第25話:次なる監査対象は――。……あら、「死に戻り」のランニングコストが最悪ですわね
「――ネア。いつまでそこで震えていらっしゃるの? その『ノイズを吐き散らす』という悪癖、わたくしの監査船の精密機器に影響を与えますわよ」
次元監査船『アシュバッハ号』。
かつての学園ラブコメ世界を「運営権」ごと買収し、その演算リソースを転用して建造したわたくしの移動オフィスですわ。
艦橋の特等席で、わたくしは銀の計算尺を弾き、次元の狭間に漂う無数の「物語の断片」を眺めていました。
「……社長。……無理です、死にます。……。次の世界は、私のいたラブコメとは『殺意のレイヤー』が違います……。あそこは、キャラクターをゴミのように殺しては戻す、悪趣味な『死にゲー』の巣窟です……」
元・ラブコメの神、現在はわたくしの「次元ガイド兼、システム保守担当(契約社員)」となった少女、ネアが真っ青な顔でモニターを指差しました。
モニターに映し出されているのは、空が鉛色に濁り、至る所に死体と錆びた剣が転がっている凄惨な戦場。
その中央。一人の少女が、首を跳ね飛ばされようとしていました。
しかし、その瞬間に時間が巻き戻り、彼女は再び、処刑の直前から「リスタート」させられる。
それを、もう数万回も繰り返しているようです。
「……。一兆回死んでも終わらないループ。……。そして、死ぬたびに『絶望』という名のエネルギーを吸い取る、悪質な運営……。シグルド様、これをご覧になってどう思われますこと?」
わたくしの隣。現代のスーツ姿から、再び龍王の威厳を纏った鎧へと着替えたシグルド様が、黄金の瞳に不快感を露わにしました。
「……。反吐が出るな。……。剣を振るう相手すら選べず、ただ『死ぬこと』を強要される少女か。……。エルゼ、あそこには『誇り』も『利得』もない。……。ただの、壊れた屠殺場だ」
「左様ですわね。……。特に、この『死に戻り』というシステム。……。時間を巻き戻すたびに消費される次元エネルギーと、そのたびに磨耗していく魂の資産価値。……。わたくしの計算では、この世界全体の利回りはマイナス九千パーセントを超えていますわ」
私は立ち上がり、扇子をバッと広げました。
「ネア。……。座標固定。……。これより、この『ブラックな悲劇』に監査のメスを入れますわ。……。一単位の無駄も許さない、完璧な『ハッピーエンド・マニュアル』を叩き込んで差し上げましょう」
「ええっ、降りるんですか!? あそこ、触れただけで『死の呪い』がスタックする……」
「――主の決断に二度聞きするな。……。ネア、お前はここでエンジンの回転でも監視していろ。……。行くぞ、エルゼ。……。その『死のループ』とやら、俺の魔圧で粉砕していいんだろう?」
「ええ、旦那様。……。ですが、まずは『契約の無効化』からですわ」
わたくしたちは、監査船の転送デッキへと向かいました。
――転送開始。
視界がホワイトアウトし、次の瞬間、強烈な血生臭さと、魂を削り取るような「死の魔力」が襲いかかってきました。
ギィ、と。
錆びた大斧が振り上げられる音。
何度も死を繰り返した少女の、虚無に染まった瞳。
「――お止まりなさい。その『処刑』、現在わたくしが法的差し押さえ(ロック)を実行中ですわ」
処刑人の斧が、少女の首筋に触れる寸前。
わたくしが計算尺を地面に突き立てると、周囲の空間に巨大な青い「監査(AUDIT)」の結界が展開されました。
斧が、目に見えない論理の壁に阻まれ、火花を散らして弾かれます。
「な……何だ、貴様らは……!? このループは、偉大なる『絶望の主』が定めた運命……」
「運命? ……。あら。……。わたくしの帳簿には、そんな『不当な減価償却』を認める項目はございませんわ。……。処刑人様。あなたの雇用主、未払いの税金と、この少女に対する『過重労働(無限死)』の賠償金で、既に破産しておりますわよ?」
わたくしは、呆然とする少女――この世界の「犠牲者」に向かって、最高に可愛げのない微笑みを浮かべました。
「ごきげんよう、絶望の令嬢。……。わたくしはエルゼ・フォン・アシュバッハ。……。あなたのその『無限の死』、わたくしが適正価格で買い叩き、明日から『有意義な余暇』へと変換して差し上げますわ」
準備は、すべて整いましたわ。
死に戻りだの、ループだの。……。そんな非効率なデバッグ手法、わたくしの監査で根こそぎ『最適化』して差し上げますわよ!
第3部「ダークファンタジー・ループ監査編」、開幕です!
これまでの学園ラブコメとは一転、今回は「命」そのものがチップとして使われる、極めてコストの高い世界。
「死んで戻る」という不条理を、エルゼ様がどうやって「経営不振」として切り捨てていくのか……。
ネアも「社畜」としてすっかり馴染んで(?)きましたが、シグルド様は、新しい世界の「斬り甲斐のある絶望」にワクワクされているご様子。
次回、第26話。
「一兆回のサービス残業。……福利厚生に『蘇生』は含まれませんわ」。
エルゼ様、まずはこの世界の「死のルール」を書いている黒幕(経営者)に、膨大な滞納請求書を叩きつけに行きます!
新章も全力で「ロジカル・ざまぁ」して参りますので、応援してくださる方は【ブックマーク】と【評価】で、エルゼ様の次元監査船に『燃料』を投下してくださいまし!
皆様の投資が、エルゼ様の監査スピードを限界突破させるのですから!




