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『完璧すぎて可愛げがない』と婚約破棄されましたが、帝国の魔力供給・経済・外交を全て停止して隣国へ移住しますわ。――今更「戻ってきてくれ」? どこのどなたかしら?  作者: 桐谷ルナ
続編・第1章:多元宇宙監査機関MAA:不当な「悲劇」はわたくしが損切り(損害賠償)いたしますわ

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第27話:魔王の資産査定。……その角、スクラップ価格で買い叩きますわね

「――五月蝿うるさいですわよ。一単位の低周波ノイズを撒き散らして威圧したつもりかしら?」


 空を覆い尽くさんとする巨大な死神の影。その「絶望の主」が放つ、魂を凍らせる絶叫を、わたくしは広げた扇子一枚で遮りました。

 足元の石畳は黒い霧に侵食され、生きとし生けるものの生命力を吸い取っていますが……あいにく、わたくしの計算尺スライド・ルールが展開する「論理防壁」の内側では、あらゆる超常現象はただの数値データに変換されますの。


『……人間風情が、我が「死の契約」を否定するか。この世界は、我が支配する終わりなき悲劇のゆりかご。貴様らもまた、その歯車の一部に過ぎぬ……!』


「支配、ですって? ……ふふ。笑わせないで。わたくしに言わせれば、あなたは支配者などではなく、単なる『不採算物件の管理人』ですわ」


 わたくしは計算尺をカチリと操作し、虚空に赤いホログラムの数式を投影しました。

 それは、この「絶望の城」の維持にかかっている魔力量と、魂を磨耗させて得られる「絶望エネルギー」の収支報告書。


「ご覧なさいな。リリアナ様をリスタートさせるたびに発生する次元の摩擦係数、および時間の巻き戻しにかかる莫大な演算コスト。それに対し、何度も死を繰り返して『慣れ』が生じた魂から得られる絶望の質は、回を追うごとに低下していますわ。……直近一万回の利回りは、マイナス一二〇〇パーセント。……ねえ、あなた。経営の才能がゼロどころか、マイナスに振り切れている自覚はありますこと?」


『な……なにを……?』


「あなたが『絶対的な力』だと思い込んでいるその玉座も、城壁も、維持費が払えずボロボロではありませんか。……リィン、この城の『減価償却費』を算出しなさい」


「承知いたしました。……建築後五百年、魔力供給不足による劣化を考慮し、現在の資産価値は……ほぼゼロ。いえ、解体費用を考えれば、マイナス査定ですわ」


 リィンが淡々と告げると同時に、城の柱の一つが「ミシミシ」と情けない音を立てて崩れ落ちました。

 絶望の主が、巨大な影を揺らして激昂します。


『貴様ぁぁ! 我が威厳を、ただの金勘定で汚すか! 死ね! 今度こそ塵一つ残さず――』


「――オーナーに手を出すなと言っただろうが。この、出来損ないの影法師が」


 わたくしの前を、黄金の光が遮りました。

 シグルド様が、抜剣すらしていない黄金の鞘で、死神の鎌を軽々と受け止めていました。

 凄まじい衝撃波。ですが、シグルド様は欠伸あくびの一つでもしそうなほど余裕の表情で、黄金の瞳を細めます。


「……エルゼ。このゴミ、一秒で粉砕していいか? さっきから話が長いし、何よりこの城、カビ臭くてかなわない」


「お待ちになって、シグルド様。……物理的な破壊は、瓦礫の撤去費用という名の余計なコストを生みますわ。……それよりも。リリアナ様、あなたの出番ですわよ」


 わたくしの後ろで、震えながらも立ち上がったリリアナ様。

 彼女の瞳には、先ほどまでの虚無はなく、エルゼ・フォン・アシュバッハに伝染うつされた「不合理に対する激しい怒り」が灯っていました。


「……絶望の、主。……いいえ、無能な、管理者」


 リリアナ様が一歩前に踏み出します。

 その瞬間、彼女が何度も死を繰り返すことで積み上げてきた「絶望の蓄積ログ」が、わたくしの演算パッチによって「債権」へと変換され、彼女の周囲に黄金の請求書として具現化しました。


「私の……一兆回分の、苦しみ。……。その『未払い賃金』、今すぐ一括で、この世界の運営権ルートで支払ってもらうわ!」


「――全権行使エグゼクティブ・アクション。シグルド様、お願いしますわ!」


「……。ふん。……。承知した!」


 シグルド様が黄金の剣を抜き放ち、一閃。

 それは死神を斬るための剣ではなく、この世界の「絶望のシステム」という名の古い契約書を、物理的にシュレッダーにかけるための一撃。


 轟音と共に、絶望の主が纏っていた黒い霧が剥ぎ取られ、中から現れたのは……。

 ひび割れた仮面を被った、震える小さな「観測者」の影でした。


「……。あら。……。巨大な魔王の正体が、こんな『使い古された端末』だったなんて。……。シグルド様、その仮面。……。素材はオリハルコンの三級品ですね。……。スクラップ価格で、銅貨一枚分といったところかしら」


『ひっ……! あ、ありえない! 「死のループ」は、上位次元の「読者」が望む最高の娯楽だったはず……。それを、こんな数字だけでぶち壊すなんて……!』


「娯楽? ……。ふふ。……。わたくし、利益の出ない娯楽ギャンブルは、公序良俗に反する『不当景品』として没収することにしていますの」


 わたくしは仮面の影を足蹴にするように見下ろし、計算尺を向けました。

 

 ですが。

 仮面が砕け散る直前、城の奥底から、さらに禍々しい……。

 今までの「絶望」とは質の違う、極めて現代的で、かつ不快な「音」が聞こえてきました。


 ――チャリン。チャリン。

 コインが落ちるような音。そして、無機質な音声。

 『――累計一兆デス達成。……。ボーナス確定。……。最高レアリティ勇者「ガシャ」を解放します』


「……。勇者、ガシャ……?」


 わたくしの眉が、不快感で跳ね上がりました。

 

 準備は、すべて整いましたわ。

 

 ダークファンタジーの次は、確率操作いかさまだらけの「ガシャ(賭博)」の世界ですの?

 よろしいですわ。……。その「排出率」という名の詐欺行為、わたくしの監査で根こそぎ『営業停止』に追い込んで差し上げますわよ!

魔王(経営者)を「資産価値ゼロ」と切り捨て、玉座ごとスクラップに仕分けする……。

エルゼ様の監査は、ダークファンタジーの頂点すらも、一単位の猶予なく「不良在庫」へと変えてしまいましたわ!

リリアナ様も、一兆回分の絶望を「債権」として叩きつけるという、最強の取り立て屋へと華麗なるクラスチェンジですわね。


しかし、城の奥から響く「ガシャ」の音。

「絶望」の裏に隠されていたのは、命をチップにした最悪の確率博打ギャンブルでした。


次回、第28話。

「『勇者ガシャ』の不正操作。……排出率〇%の希望なんて負債ですわ」。

エルゼ様、ついに「確率」という名の世界の不条理に、統計学と法的措置で殴り込みますわよ!


エルゼ様の「確率監査」に期待してくださる投資家の皆様、ぜひ【ブックマーク】と【評価】をお願いいたしますわ。

皆様の投資アクションが、エルゼ様の「SSR確定・強制執行」のトリガーになるのですから!

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