りするのは止めた方がいいのでは…。

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