第42話:不当な改ざん。……わたくしの「過去」を勝手に書き換えるのはどなたかしら?
「――あら。ずいぶんと趣味の悪いリメイク(再放送)ですわね。一単位の情緒もございませんわ」
眩いシャンデリアの光。着飾った貴族たちの囁き。そして、鼻を突く薔薇の香香。
わたくしが次元監査船から転送された先は、あの日、わたくしがすべてを失い、そしてすべてを手に入れる契機となった「婚約破棄」のパーティー会場でした。
――$[Warning: False Memory Overlap. Data Integrity: 12%]$
わたくしの視界を走る赤いノイズ。
周囲の貴族たちの顔はどこかぼやけ、筆致の粗い絵画のように歪んでいます。これは過去に戻ったのではありません。誰かがわたくしの記憶を基に、この空間を『捏造』したのです。
「エルゼ・フォン・アシュバッハ! 貴様の悪行はすべて調べがついている! 今日、この場を以て、貴様との婚約を破棄する!」
正面の壇上で、金髪の男――かつての婚約者、ヴィルフリートが叫びました。
彼の傍らには、守ってあげたくなるような(と設定された)可憐なヒロインが、わざとらしい涙を浮かべて寄り添っています。
「……。ふふ。……。ヴィルフリート様。……。その台詞のイントネーション、わたくしの記憶にある実物よりも三単位ほど芝居がかっていますわよ。……。それに、そちらの女性。……。わたくし、彼女の顔なんて一秒も覚えておりませんのに。……。適当な『聖女テンプレ』で補完するなんて、執筆者の怠慢が透けて見えますわ」
「な……ッ、何を言っている! 貴様、自分の罪を認めるのが怖いのか!」
ヴィルフリート(偽物)が一歩前に踏み出しました。
本来の歴史であれば、ここでわたくしは周囲の冷たい視線に晒され、絶望の淵に立たされるはずでした。
ですが、わたくしの隣には、あの日はいなかった「最強の資産」が控えています。
「――主にその汚い指を向けるな。……。エルゼ。……。この書きかけの書き割り(セット)ごと、俺の炎で灰にしていいか? ……。お前の不快な記憶を再利用する奴など、俺が許さない」
シグルド様が黄金の瞳を細め、腰の剣に手をかけました。
龍王の魔圧が放たれた瞬間、会場の壁がノイズのようにバグり、豪華な壁紙が『未設定』を意味する真っ白な空間へと剥がれ落ちていきます。
「お待ちになって、シグルド様。……。物理的な破壊は、証拠の隠滅に繋がりますわ。……。これは『不当なデータの二重計上』。……。わたくしの人生という名の帳簿を勝手にコピーして、別の利益(悲劇)を生もうとする不届きな『改ざん行為』ですわ」
わたくしは計算尺をカチリと操作し、会場全体に青いグリッド線を展開しました。
「――監査執行。……。ヴィルフリート様。……。いえ、ヴィルフリートを模した『低解約返戻金型』のNPC様。……。あなたを維持しているサーバーリソース、今この瞬間を以て、わたくしが『不法占拠』として差し押さえさせていただきます」
「な……!? 何だ、この数字は……身体が、消える……!?」
ヴィルフリートの足元から、文字の羅列が溢れ出し、彼の存在を分解し始めました。
わたくしの計算尺が、彼の「存在価値」をゼロへと書き換えたのです。
「……。あら。……。一兆ゴールドの資産を持つ今のわたくしを、たかが小国の王子の財力で断罪しようなんて。……。レバレッジの掛け方を間違えた投資家のような、無様な消え方ですわね」
悲鳴を上げて消滅していくヴィルフリートと、その取り巻きたち。
会場の貴族たちも、定義を失ったデータとなって霧散していきます。
後に残ったのは、真っ白な虚無の空間と、わたくしたち二人だけ。
「……。エルゼ、終わったのか?」
「いいえ、シグルド様。……。これはただの『不適切な下書き』の削除ですわ。……。本番は、これからです」
わたくしが虚空を睨みつけると、真っ白な空間に、一本の『黒いペン』がひとりでに浮き上がり、新たな行を書き加え始めました。
――『しかし、女王は気づいていなかった。この物語の結末は、すでにインクが乾いていることに』
「……。ふふ。……。勝手にナレーションを入れないでくださる? ……。わたくしの物語のインクは、わたくしの意思という名の『最高級金粉』で書き換えると決めていますのよ」
わたくしは計算尺をペンに向けて突き出しました。
準備は、すべて整いましたわ。
姿を隠している『編集者』様。……。わたくしの過去を弄んだ慰謝料。……。あなたが存在しているその『次元の地権』ごと、わたくしが叩き売って差し上げますわよ!
捏造された「過去の断罪劇」を、現在の資産力で物理的に消去する……。
エルゼ様の放つ冷徹な監査は、もはや思い出の中にすら一単位の侵入を許しませんわ!
シグルド様も、エルゼ様の不快な記憶を焼き払わんと、黄金の魔圧を全開にされておりますね。
しかし、真っ白な空間に現れた「勝手に動き出すペン」。
そこには、エルゼ様の監査尺すら届かない、上位次元の「執筆」という名の力が働いていました。
次回、第43話。
「管理者の「執筆放棄」。……一単位の責任も取らぬ作者など、更地にする価値もございません」。
エルゼ様、ついに「物語の枠組み」そのものを買い叩くため、ペンの持ち主を法廷へ引きずり出しますわよ!
エルゼ様の「メタ次元・ざまぁ」に期待してくださる投資家の皆様、ぜひ【ブックマーク】と【評価】をお願いいたしますわ。
皆様の投資が、エルゼ様の計算尺を「運命を書き換える筆」へと昇華させるのですから!




