ふたつの探しもの
荷車のホロから顔を出すと、そこは陽の光を避けることのできる岩陰だった。
「ここで小休止して、これからのことを少し話すとしよう」
シンは大神殿までの旅路についておおよその見立てを説明し始めた。マルコのすすめに従って、基本的に街道沿いに進むことにするとして、王都に着くまでにはおそらく1週間から10日はかかるだろうとのことだった。
シンの話を聞いてはいたものの、あまり頭に入ってこない。マルコがいた時はそうでもなかったのだが、どうにもこの状況には困ってしまう。このギクシャクした感じの中で秘密を抱え込んだままで一緒にいるのがだんだんと耐え難く思えてきた。
このままではダメだ。話しても大丈夫かもしれない――。そう思い直すと、郁乃は深く息を吸い込み、ついに口を開いた。
「シンさん。実は……、実は……私もカルも、別の世界からこの世界に来たんです」
ついに、意を決して異世界人ということを明かした。
告白を受けたシンだったが、驚く風でもなく、ただ静かに郁乃を見つめていた。
「……そうか……やっぱり。俺もマルコも、初めて会った時の服装と、あの泉を浄化した力から薄々察してはいたんだ。この世界の者とは、どこか違うとな」
「ただ、郁乃が自分から話してくれるまでは詮索しないでおこうと、黙っていたのさ。秘密を打ち明けてくれて、ありがとう」
静かで低い声だが、そこには包み込むような温かい響きがあった。
「パーソナルスペースにぐいぐい入ってくる割には、気遣いがあったんだにゃ」
カルがフスッと鼻を鳴らしながら話に割り込む。
「ふっ……その『パソなんとか』という聞いたこともない言葉も、異世界を思わせる」
シンの柔らかい微笑みに、郁乃の緊張は初めよりはほぐれていった。けれども、さらに伝えたいことがあった。ここからが本題だ。
「……それと、まだ言わなきゃいけないことがあって。私、……料理の力で、この世界を救わなきゃいけない使命があるみたいなんです」
そう言ってうつ伏せがちに視線を落とした。
「……具体的にどうしたらいいのかは、正直よくわからなくて。だから、何か導きを求めて大神殿に向かうことにしたんです」
どうしたら良いのかわからず不安を抱える郁乃の姿に、シンは静かに目を細める。
「……使命……どう果たすか……そうか、それは大変な悩み事だな。……だが、一人で抱え込む必要はないさ」
そう言うと、シンは遠くを見つめるように、静かで低い声を漏らした。
「……俺も、マルコに助けられるより前の記憶を失ってしまい自分が何者かもわからない状態だ……当てがない同士、一緒に大神殿へ向かおうじゃないか」
郁乃の頭の上に、ぽんと大きく温かい手を置いた。
「シンさん……ありがとうございます!」
「コラ、だめにゃ! また郁乃のパーソナルスペースに侵入してるにゃ!」
フスッとカルが割り込み、シンの手を肉球で叩く。
「おっと……これは失礼した」
と小さく口元を緩め、手を戻した。
「では、そろそろ出発するとするか。お前の『未来』と、俺の『過去』を探しに……」




