表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『完璧すぎて可愛げがない』と婚約破棄されましたが、帝国の魔力供給・経済・外交を全て停止して隣国へ移住しますわ。――今更「戻ってきてくれ」? どこのどなたかしら?  作者: 桐谷ルナ
続編・第1章:多元宇宙監査機関MAA:不当な「悲劇」はわたくしが損切り(損害賠償)いたしますわ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

87/91

第46話:未知の負債。……わたくしの帳簿に「正体不明」は一単位も許しませんわ

「――あら。神々をパージして清々したと思いましたのに、随分と埃っぽい金庫ですわね。一単位の清掃も行き届いていないなんて、管理能力を疑いますわ」


 起源の議場、その最深部。

 重厚な扉が開かれた瞬間に溢れ出したのは、光すら飲み込む漆黒の「負債」でした。

 それは不定形の泥のように蠢き、わたくしが手に入れたばかりの白銀の議場を、見る間にどす黒い「虚無」で塗り替えていきます。


「……ッ、エルゼ! 下がれ! これには魂がない……いや、存在そのものが『無』として定義されている! 俺の黄金の炎すら、燃料にされて吸い取られるぞ!」


 シグルド様が即座にわたくしを庇い、黄金の障壁を展開しました。

 ですが、その輝きさえも黒い泥に触れた先から「無」へと還元され、消えていく。

 わたくしの視界に走る数値も、バグを起こしたように「ERROR」と「NaN(非数)」を繰り返していました。


「……。ふふ。……。シグルド様、案ずることはありませんわ。……。これは物理的な攻撃でも、魔力的な干渉でもございません。……。ただの『帳簿の書き漏らし』……いいえ、先代の株主たちが隠蔽しきれなかった、未処理の損失バグの残滓ですわ」


 わたくしはシグルド様の背中から一歩前に出ました。

 漆黒の泥の中から、いくつもの「顔」が浮かび上がります。

 それは、過去の物語で救われなかった悪役令嬢、道半ばで破産した商人、そして……わたくしに似た、けれど絶望に染まった「エルゼ」たちの幻影。


『……クルシイ……。ナゼ、オマエダケガ……。スベテハ、スクラップ……。コンナセカイ、キエテシマエ……』


 怨嗟の声が議場を揺らし、わたくしのドレスの裾を汚れで染めようと迫ります。

 ですが、わたくしは冷徹な眼差しで、その泥の塊を計算尺で指し示しました。


「――お聞きなさいな、哀れな亡霊の皆様。……。あなた方の絶望は、わたくしの帳簿には『償却済みの損失』として計上済みですわ。……。今更、一単位の資産価値もないあなた方が、現行のオーナーであるわたくしに意見するなんて、越権行為も甚だしいですわよ」


『……ナニ……!?』


「リィン。……。この『未知の負債』とやら、その発生源と総質量を算出しなさい。……。わたくし、未確認の在庫を抱え続けるのは、一秒だって我慢なりませんの」


「承知いたしました。……。解析完了。……。正体は、先代管理者が『プロット失敗』として廃棄した、数千万の世界の断片。……。現在、次元の容量ストレージを圧迫し、全次元のシステム停止を誘発しています。……。対策:物理的な消去は不可能。……。概念的な『資産再編』のみが有効です」


「……。あら。……。手間をかけさせますわね。……。シグルド様、聞こえまして? ……。これ、単なる『不法投棄』の山ですわ。……。ならば、わたくしがやることは一つ。……。このゴミの山ごと、わたくしの『管理下に置く』ことですわ!」


 わたくしは計算尺を最大まで引き伸ばし、漆黒の泥に向かって黄金の数式を叩きつけました。

 

$$ \text{Debt}(Unknown) \times \text{Audit Authority}(Elsa) \to \text{Asset}(Consolidated) $$


「――不法占拠された次元の隙間。……。これよりわたくしが、強制的に『防衛買収ホワイトナイト』を執行いたしますわ! ……。あなた方の絶望も、虚無も、すべてわたくしの管理する『負債資産』として帳簿に載せて差し上げます! ……。勝手に消えることさえ、わたくしが許しませんわよ!」


 わたくしの宣言と共に、黄金の鎖が泥の塊を縛り上げました。

 「消えたい」と願う虚無に対し、「わたくしの持ち物として存在しなさい」という強欲な命令。

 泥は絶叫を上げ、黄金の光に焼き尽くされるのではなく、エルゼ・フォン・アシュバッハという名の「絶対的なルール」の中に、強制的に収束させられていきました。


『……ア……アア……。カンリ、サレル……。オマエノ……帳簿ノ……ナカニ……』


 一分と経たず、議場を埋め尽くしていた漆黒の泥は、一単位の狂いもなく黄金の立方体へと圧縮され、わたくしの足元に転がりました。

 

「……。ふぅ。……。整理整頓は、経営の基本ですわね。……。シグルド様、お待たせいたしましたわ。……。これでようやく、金庫の中身を正確に精査スキャンできますわよ」


「……。はは。……。虚無そのものを『買収』して管理下に置くとはな。……。エルゼ、お前の強欲さには、龍である俺ですら畏怖を覚えるよ」


 シグルド様が呆れたように笑いながら、わたくしの肩を抱きました。

 ですが、わたくしの視界のアラートは、まだ消えていませんでした。

 黄金の立方体――圧縮された負債の芯から、一つの「座標」が浮かび上がっていたからです。


「……。あら。……。この座標……。わたくし、見覚えがございますわ。……。一単位の誤差もなく……わたくしがかつて、ヴィルフリートに『婚約破棄』を突きつけられた、あの忌々しいパーティー会場ですわ」


 負債の根源は、わたくしの「始まりの場所」に繋がっている。

 

 準備は、すべて整いましたわ。

 

 シグルド様。……。わたくしのハッピーエンドの確定申告。……。最後に、あの小っぽけな王国を『凱旋監査』して、一単位の余りもなく清算して差し上げますわよ!

神々の金庫から現れた「未知の負債」。

それを「不法投棄」と切り捨て、概念ごと買収して管理下に置いてしまうエルゼ様。

もはや彼女の監査尺の前に、逃げ場のある数字など存在いたしませんわね。


しかし、負債の芯が指し示した座標は、エルゼ様がかつてすべてを失った「始まりの場所」。

物語は、因果の円環を閉じるための、最終的な凱旋へと向かいます。


次回、第47話。

「凱旋監査。……一兆倍の格差、その身で味わいなさいな」。

かつてエルゼ様を蔑んだヴィルフリート、そして王国の人々。

神となった彼女の降臨に、彼らは一単位の誇りも保っていられるかしら?


エルゼ様の「最高の凱旋」を見届けたい投資家の皆様、ぜひ【ブックマーク】と【評価】をお願いいたしますわ。

皆様の投資(評価)が、エルゼ様の監査船に「対・元婚約者用」の最強のスピーカーを実装させるのですから!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ