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コク旨〜!黄世界《キセカイ》転生!〜料理の才能ゼロな私が、聖獣(サバトラ猫)と究極のカレー作っちゃいます〜  作者: 水蕾(みらい)


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スズランの香り、琥珀色《こはくいろ》の光

第2話をご覧いただきありがとうございます!


サバトラ猫のカルが覚醒します。

「……ここ、どこ? 私、死んじゃったの?」


おぼろげに意識が戻り頭を上げる。そこは、上下左右の境界線すら失われた、どこまでも白い空間だった。


ふわりとスズランの香りが漂うと同時に、頭上に琥珀色(こはくいろ)の柔らかな光がともった。


『本来であれば、そのまま死んでいたところでしょう。しかし、今日が5月1日であったことが幸いしました』


光が意志を持つように明滅(めいめつ)し、語りかけた。


「だ、誰……!? 神様……?」


突然の声に困惑するが、声は続いた。


『5月1日は()()()()()といい、愛する人へスズランを贈り、幸運を願う日です。あなたがいた「すずらん通り」には祝福の力が満ちていました。空間に漂う祝福の力と、あなたを想う強い願いが奇跡を起こし、あなた方の魂はここ「鈴蘭の聖域」に呼ばれたのです』


「猫って……。じゃあ、あの時、何か影が視界を横切ったような気がしたのは……カルちゃんだったの!?」


胸の奥が痛いほどに跳ね上がる。


あれは幻なんかじゃなかった。カルちゃんが、小さな体で自分を守ろうとしてくれたんだ――。


「カルちゃんは!? カルちゃんはどこ!? 無事なの!?」


「ここにいるにゃ」


振り返ると、そこにはシルバーグレーの美しい毛並みを持ち直立した、サバトラ猫――カルちゃんがいた。宝石のようなセージグリーンの瞳で、じっとこちらを見つめている。


「――え? え、えええええっ!? カルちゃんが喋った……? しかも立ってる……?」


「なんだか喋れるようになったみたいにゃ。それより、男に向かって『カルちゃん』はやめてほしいにゃ」


「お、男の子……!?」


フスッと鼻を鳴らし、シルバーグレーの立派な尻尾をパタパタと誇らしげに揺らしている。その堂々とした立ち姿には、どこか気高い品格さえ漂っている。


言葉をしゃべり、彫刻のように綺麗な姿勢で立っているという衝撃と、まさかの新事実に、事故にあったという恐怖すらどこかへ飛んでしまった。


おじいちゃんがいつも愛おしそうに「我が家のスパイスの女王」なんて呼ぶものだから、勝手に可愛い女の子だとばかり思い込んでいたのだ。


「私、あなたにリボンをつけてあげようと思ってたのに」


「やめてくれにゃ」


二人のやり取りを見守っていた琥珀色の光が小さく揺れた。


『驚きは尽きないでしょうが、時間は限られています』


光が、再び明滅する。


『郁乃、あなたにこれから向かって欲しいのは、どこまでも黄色の砂漠が広がる世界――黄世界(キセカイ)です』


『そこは辛さ至上の魔王によってあらゆる食材が本来の味を失った、絶望の世界です。料理への純粋な愛を秘めたあなたでなければ、あの魔王の呪いは取り除けません。世界を救う、それをあなたにお願いしたい』


(世界を、私が救う……? オムレツすらまともに巻けない自分に?)


あまりにスケールの大きすぎる話に、郁乃の思考は完全にフリーズしかける。けれど、次の瞬間にハッと気づき、


「待って、そんな世界にカルちゃんを連れて行けない! だって、猫にとって玉ねぎやスパイスは命に関わる猛毒なんだよ!?」


おじいちゃんが絶対に厨房にカルを入れなかった理由がそれだ。それらは、猫の血液を破壊する恐ろしい毒なのだ。


それなのに、激辛カレーの魔王が支配する世界になんて……。


『ご安心を』


光が、さらに強く明滅する。


『猫殿に、スパイスや玉ねぎの毒性をも無効化する【聖獣化の加護】を授けましょう』


天から降り注いだ琥珀色の光がシルバーグレーの体を優しく包み込む。セージグリーンの瞳がさらに神聖な輝きを帯びる。


(よかった……! もう心配しなくても大丈夫なんだ)


不安が消え去り、胸にじわっと温かい安堵が広がっていく。それと同時に、張り詰めていた心が解き放たれたせいだろうか。


「周りの人を魅了し自然と笑顔にする、郁々たる香りをまとった女性になってほしいんだ」


おじいちゃんの言葉が脳裏によみがえる。


不器用な自分だけど、おじいちゃんの思いに応えたい。何より、命がけで守ろうとしてくれてた最高に男前な相棒がいる。


「……私、……私、行くよ。黄世界へ!」


「いくにゃあ!」


肉球が自分の手にそっと重なる。


『素晴らしい決意です!』


『では、あなたに【鈴蘭の祝福】を授けましょう』


琥珀色の光がひろがり、その身と胸に強く抱きしめていた古書とカバンを包み込んだかと思うと、何か不思議な心地よさで満たされていった。


『心の準備はできましたね。新しい世界へのゲートを開きます』


『それでは――シェフ、シルヴプレ!(お願いしますね!)』


(――って、なんで学校みたいなフランス語!?)


そう思ったのも束の間、足元から爆発的なまばゆい琥珀色の光の渦が広がり、郁乃のツッコミは完全にかき消された。


(――でも、言われたら応えなきゃ)


「ウィ!(はい!)」


凄まじい浮遊感があり、やがて再び意識が遠のいた。ほのかにスズランの香りがする中、新たなる世界に導かれていった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!


作中に出てきた「ミュゲの日」は、フランスの素敵な伝統行事です。「ミュゲ」とはフランス語でスズランのことで、5月1日に大切な人へスズランを贈り、春の訪れや感謝を伝える特別な日として親しまれています。郁乃とカルの旅も、この幸福な祝福の日から始まりました。


次回、第3話:「ターメリック色の世界、泉での出会い」

ついに見渡す限り黄色の大地へと降り立った郁乃とカル。ここから黄世界の旅が本格的に始まります!


※続きが気になった方、面白そうだなと思ってくださった方は、画面下の【ブックマークに追加】や、【評価の☆☆☆☆☆】をポチっと押して応援していただけると、執筆の物凄い励みになります!


引き続きよろしくお願いいたします。

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