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『完璧すぎて可愛げがない』と婚約破棄されましたが、帝国の魔力供給・経済・外交を全て停止して隣国へ移住しますわ。――今更「戻ってきてくれ」? どこのどなたかしら?  作者: 桐谷ルナ
続編・第1章:多元宇宙監査機関MAA:不当な「悲劇」はわたくしが損切り(損害賠償)いたしますわ

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第26話:一兆回のサービス残業。……福利厚生に「蘇生」は含まれませんわ

「――な……何だ貴様は……! この『儀式』を邪魔する者は、死神の鎌によって魂を刈り取られると知れ!」


 空を裂くような処刑人の咆哮。

 ですが、わたくしの展開した青い監査結界は、その鎌のひと振りさえも一ミリの侵入を許しません。

 わたくしは計算尺をパチンと閉じ、首を跳ねられそうになっていた少女――リリアナ様の前に、ゆったりと歩み出しました。


「死神、ですって? ……。あら、ずいぶんと時代遅れなビジネスモデルを維持していらっしゃいますのね。わたくしに言わせれば、あなたのやっていることは神聖な儀式などではなく、単なる『悪質な労働搾取』ですわよ」


「……。労働、搾取……?」


 リリアナ様が、虚ろな瞳を微かに揺らしました。

 彼女の頬を伝う涙は、何万回繰り返されたか分からない絶望の蓄積。

 わたくしは彼女に背を向けたまま、処刑人に向けて冷徹に言い放ちました。


「ええ。……。このリリアナ様を何度も死なせ、そのたびに時間を巻き戻して再利用する。……。これは経営の観点から見れば、一人の社員を死ぬ直前まで働かせ、蘇生薬を飲ませて再び現場へ放り込む『無限残業』と何ら変わりませんわ。……。処刑人様。あなた、彼女に『休日』や『深夜手当』、一単位でも支給しましたこと?」


「……。き、貴様、何を……! これは世界を浄化するための……!」


「浄化? ……。笑わせないで。……。わたくしの試算では、このループ一回につき、この世界の次元エネルギーが膨大に漏洩していますわ。……。時間を巻き戻すという『再起動リブート』にかかるコストを、誰が支払っているとお思い? ……。あなたのオーナーは、負債を垂れ流しながら、リリアナ様の魂という『有限な資産』を磨耗させているだけの、無能な経営者ですわ」


 わたくしの言葉に、処刑人の動きが止まりました。

 論理による攻撃は、この世界の「絶望の理」を物理的な破壊よりも深く抉ります。


「――オーナーが話している最中に鎌を動かすなと言ったはずだ。……。耳が聞こえないのか? それとも、今すぐその首を『資産価値ゼロのゴミ』にしてやろうか?」


 わたくしの隣で、シグルド様が黄金の剣を僅かに抜きました。

 凄まじい魔圧。

 処刑場の石畳がミシミシと悲鳴を上げ、周囲に控えていた骸骨兵たちが自らの重圧に耐えきれず、次々と粉砕されていきます。


「シ、シグルド様、少し抑えて。……。わたくしの計算尺の数値が乱れますわ。……。さて、リリアナ様。……。いつまでその汚れた地面に這いつくばっているおつもり?」


 わたくしはリリアナ様に手を差し伸べました。

 

「……。私、……。もう、どうすればいいか……。……。死んでも、死んでも、またここに戻ってくるの。……。神様なんて、いない……」


「ええ、神はいませんわ。……。ですが、わたくしという『監査官』ならここにいます。……。リリアナ様。あなたのこれまでの『一兆回に及ぶ不当な死』。……。わたくしがすべて『債権』として計上し、あなたの主に一単位残らず精算ざまぁさせて差し上げますわ。……。わたくしの下で、新しいキャリアを築く勇気、ありますこと?」


 リリアナ様の瞳に、初めて「絶望」以外の光が灯りました。

 それは、自分を虐げた運命に対する、冷たく、燃えるような「憤り」。


「……。精算、……。して、くれるの? ……。あいつに、……。私を殺し続けたあの『主』に、……。謝らせるんじゃなくて、後悔させてくれるの?」


「あら。……。謝罪なんて、一銭の価値もありませんわ。……。わたくしが教えるのは、彼らが積み上げた『絶望の塔』を、一瞬で『負債の山』に変えて、その存在自体を倒産デリートさせる方法ですのよ」


 リリアナ様が、わたくしの手を力強く握りしめました。

 

 ――[Character: Liliana - Status Changed: Asset Under Management]

 

 わたくしの視界に流れる青いログ。

 準備は、すべて整いましたわ。


「……。さて、シグルド様。……。この処刑場のメンテナンスコスト、無駄に高すぎますわね。……。不法占拠されているこの土地ごと、わたくしが『差し押さえ』いたします。……。反対する者は、物理的に精算してよろしくてよ?」


「……。はは。……。了解だ、エルゼ。……。俺も、この気味の悪い空気を一掃したかったところだ」


 シグルド様が黄金の剣を完全に引き抜いた瞬間、処刑場の空を覆っていた鉛色の雲が、龍の咆哮のような衝撃波によって消し飛ばされました。

 

 ですが、その静寂を破るように。

 処刑場の中央に、巨大な黒い影が、次元を歪ませながら立ち上がりました。


『――愚かな。……。我が定めた「死の契約」を破る者がいようとは。……。エルゼ・フォン・アシュバッハ。……。お前の魂も、無限の苦痛で磨り潰してやろう……』


「……。あら。……。ようやく出てきましたわね。……。絶望の経営者様オーナー。……。まずは、溜まりに溜まった『福利厚生未払い分』の請求書から、じっくり読み合わせて差し上げますわ!」

「死に戻り」を「未払い残業」と断じ、絶望の理を会計報告で切り裂く……。

エルゼ様の合理主義は、ダークファンタジーの残酷な世界ですら、一単位の逃げ場も与えませんわ。

リリアナ様も「絶望」から「経営再建」へと舵を切り、シグルド様の剣がその道を切り拓きます。


しかし、ついに姿を現した「絶望の主」。

彼が持つ「死の契約」という名の不条理に、エルゼ様はどうやって「監査」のメスを入れるのか……。


次回、第27話。

「魔王の資産査定。……その角、スクラップ価格で買い叩きますわね」。

エルゼ様、死神の城に直接乗り込み、玉座の減価償却を開始いたしますわよ!


エルゼ様の「ループざまぁ」を応援してくださる投資家の皆様、ぜひ【ブックマーク】と【評価】をお願いいたしますわ。

皆様のその「投資アクション」が、リリアナ様の失った一兆回分の魂の価値を、最大化させるのですから!

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