13話 加筆7/5
12話が長過ぎたので、半分にしました。
いつもの佐竹とは全くの別人が桜の目の前に立っていた。
「あんたは知らないだろうけどさ、私もクラッシックちょっと齧ってたのよね〜。あんたの事は子供の頃から親や周りにウザイほど聞かされて来たわよ。天才少女だって言われて来たんだって?あんたにご執心だった礼様だったけど、所詮マグロには興味はなかったみたいね?だって、あんたってば地位も金もないただの女なんだもん」
「な!!」
「だって本当の事じゃない!あの人私がちょっと声をかけたら、すぐにあなたを捨てて行ったんでしょ? いつもいい子ちゃんぶって目障りだったのよね」
「さ…竹さん?」
誰?この人は、本当にあのオドオドして坂本真弓の後ろにいた人と同一人物なの?
「佐竹は祖母の旧姓よ。譲葉って言えばあなたでも分かるわよね?」
譲葉…城島と同じ音楽一家で、そして葉様と言われる家柄で、ホテルやレクリレーションセンターなどの大きな施設を主とした事業を展開している。
今までは徳永よりは劣るかと言われていたが、今回葉様グループが手がけたのは城島礼と英国立フィルとのコラボだったはず…。
確か城島が嫌がっていた許嫁の名前も…譲葉だった気がする…。
「あ…まさか…」
「あら?やっと分かったの? もー参っちゃうのよね〜あんたって予想以上に仕事が出来るから、どうやって足を引っ張ってやろうかって悩んじゃったじゃない」
「新倉さんの失敗ももしかして…」
「当たり前じゃない。なんで、このぽっと出の徳永みたいな会社が礼様のスポンサー? 笑っちゃうわよ!礼様が指揮棒を振るうのよ! 譲葉がスポンサーになるのが当たり前なの。 礼様はね、私の礼様なの!お祖父様も許すわけないわ!だから示してあげたんじゃない。キャハハ」
誰?この人?
本当にあのオドオドした佐竹さんなの?
「じゃあ、坂本さんが私にキツく当たって来たのも…佐竹さんが嗾けたの?」
「正解。私よ。当たり前じゃない。だって坂本真弓って勤務年数だけはあっても仕事はからっきし出来ないじゃない。本人もその事で悩んでたみたいだから言ってあげたのよね〜『なら、仕事のできるヤツに押し付ければいいじゃないの』ってね。彼女すっごく喜んでたわよ。だ〜って、何にもしなくても彼女の名前でプロジェクトが纏まって行くんだから、坂本真弓もバカよね〜全てのプロジェクトに自分の名前があるって事は、後で窮地に追い込まれるってこともあるのにね。例えばクレームとかね。ふふふ」
コロコロと可笑しそうに笑う姿だけ見れば奥ゆかしく見える佐竹の姿に、桜は背中が薄ら寒く感じた。坂本さんはこの人の手のひらで踊らされていたんだ…。
「酷い」
「酷い? あらやだそんな事を言うの?あなただって私にお礼を言わなきゃならないのよ。だって私はあなたも助けてあげたんだけどね?」
何言ってるの?
「え?」
何て言った?彼女は私を助けた?そんな事はない!
「大勢の人前で弾きたいのに、弾けないなんてチャンチャラ可笑しいわよね?ヴァイオリニストなのに、ヴァイオリンを弾けないなんてさ。だからあなたをヴァイオリンから解放してあげたのよ。感謝してよね。でも、首も絞めてあげたのに簡単に(意識が)落ちなかったのね。残念だわ〜」
どうして?どうして知ってるの?
桜は目の前が一瞬暗くなるのを感じた。
ぐっと首を絞められてるこの感じは…あの時と一緒だ。
笑顔で私の首を絞め上げると階段から突き落としたあの時と同じ…。
「感謝?私を突き落としたのはあなたなんじゃない!」
「あら、やだ、もう思い出しちゃったの?」
残念と肩を竦めた佐竹は桜の肩を力一杯掴んだ。
「痛い!!」
「あんたさえいなかったら、礼様は悩まなかったのよ!あんたさえいなければ!礼様から自信を取り上げたあんたなんか…キャハ、そうよあんたがいなくなればいいのよ!ふふふ…」
怒りを露にした佐竹は焦点の合っていない目でポケットからナイフを取り出すとニコニコ笑いながら、桜に向かって振りかざした。
刺される!
だが振りかざされたナイフはいつまで経っても桜の体に振り下ろされる事はなかった。
恐る恐る目を開けた桜の前には新倉が立っていた。新倉に抱きしめられた状態で目を丸くしている桜は冷静さを取り戻すと新倉の背中をちょいちょいと人差し指で小突いた。
「新倉さん…」(放して!いつまで抱きついているのよ)
「は〜い、コレ没収ね!」
捻った佐竹の手からナイフを取り上げたのは妹の蘭。
「蘭!何?寧々まで…」
「犯人召し捕ったり〜!!」
そして給湯室のカーテンの内側からビデオカメラを手に笑顔で出て来たのは胡桃沢寧々とその後ろには太一君に鳥飼課長もいた。
「佐竹さん、別室まで来てもらおうか?」
「か、課長…わ、私は坂本さんに脅されて…」
「そんな今更課長に取り作ろうったってそうは行かないわよ!」
全ての罪を坂本真弓になすり付けようとした佐竹は寧々にピシャリと言い返され、そのまま給湯室から引きずられるようにして蘭に連れて行かれた。
佐竹はその日付で退職となった。坂本真弓は今回はお咎めなしとなったが、現状注意となった。
いつもの居酒屋で桜と寧々の二人だけで盛り上がっている。
いつもなら、カウンターでマスターと一緒に三人で飲んでいるんだけど、今日は何でか個室だ。まあ、ここは洋室の方だからイスに座れるってだけで楽だけどね。
「桜はほうじ茶〜。私はビールで乾杯!!」
「乾杯!」
怪我をしていると言うことで、いつもみたいにアルコールは摂取できない桜はカフェインの入ってないほうじ茶を飲みながら、突き出しのおひたしをさっきから口に運んで行ってる。
「ったく、甘いんだよね〜課長は!!」
(あーあ。寧々の絡み酒が始まった〜)
「聞いてる?桜〜私、桜のこと一番愛してるんだからね〜」
「はいはい、私も寧々の事愛してるよ〜」
「本当に?」
「うん(適当に誤摩化しておこう)」
「新倉よりも?」
ぶほっ!!
「きったな〜い!!ねえ〜ところで桜…あいつにやられた肩は大丈夫?」
酔っているせいか、気にかけていると言いながらも未だ腫れの引いてない肩を掴まれ、桜は思い切り顔を歪める。
「痛!!」
その後もごめんと何度も謝られながらも、桜は笑顔でそれを躱すと酔っぱらい(寧々)の手からビールを取り上げた。
「?!」
そんな桜の手から並々に注がれたビールがすっと取り上げられるように奪われた。
ふと横をみるとそこには険しい顔をして立っている新倉の姿があった。
「新倉さん?」
なんでこの人がここにいるわけ?
訳の分からない桜は酔っぱらい寧々の体をゆさゆさと揺らすと寧々にどう言うことか説明しろと迫った。
その結果ーーー分かったのは、寧々がここで桜と飲み会をするって言う事を勝手にメールで新倉に知らせていたから。
「早乙女さんが俺と顔をあわせるのも嫌がっているのも知ってる。でも本当に謝罪したいんだ!いや、謝罪をさせてくれ!」
いきなり床に両膝をつくと今にも土下座の体勢を取り始めた。
土下座なんてしてほしいなんて言ってない!
すぐにやめてくださいと頭を下げさせるのを止めさせると、謝罪をさせてくれるよね?と言われ、諦めるように首を縦に振った。
「すまない!!本当にすまない!!俺が城島礼のスケジュールをきちんとチェックしてなかったがために、先走ったから…「当たり前じゃない。あんたも加害者よ。桜はね…」
謝罪をして来た新倉によっぱらい寧々が噛み付いた。
桜が弾けなくなった理由を言いそうになり、思わず口を噤んだが桜も寧々も互いに目を反らした。
「もう、終わった事なんです。医者からも以前のようにまでは弾けないだろうと言われましたから。もうこれは天啓なんです。だから私に構わないで…「諦めるなよ!」
桜の言葉に新倉の声がかぶさった。
「諦めるなよ!俺は君のヴァイオリンが聴きたいんだ!」
新倉の無責任な言葉に頭に来た寧々が立ち上がると、「無責任な事ばかり言わないでよね! 大体あんたが城島礼の戯れ言と佐竹の罠に引っかかるからこんなことになるんじゃないの! いつだって桜が困った状況に遭うのはあんた絡みなのよ!あんたが定時ギリギリに桜に仕事を押し付けたりするから! 坂本だって他の子達だって良い気持ちにはならないんじゃないの! ったく、他にも腐るほど社員がいるんだから他の子達に頼みなさいよ!桜はあんた専属のお助けマンじゃないのよ! あんたぐらいの男だったら、女ホイホイで捕まえられるんだから、そっちにしておきなさいよ!これだけ傷ついている桜にあんたはとどめを刺したんだから!」
「おい、胡桃沢…もうそれくらいでいいだろ?」
新倉を庇うようにして個室に現れたのは鳥飼課長だった。
よ!と桜に手をあげて挨拶すると、桜も目で黙礼した。
鳥飼からあの日非常階段から桜を突き落としたのは佐竹だということが分かった。それと同時に、佐竹は徳永の重要機密文書を幾度も盗み出していて、それが第二企画部内に設置されていた防犯カメラに収められていたことと、彼女自身が企業スパイだった事が分かった。
新倉に城島の偽りの年内スケジュールを手渡したのも佐竹で、彼女は巧妙に徳永音楽機器に多額の賠償金を支払わせるつもりで働いていたと言うことも分かった。
「…じゃあ、佐竹さんは…」
「クビだな。それも良くてだ。重要機密文書を会社から持ち出して葉様に渡していた事も分かったんだ。まあ、それが分かったのが早乙女が階段から落ちた時に握っていた物がペンダント型のマイクロチップだったってわけ。その(マイクロチップの)中に入っていたのが、顧客情報やら特許のものばかりだったからあれが他社に流れてたら、マジヤバかった。機密文書が紛失するようになってすぐに男子社員達を集めて行動したってわけさ。まあ、それで佐竹が警察に突き出されても葉様の方からこちらには文句は言えんだろう。それだけの事をして来たんだ。彼女のあのオドオドした姿は第二企画部内のようすを知るためのポーズだったんだよ。まあ、佐竹には俺も新倉も騙されたってわけだ。だから、寧々もそんなに新倉を責めるな」
「いいえ、止めません!大体課長もなんですか!幾ら私の異母兄だからと言って私の大事な親友をこんなにやせ細るまで使う事ないでしょ!坂本を泳がせるために様子を見る?何て言ってたけど、本当は面倒ごとに巻き込まれるのが嫌だったんでしょ!自分だって佐竹の罠に引っかかっていたくせに!!もう頭に来た!全部ゆりちゃんに言いつけてやる!」
「兄?寧々と課長が兄妹?」
「そうよ!この糞兄貴がゆりちゃんにちくってあげよ〜」
寧々の言葉が起爆剤だったのか、途端に課長の顔色が赤から真っ青に変わった。
「な、!!」
「はは〜ん。やっぱりゆりちゃんがらみなんじゃないんですか!全く、何が紳士的な鳥飼課長〜よ。ゆりちゃんまだ十代なのに〜」
「おい!寧々!!俺が犯罪者に見られるような言い方をするな!!」
二人が仲がいいのは知っていたが、本当に兄妹だったとはと呆れながらも、桜は鳥飼と寧々の兄妹喧嘩を黙って見守っていた。
「え?ゆりって、もしかしてうちのゆりなの?」
ニコニコと笑顔を張り付かせてはいても、目だけは笑っていない桜は妹の名前が出た途端、課長の袖を掴んだ。
「課長? まさか、うちの妹に手を出してないでしょうね?」
日頃怒らないヤツが怒ると怖いと言うのはこう言うことだろう。
空気が五度一気に下がると桜は笑顔で鳥飼に妹には結婚するまで手を出すなと言い渡した。
「おい」
それまで放ったらかしにされていた新倉が桜の右肩を掴んできた。
「あなたのせいで地味に痛いんですから、掴むのは止めてください、出来れば触るのも止めてください。本当に出来れば半径一メートル以内に近づかないでください」
「本当に怪我してるんだな…」
私の言葉はムシかよ!
「当たり前です!ドクターストップかかってるんですから!当分はヴァイオリンも弾けません!」
「なあ…「無理です!」
「俺は何も言ってないだろう?」
「言わなくてもわかります。私にヴァイオリンを弾けと言いたいんでしょ?でも無理な物は無理です。私だって無様な弾き方をしたくないんです。察してくださいよ」
「……」
頑に弾けないと言い出す桜をそれ以上責める事も出来ず、新倉はただ桜の手を掴んだまま彼女の目を見つめていた。




