第49話:約定完了。……全次元、一単位の狂いもなく黒字化いたしましたわ
「――あら。随分と声が大きいですわね。ですが、ボリュームを上げたところで、その支離滅裂な『悲劇』が説得力を持つわけではありませんのよ?」
天を衝くほどの巨体となった漆黒の化身が、王都を震わせる咆哮を上げました。
ヴィルフリートとミレイユ……その歪んだエゴを触媒として実体化した「世界のバグ」。それは数多の瞳をその肉体に浮かべ、わたくしを睨みつけながら、呪いのような言葉を紡ぎ出しました。
『……拒絶……。ハッピーエンド……。承認……シナイ……。エルゼ・フォン・アシュバッハ……。貴様ハ……不幸ノ……座標ニ……。ソレガ……物語ノ……絶対法典ダ……!』
怪物の周囲から漆黒の雷鳴が放たれ、世界がノイズのように歪みます。
それは物理的な破壊ではなく、世界の「設定」を書き換えて、わたくしを「罪人」へと強制的に戻そうとする因果の圧力。……ですが、わたくしは扇子でその不快な風を払い、隣に立つ黄金の盾を見上げました。
「シグルド様。……。お聞きになりまして? あの方、わたくしの許可なく勝手に『規約変更(プロット改ざん)』を申し立てていらっしゃいますわ。……。一単位の妥当性もございませんのに、困った方ですこと」
「……。はは。……。全くだな、エルゼ。……。俺たちの愛まで『設定不良』だと抜かすのなら、その汚い口ごと、龍王の炎で焼き潰してやるだけだ。……。準備はいいか、わたくしのオーナー」
シグルド様が黄金の剣を引き抜くと、広場全体が目も眩むような「絶対的黒字」の輝きに包まれました。
わたくしは銀の計算尺を最大まで引き伸ばし、虚空に踊る漆黒の数式を、一単位の狂いもなく睨みつけました。
「――監査執行。……。運命の化身様。……。いえ、先代が放置した『不採算プロット』の亡霊様。……。あなたを維持しているその魔力、および因果の定義。……。今この瞬間を以て、わたくしが『債務超過による強制解体』を宣告いたしますわ!」
わたくしが計算尺で空間を叩くと、怪物の足元から黄金の法陣が展開されました。
「――証拠その四。……。あなたが主張する『絶対法典』、それは既に前任の管理者(神々)が解雇された時点で、失効済みの旧規約ですわ。……。証拠その五。……。わたくしが手に入れた『次元の地権』によれば、この宇宙においてハッピーエンドを定義する権利は、わたくし、エルゼ・フォン・アシュバッハのみに帰属します!」
『ガ……ッ、アアアア……!? 定義ガ……書キ換エラレ……ル……!?』
「――シグルド様! 今ですわ、その『不良債権』を、一単位の塵も残さずパージなさい!」
「――承知した! 全次元に告ぐ、これが俺たちの『確定申告(終焉)』だ!」
シグルド様が黄金の翼を広げ、天へと跳ね上がりました。
彼の剣に集まるのは、わたくしが買収し、再建してきた数多の世界の「希望」と「実績」。
龍王の咆哮と共に放たれた黄金の斬撃は、怪物の漆黒の巨体を断ち切るだけでなく、その背後にあった「悲劇の設計図」そのものを物理的に切断しました。
――$[Audit Result: Tragedy Protocol Deleted]$
――$[New Rule: Permanent Happy Ending Established]$
視界を埋め尽くしていた漆黒の泥が、黄金の光に蒸発し、キラキラと輝く粒子となって王都へ降り注ぎます。
呪いの声は消え、後に残ったのは、数百年ぶりに本来の青さを取り戻した澄み渡る空だけでした。
「……。ふぅ。……。ようやく、一単位の誤差もなく収支が合いましたわね」
わたくしは、着地したシグルド様の胸に身を預けました。
シグルド様は、愛おしそうにわたくしの髪を撫で、その黄金の瞳を優しく細めました。
「終わったな、エルゼ。……。これでもう、お前を縛る理不尽な物語はどこにもない。……。この世界の白紙のページは、すべてお前の、俺たちの自由だ」
「……。ええ。……。ですが、シグルド様。……。経営者として、最後の一項目だけ、公証人(世界)の前で約定させなければなりませんわ」
わたくしは、平伏してわたくしたちを仰ぎ見る民衆たち――かつてわたくしを罵り、今は涙を流して感謝を捧げる愚か者たちを一瞥しました。
「ヴィルフリート様も、ミレイユさんも……。もう、そのデータの破片すら残っておりませんわね。……。謝罪する機会さえ失うのが、わたくしの監査を受けた敗者の当然の末路ですわ」
わたくしは計算尺をカチリと閉じ、最高のハッピーエンドを確定させるために、シグルド様の手を強く握り返しました。
準備は、すべて整いましたわ。
これより、わたくしとシグルド様の『永遠の共同経営契約(結婚式)』を執行いたします。……。一単位の異議申し立ても、認めませんことよ!
悲劇のプロットそのものを「債務超過」として強制解体!
エルゼ様の放つ冷徹なロジックと、シグルド様の圧倒的な「黄金の質量」が、ついに世界を理不尽な運命から解放いたしましたわ。
元婚約者たちは、謝罪する間もなく、世界のデータの塵となって消滅……。これこそが、桐谷ルナがお約束する「一単位の慈悲もない最高のざまぁ」でございます。
世界は美しく再構築され、帳簿は真っ青な黒字。
残されたのは、物語の真の完成を告げる「最後の手続き」のみ。
次回、第50話(第一章・完結)。
「アシュバッハ監査法人の休日。……明日からの経営も、わたくしにお任せなさいな」。
全次元が注目する、エルゼ様とシグルド様の「愛の約定」……。最高のグランドフィナーレをお届けいたしますわよ!
第一章の完走を祝して、ぜひ【ブックマーク】と【評価】の「★★★★★」をお願いいたしますわ。
皆様の投資(評価)が、第二部への「新規上場」のエネルギーになるのですから!




