第28話:「勇者ガシャ」の不正操作。……排出率〇%の希望なんて負債ですわ
「――チャリン、チャリン……五月蝿いですわね。その安っぽいコインの音、わたくしの計算の邪魔ですわよ」
魔王の玉座がスクラップと化した静寂の中、地下から響いてくる不快な音。
わたくしは計算尺を閉じ、リィンに視線で指示を出しました。
床に展開された魔法陣が、脈動するように七色に光り輝いています。ですが、その輝きは聖なるものではなく、射幸心を煽るための「毒」の色でした。
「エルゼ。……地下に、大量の『魂』が詰め込まれた箱がある。……そして、その箱が空くたびに、外側の奴らが歓喜している気配がするな」
シグルド様が黄金の瞳を床へと向け、不快そうに牙を剥きました。
龍の直感。それは、この世界のエネルギー循環が「博博」によって成り立っていることを正確に捉えていました。
『――おめでとうございます! 絶望の積み上げにより、召喚ポイントが満了しました! さあ、一%の希望を掴み取れ! レッツ、ブレイブ・召喚!』
空虚な合成音声が響き渡ります。
リリアナ様が、青ざめた顔で魔法陣を見つめていました。
「……これ、私たちが死ぬたびに、新しい『勇者』を呼ぶためのポイントが溜まってたの? ……私たちの命は、誰かの遊び(ガシャ)のチップだったっていうの……?」
「左様ですわ、リリアナ様。……不当な抱き合わせ販売、および確率の不透明性。……わたくし、このビジネスモデルを看過するほどお人好しではありませんの」
わたくしは魔法陣の中央へと歩み寄り、計算尺を突き立てました。
――$[Audit Mode: Probability Analysis]$
視界に溢れ出すのは、おぞましいほどに操作された乱数の羅列でした。
| 項目 | 表記確率 | 実効確率(実測値) | 補正要因 |
| :--- | :--- | :--- | :--- |
| **SSR 聖剣の勇者** | 1.0% | 0.0003% | 運営による「絞り」 |
| **SR 魔導の賢者** | 5.0% | 0.2% | 特定条件下でのみ排出 |
| **R 鉄屑の戦士** | 94.0% | 99.7997% | 在庫処分のための水増し |
「……あら、驚きましたわね。一%と謳いながら、実際には三万回に一回も当たらない計算。……これはもはや『確率』ではなく、『詐欺』と呼ぶべきものですわ」
わたくしの指摘に、空間が激しく明滅し、管理者(ネアの元同僚のような影)が姿を現しました。
『――ふ、ふん。確率とはそういうものだ! 運が悪いだけだろう? 文句があるなら、当たるまで魂(課金)を注ぎ込めばいい!』
「運、ですか。……ふふ。……シグルド様。この不遜な管理者に、『物理的な乱数調整』というものを教えて差し上げて」
「……承知した、エルゼ。……要するに、その『当たり』が出るまで、この魔法陣を叩き壊し続ければいいんだな?」
シグルド様が黄金の剣を逆手に持ち、魔法陣の「心臓部」へと突き立てました。
凄まじい衝撃波。ですが、魔法陣は壊れるどころか、シグルド様の圧倒的な魔力を「コイン」と誤認し、猛烈な勢いで回転を始めました。
『――エラー! エラー! 異常な入金を検知! 一兆連ガチャを開始します!』
「――さて、管理者様。……これより、わたくしがこの祭壇の『在庫』をすべて差し押さえさせていただきます。……確率は、収束させるものではありません。……資本の力で、物理的に固定するものですわ!」
わたくしは計算尺を最大まで引き伸ばし、召喚システムの「天井(保証)」をゼロに書き換えました。
$$P_{success} = 1 - (1 - p)^n$$
通常、試行回数 $n$ を増やしても成功確率 $P$ は $1$ に漸近するのみ。……ですが、わたくしの監査は、この数式そのものを破壊します。
わたくしが適用したパッチにより、成功確率 $p$ は強制的に $1$ へと固定されました。
「――全抜き(テイクオーバー)。……召喚された勇者たちを、わたくしの『人的資産』として一括計上いたしますわ!」
光が溢れ出しました。
虹色の光が、一度、十度、百度……数千回、数万回。
魔法陣から、かつて絶望の中で死んでいったはずの「SSR勇者」たちが、実体を持って次々と吐き出されていきます。
「な……ななな、何をした! 在庫が、数百年分の景品が空になる!」
「あら、在庫処分をお手伝いしただけですわよ。……。リリアナ様、ご覧なさい。……。あなたの『死』をチップにして溜め込まれた資産、すべてわたくしたちが回収いたしましたわ」
処刑場を埋め尽くす、伝説の武具を纏った勇者たちの軍勢。
ですが……。
現れた彼らの瞳には、感謝の光ではなく、システムに組み込まれたままの「狂気」と「戦意」が宿っていました。
「……エルゼ。……少しばかり、在庫の状態が悪いようだな。……。こいつら、自分たちが『解放された』ことに気づいていない。……。まだゲーム(殺し合い)の最中だと思っているぞ」
勇者たちが剣を抜き、わたくしたちを囲みます。
準備は、すべて整いましたわ。
確率の次は、不良在庫(狂った勇者)の品質改善ですの?
よろしいですわ。……。わたくしの経営方針に逆らう社員(勇者)には、一単位の猶予もない『再教育』を執行させていただきますわよ!
「確率」を資本でねじ伏せ、ボックスを全抜きする……。
エルゼ様の強引な買収により、ダークファンタジー世界を支配していた「ガシャ」の祭壇は崩壊いたしましたわ!
シグルド様の無限魔力が「コイン」代わりに使われるという、まさに規格外の攻略法ですわね。
しかし、吐き出された景品(勇者)たちは、長年の運営により心が壊れた「不良資産」……。
彼らをどうやって「使い物になる人材」へと更生させるのか、エルゼ様の手腕が問われます。
次回、第29話。
「魂の減価償却。……死ぬたびに価値が落ちることに気づきませんの?」。
狂った勇者たちを、エルゼ様が「資産価値」の観点から一喝。
真のハッピーエンドに向けた、地獄の社員研修が始まりますわよ!
エルゼ様の「全抜き・ざまぁ」にシビれた方は、ぜひ【ブックマーク】と【評価】をお願いいたしますわ。
皆様の投資(評価)が、エルゼ様の「確定排出」の権限をさらに強化するのですから!




