第47話:凱旋監査。……一兆倍の格差、その身で味わいなさいな
「――あら。随分と空気が澱んでいますわね。わたくしの記憶にあるよりも三単位ほど貧相な景色……。これがわたくしを追放した王国の、現在の『時価総額』かしら?」
王都の広場を埋め尽くす人々が、悲鳴と共に空を見上げていました。
雲を割り、天を覆い尽くさんばかりに降臨した黄金の巨船――次元監査船アシュバッハ号。
その船首に立つわたくしは、かつてわたくしに罵声を浴びせた民衆を見下ろし、優雅に扇子を広げました。
「な、なんだあの船は……! 空を飛ぶ城だと……!?」
「騎士団は何をしている! 迎撃しろ、今すぐだ!」
広場の中心、かつての「断罪」と同じ壇上にいたのは、金髪の王太子ヴィルフリート。
その隣には、彼がわたくしの代わりに選んだ、偽りの慈愛を振りまく「新聖女」の姿がありました。
わたくしはシグルド様の手にエスコートされ、重力を無視してゆっくりと、その壇上へと舞い降りました。
「……ッ、貴様、エルゼか!? エルゼ・フォン・アシュバッハなのか!」
「――主を呼び捨てにするな。その汚い声をこれ以上響かせるなら、この王国の地権ごと、俺の炎で灰にしてやるぞ」
シグルド様が一歩前に出た瞬間、広場全体が黄金の魔圧に圧し潰されました。
近衛騎士たちが抜剣すらできずに膝を突き、ヴィルフリートもその圧倒的な「質量」に顔を青ざめさせ、ガチガチと歯を鳴らしています。
「シグルド様、おやめになって。……。ゴミを処分するのにも、一単位のコストがかかりますのよ。……。さて、ヴィルフリート様。……。お久しぶりですわね。……。わたくし、あなたの『未払いの負債』を回収しに参りましたの」
「ふ、負債だと!? 何を言っている! 貴様は国外追放された罪人だ! この国には一ペニーの権利もないはずだ!」
「……。ふふ。……。あら、まだそのレベル(階層)で物事を考えていらっしゃるのね。……。リィン、この王国の『現在の資産価値』を算出しなさい」
「承知いたしました。……。算出完了。……。王国の総資産、および国民の魂の期待値。……。合計して、エルゼ様の保有する資産の『一兆分の一』にも届きません。……。判定:路上の砂利と同等の価値です」
わたくしの背後に浮かぶ銀色のコンソールが、残酷なまでの数字を空中に投影しました。
王国の全予算、全領土、全人口。
それらすべてを束ねても、今のわたくしの私有資産の一単位にも満たないという、圧倒的なまでの「格差」。
「一……一兆……!? 馬鹿な、そんな数字、この世に存在するはずがない!」
「――存在しますわ。……。わたくしが、この全次元の帳簿を握る『オーナー』になったからですのよ。……。ヴィルフリート様。……。あなたが必死に守っているその王冠、わたくしの基準では『不燃ゴミ』としての処理費用の方が高くつきますわ」
わたくしは一歩、また一歩とヴィルフリートに歩み寄りました。
かつてわたくしを冷たく見下ろしていた彼の瞳に、今はただ、理解の範疇を超えた存在への根源的な恐怖だけが宿っています。
「あ、ああ……エルゼ……いや、エルゼ様……。何かの間違いだ! あの時の婚約破棄は、そう、この聖女が……」
「見苦しいですわね。……。責任転嫁は、経営者の最も忌むべき行為ですわ。……。ですが、ご安心なさい。……。わたくし、あなたを処刑しに来たのではありませんの。……。もっと残酷な『清算』を執行するために来たのですわ」
わたくしは計算尺を地面に突き立てました。
――$[Audit Mode: Root Tracing]$
その瞬間、美しいはずの王都の街並みが、ノイズのように歪みました。
足元の石畳から、黒い泥のような「負債」が溢れ出し、人々の悲鳴が再び響き渡ります。
「……あら。……。予想以上に深刻ですわね。……。シグルド様、ご覧なさい。……。この国、見た目は平和ですけれど、中身はとっくに『デフォルト(債務不履行)』を引き起こしていますわ」
王国の地下、その深淵。
神々が遺した「未知の負債」が、エルゼの執着という名の座標を頼りに、この国を内側から食い破っていたのです。
準備は、すべて整いましたわ。
ヴィルフリート様。……。わたくしを蔑んだその代償。……。国が崩壊する恐怖の中で、一単位の希望も持たずに『最下層の住人』として生き延びる屈辱を、存分に味わわせて差し上げますわよ!
「一兆分の一」という、もはや絶望すら追いつかない圧倒的な格差。
かつて自分を追放した王子を、もはや「敵」ですらなく「砂利」として一蹴するエルゼ様……!
これぞ、次元を跨ぐ大企業へと成長した悪役令嬢による、最高にロジカルな「凱旋ざまぁ」でございますわね。
シグルド様も、主を侮辱する矮小な騎士たちを魔圧だけで完封し、その格の違いを見せつけてくれました。
しかし、王国の地下から溢れ出した「黒い負債」。
エルゼ様の帰還に呼応するように、世界そのものの崩壊が始まりました。
次回、第48話。
「不渡りの運領。……わたくしたちの絆に、利息を付けるのはどなたかしら?」。
崩れゆく王国。パニックに陥る人々。
エルゼ様、一単位の情けもなく「不良資産」を切り捨て、真の黒字を確保するための最終工事を開始いたしますわよ!
エルゼ様の「完全なる清算」を応援してくださる投資家の皆様、ぜひ【ブックマーク】と【評価】をお願いいたしますわ。
皆様の投資が、エルゼ様の監査船に「対・王都解体用」の特殊兵装を実装させるのですから!




