第45話:監査執行:起源の扉。……準備はすべて整いましたわ。さあ、本当の「帳簿」を見せなさいな
「――あら。これが全次元を統べる『筆頭株主』の皆様の集まりですの? わたくしの目には、倒産寸前の互助会が、なけなしの配当を求めて喚き散らしている醜悪な宴にしか見えませんわよ」
白銀の光が満ちる、起源の議場。
そこは時間の概念すら存在しない、全次元の「設計図」が保管される最上階層。
わたくしは、黄金の輝きを放つシグルド様の隣で、優雅に扇子を広げました。
円卓を囲むのは、光り輝く輪を持つ「株主」と呼ばれる十二人の上位存在たち。彼らの視線は、わたくしを一個の生命体としてではなく、単なる「暴走した資産」として品定めするように見つめていました。
「不遜な娘だ。……エルゼ・フォン・アシュバッハ。君は前任の管理者を追放し、世界の運営権を不当に奪取した。……我ら株主会は、君の全資産を没収し、この宇宙を一度『初期化』することを決定した」
中央に座る、最も輝きの強い「筆頭株主」が、感情の欠落した声で宣告しました。
彼の指先が動くと、わたくしたちの周囲に次元を消去するための消去コード(デリート・コマンド)が幾重にも重なって展開されます。
「初期化、ですか。……ふふ。……。あら、ずいぶんと短絡的な経営判断ですわね。シグルド様、お聞きになりまして? あの方々、自分たちの管理不足で膨らんだ『赤字』を、わたくしを消すことで帳消しにできると思い込んでいらっしゃいますわ」
「……。ああ。……。主、笑わせてくれるな。……。俺という『世界エンジン』を組み込んだこの次元を初期化すれば、その瞬間に隣接する全宇宙が連鎖爆発を起こすことすら、この無能な老人たちには見えていないらしい」
シグルド様が黄金の瞳を細め、軽く足を踏み鳴らしました。
その衝撃だけで、起源の議場の床に亀裂が走り、神々が展開した消去コードが、ガラス細工のように脆く砕け散りました。
「な……ッ、消去コマンドを物理的に弾き返しただと!? ありえん、ありえんぞ、そのような数値の設定はしていない!」
「――設定、ですって? ……一単位の失笑も禁じ得ませんわ。……筆頭株主様。……。あなた方は、物語を創ったつもりで、その実、ただ『不労所得』に胡座をかいていただけではありませんか。……リィン、彼らがこれまでの『全次元経営』において、どれほどの機会損失を出し、私服を肥やしてきたか、その証拠を提示なさい」
「承知いたしました。……。次元間資産流用、および虚偽のハッピーエンド報告。……。全二百八十件の不正を、現時刻を以て『株主代表訴訟』の資料として公開します」
リィンの無機質な声と共に、議場の空中には膨大な数の「裏帳簿」がホログラムで投影されました。
神々が、救いようのない悲劇をあえて放置し、その際に発生する負のエネルギーを、自分たちの「不老不死の維持費」として洗浄していた証拠。
さっきまで威厳に満ちていた株主たちの顔が、一瞬で土気色へと変わりました。
「こ、これは捏造だ! 我らは世界の秩序を……!」
「――お黙りなさいな。……。秩序ではなく『談合』の間違いでしょう? ……。準備は、すべて整いましたわ。……。わたくし、先ほど全次元の住民一兆人の署名を以て、あなた方を『特別背任罪』で告発。……。併せて、あなた方の保有する全議決権を、わたくしの『愛と資本の力』で強制買収させていただきましたわ」
わたくしが計算尺を空中に叩きつけると、黄金の文字が議場を埋め尽くしました。
$$ \text{Voting Rights}(Shareholders) \to 0\% $$
$$ \text{Voting Rights}(Elsa) \to 100\% $$
「な……っ、我らの権限が……奪われていく……!? 馬鹿な、我らは『創造主』だぞ!」
「――いいえ。……。あなた方は、ただの『経営不適格者』ですわ。……。シグルド様、お掃除の時間です。……。わたくしのポートフォリオを汚したこの『次元の寄生虫』たちを、一単位の猶予もなく、虚無の果てまでパージなさい!」
「……。はは。……。承知した、我が女王。……。お前たちが貪り食った全次元の悲しみ……、そのすべてを黄金の炎で焼き尽くし、債務としてその身に刻んでやろう!」
シグルド様が黄金の剣を一閃。
それは次元の壁を切り裂くのではなく、神々の「存在資格」そのものを、因果律から切り離す一撃。
「ギ、ギャアアアア! あ、ありえない……我らが、人間に……買い叩かれるなど……ッ!」
絶叫と共に、十二人の株主たちは光の粒子となって霧散していきました。
彼らが座していた豪華な椅子は崩れ落ち、起源の議場は、静寂とわたくしたちだけが残されました。
「……。ふぅ。……。ようやく、全宇宙の『連結決算』が完了いたしましたわね。……。これからは、わたくしの規約が、この全次元の絶対法典ですわ」
わたくしは、誰もいなくなった玉座を見上げ、満足げに扇子を閉じました。
シグルド様が、わたくしの肩を優しく抱き寄せます。
「お疲れ様、エルゼ。……。これで、本当に自由だ。……。お前の描く、最高に黒字なハッピーエンドを……俺も隣で見守らせてもらうぞ」
「……。あら、シグルド様。……。わたくしのハッピーエンド、まだ一単位の『不透明な項目』が残っておりますの」
わたくしは、議場の最深部――全次元の「金庫」が置かれた扉を見つめました。
そこから漏れ出しているのは、神々が消えたことによって抑えが効かなくなった、漆黒の、そしてあまりに巨大な『未知の負債』。
「……。あれは。……。神々が隠し通せなかった、次元そのものの『欠陥』……かしら?」
準備は、すべて整いましたわ。
真の敵が、この宇宙の『バグ』そのものであると言うのなら。……。わたくしの計算尺、次は世界の『理』ごと、スクラップ価格で買い叩いて差し上げますわよ!
ご愛読、感謝いたしますわ。
全次元の株主(神々)を「経営不適格」として強制解雇し、その議決権を100%奪い取ったエルゼ様。
「創造主」を名乗る傲慢な老人たちを、文字通り「ゴミ」のようにパージするシグルド様の剣閃、一単位の狂いもなく爽快でしたわね。
しかし、株主たちが去った後に残されたのは、世界の深淵に眠る「未知の負債」。
それはもはや、個人の悪意や組織の腐敗ではなく、次元というシステムの「致命的な欠陥」のようでございます。
次回、最終章。
「完全なる黒字。……わたくしの愛に、一単位の減価償却も認めませんわ」。
エルゼ様とシグルド様、ついに「運命」という名の最強の競合他社を、完膚なきまでに買収いたしますわよ!
エルゼ様の「完全勝利」を応援してくださる投資家の皆様、ぜひ【ブックマーク】と【評価】をお願いいたしますわ。
皆様の投資(評価)こそが、エルゼ様の監査尺を「宇宙を書き換える杖」へと進化させるのですから!




