第44話:龍王の「修正(アップデート)」。……シグルド様、あなたを「計算外」にはさせませんわ
「――あら。わたくしのポートフォリオに、許可なき『強制終了』は存在させませんわ。一単位のデータも、一秒の記憶も、わたくしの資産ですもの」
真っ白な虚無を、おぞましい漆黒のノイズが侵食してきます。
それは無能な管理者が最後に残した、身勝手な「物語の破棄」。
わたくしの足元から、これまで積み上げてきた世界の景色が砂のように崩れ、0と1の瓦礫となって消え去ろうとしていました。
「エルゼ……っ。空間の定義が消えていく。……。俺の魔力でも、この『消去』という概念そのものを止めることはできん……。逃げろ、お前だけでも次元の隙間へ!」
シグルド様が、透け始めた腕でわたくしを抱き寄せました。
龍王の力をもってしても、世界の「執筆」そのものが否定されれば、その存在は根底から覆されます。
ですが、わたくしは彼の胸の中で、そっと銀の計算尺を起動させました。
「シグルド様、お聞きになって。……。わたくしたち次元監査官の格言には、このようなものがございますわ。……。『消える運命(負債)があるなら、それを支える資本(愛)で買い叩け』」
「……エルゼ?」
「――管理者権限、接収完了。……これより、この宇宙のホスティング権を『アシュバッハ監査法人』へと強制委譲いたしますわ。……リィン、連結決算を開始なさい!」
わたくしが虚空を指し示すと、わたくしの視界に走っていた赤いノイズが、一瞬にして黄金の計算式へと書き換えられました。
$$S_{exist} = \int_{world} (Asset \times Love) dt \to \infty$$
「――不当な自爆プロトコル。……。わたくし、これを『不適切な在庫処分』として全件差し押さえ(ロック)させていただきますわ。……。シグルド様、あなたの魂を、この世界の『真の核』としてアップデートしてよろしいかしら?」
「……。ふ。……。お前の望みなら、俺の存在すべてをその計算尺に預けよう。……。俺を、お前の『永遠の資産』にしてくれ」
シグルド様が黄金の瞳を輝かせ、わたくしにその魂を委ねました。
わたくしは計算尺を最大まで引き伸ばし、彼の龍の心臓へ突き立てました。
痛みなどございません。……。あるのは、一単位の狂いもない「愛」という名の資本注入だけ。
――$[System Update: Dragon King Sigurd \to World Engine]$
――$[Hosting Status: Transferred to Aschbach Private Cloud]$
漆黒の消去ノイズが、シグルド様から放たれた黄金の奔流に押し戻されていきます。
砂となって消えかけていた世界が、彼の魔力を「インフラ」として再構築され、より強固に、より鮮やかに色を取り戻していきました。
崩れ去るはずだった物語は、今、わたくしの手の中で「定額制」……いいえ、わたくしと彼が永遠に共同経営する「私有次元」へと生まれ変わったのです。
「……。ふぅ。……。一単位の損失も出さずに、約定できましたわね」
わたくしは、実体を取り戻したシグルド様の胸に顔を埋めました。
彼の鼓動は、今やこの世界の「演算リズム」そのもの。……。わたくしたちが離れない限り、この世界は二度と消えることはありません。
「……エルゼ。……。俺の中に、世界が……いや、お前の鼓動が流れているのを感じる。……。これでもう、誰にも邪魔はさせん」
黄金の空が広がり、平和な光が満ちたその時。
わたくしの視界に、先ほどまでの「管理者」とは比較にならない、重厚な通知が突き刺さりました。
『――[通知] 未登録の新規次元オーナー「エルゼ・フォン・アシュバッハ」を検知。……。筆頭株主会議への出席を命ず。……。拒否は、全ポートフォリオの「強制没収」を意味する』
「……あら。……。無能な作家をクビにしたら、今度は『親会社の役員』様たちが顔を出しましたわね」
わたくしは扇子で口元を隠し、不敵に微笑みました。
シグルド様も、わたくしの意図を察して黄金の剣を構え直します。
準備は、すべて整いましたわ。
筆頭株主の皆様。……。わたくしの「愛」という名の絶対資本、あなた方の古い規約で査定できると思わないことですわ。……。次なる監査の舞台は、あなた方の『議事堂』に決定いたしましたわよ!
世界の消去を「ホスティング権の買収」で跳ね返し、シグルド様を「世界の核」へとアップデートする……。
エルゼ様の放つ論理の暴力……いいえ、究極の愛の形が、物語を消滅の危機から救い出しましたわ!
シグルド様も、自らを「世界そのもの」に変えることで、エルゼ様との永遠の紐付けを選ばれました。まさに究極の共同経営ですわね。
しかし、一難去ってまた一難。
現れたのは、次元の秩序を支配する「親会社の筆頭株主」たち。
エルゼ様の実績を認めつつも、その力を「没収」しようとする強欲な神々に対し、彼女はどんな「株主代表訴訟」を仕掛けるのでしょうか。
次回、第45話。
「監査執行:起源の扉。……準備はすべて整いましたわ。さあ、本当の『帳簿』を見せなさいな」。
全次元を司る「株主総会」に、エルゼ様が計算尺一本で殴り込みをかけますわよ!
エルゼ様の「真の支配」への道を応援してくださる投資家の皆様、ぜひ【ブックマーク】と【評価】をお願いいたしますわ。
皆様の投資(評価)が、エルゼ様の「議決権」を絶対的なものにするのですから!




