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『完璧すぎて可愛げがない』と婚約破棄されましたが、帝国の魔力供給・経済・外交を全て停止して隣国へ移住しますわ。――今更「戻ってきてくれ」? どこのどなたかしら?  作者: 桐谷ルナ
続編・第1章:多元宇宙監査機関MAA:不当な「悲劇」はわたくしが損切り(損害賠償)いたしますわ

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第29話:魂の減価償却。……死ぬたびに価値が落ちることに気づきませんの?

「――お黙りなさい。その、壊れた蓄音機のような咆哮……。わたくしの耳には、価値の下落を告げるアラート音にしか聞こえませんわ」


 処刑場を埋め尽くす、虹色の輝きを纏った勇者たちの軍勢。

 彼らは「聖剣の勇者」や「魔導の賢者」といった、本来ならこの世界の救世主となるべきSSR(最高レアリティ)の存在。……ですが、今の彼らの瞳は濁り、口端からはよだれを垂らし、ただ「殺せ」と「死ね」という、運営に刷り込まれた単調なプログラミングに従って剣を振り上げています。


「死ねぇっ! ポイントだ! 俺たちはポイントになるんだぁ!」


 先頭の勇者が、血走った目で聖剣を振り下ろそうとしたその瞬間――。


「――オーナーが『黙れ』と言ったんだ。……言葉が通じないなら、その首ごと『物理的に精算』してやるぞ」


 シグルド様が黄金の鞘を振るい、勇者の聖剣を真っ向から受け止めました。

 衝撃波で周囲の石畳が爆ぜますが、シグルド様は微動だにせず、黄金の瞳に冷徹な殺意を宿して勇者を睨み据えます。


「エルゼ。……こいつら、魂が腐っている。……死を繰り返させられすぎて、自分が『人間』だという自覚すら削り取られているぞ」


「左様ですわね、シグルド様。……。ですが、腐っているからといって廃棄するのは非効率ですわ。……リリアナ様、わたくしの後ろで、彼らの『ステータス・ログ』を記録なさい」


 私は計算尺を最大まで引き出し、空間に巨大な「魂の評価曲線」を投影しました。


「――全勇者に告ぐ。……あなた方は今、自分たちが『選ばれし強者』だと思い込んでいるようですけれど、わたくしの監査によれば、現在のあなた方は『著しく減価償却が進んだ中古資産』に過ぎませんわ」


 勇者たちの動きが、一瞬止まりました。

 彼らの頭上に浮かび上がる、残酷なまでの赤い数値。


> **魂の残存価値算定式:**

> $$V(n) = V_0 \times (1 - d)^n$$

> $V_0$: 初期価値(SSR)

> $d$: 死による魂の磨耗率(減価償却率)

> $n$: ループ回数(死に戻りの回数)


「……あなた方は、死に戻りを繰り返すたびに、魂の輪郭を削り取られてきた。……。一兆回も死を繰り返した結果、現在のあなた方の資産価値は、道端の石ころ……いいえ、運営が使い捨てにする『ただのポイント(素材)』にまで下落していますわ。……。そんな状態で戦い続けて、一体何の『利得』がありますの?」


「う……あ……。俺たちは……勇者……ポイント……」


「いいえ。……あなた方は、未払いのサービス残業を強いられている『不当解雇寸前の社員』ですわ。……。リリアナ様を見てごらんなさい。……彼女はわたくしの下で、既に自らの『債権者』としての権利を取り戻しましたわよ」


 私の隣で、リリアナ様が震えながらも、彼らに向かって叫びました。


「……みんな! 思い出して! ……私たちは、誰かを喜ばせるための『景品』じゃない! ……。エルゼ様は……、私たちの苦しみを、一単位の狂いもなく『請求書』に変えてくれるわ!」


 その言葉が、勇者たちの曇った瞳に、パリンと、ガラスが割れるようなヒビを入れました。

 運営による洗脳プログラミングが、エルゼ・フォン・アシュバッハの「冷徹な事実提示」と、リリアナの「共感」という名のパッチによって書き換えられていく。


「……あ……。俺は……。何を……。聖剣……? ……。俺の手は、もう……血と泥で……」


「――気付きましたわね。……。よろしいですわ。……。正気に戻ったのなら、わたくしの『正規雇用契約』にサインなさいな。……。一兆回分の死、そのすべてをわたくしが『運営への賠償金請求権』として買い取って差し上げますわ。……。その代わり、あなた方はこれより、わたくしの『次元監査軍』の社員として、この不採算な世界ダンジョンを根こそぎ解体していただきます」


 勇者たちが一人、また一人と膝を突きました。

 彼らの纏っていた濁った光が消え、静かな、けれど力強い決意の色に変わります。


「……。ふふ。……。不良資産の『再評価リバリュエーション』、完了ですわ」


 私は満足げに計算尺を閉じました。

 

 ですが、その勝利の瞬間に。

 処刑場の空に、かつてないほど巨大な、不気味な赤い「バー」が出現しました。


『――[緊急告知] 異常なユーザー行動を確認。……。バランス崩壊を検知したため、これより「緊急メンテナンス」および「難易度修正パッチ」を適用します』


 ゴゴゴゴ……と、大地が揺れ、処刑場の壁が、意思を持っているかのように巨大な牙を持つ壁へと変貌していきます。

 

『――限定イベント「絶望の終焉エンド・オブ・デザイア」開始。……。監査官エルゼ・フォン・アシュバッハを、次元のバグとして「永久凍結(BAN)」します』


「……。あら。……。議論に負けたら強制的にアカウントを消そうなんて。……。運営様、あなたのコンプライアンス意識、わたくしが根底から叩き直して差し上げる必要があるようですわね」


 準備は、すべて整いましたわ。

 

 緊急メンテナンス? アカウント凍結(BAN)?

 ふふ。……。わたくしの監査を止めたければ、この全次元そのもののサーバーを、わたくしの資本から守り抜いてご覧なさいな!

「魂の減価償却」を指摘し、伝説の勇者たちを「中古資産」として正気に戻す……。

エルゼ様の放つ冷徹な算式は、運営が植え付けた狂気すらも「非効率」として剥ぎ取ってしまいましたわ!

リリアナ様の叫びも加わり、ついに「次元監査軍・第1勇者部隊」の結成ですわね。


しかし、追い詰められた運営が放った禁じ手――「緊急メンテナンス」と「永久凍結(BAN)」。

物理的な攻撃ではなく、世界の存在そのものを否定する管理者コマンドに対し、エルゼ様はどう「抗弁」するのでしょうか。


次回、第30話。

「監査執行:死の迷宮。……一単位の迷いもなく、最短ルートを買収します」。

メンテナンスでカオスと化した迷宮を、エルゼ様が「物理と論理」の両面で強引にショートカットいたしますわよ!


エルゼ様の「BAN回避・ざまぁ」を応援してくださる投資家の皆様、ぜひ【ブックマーク】と【評価】をお願いいたしますわ。

皆様の投資アクションが、エルゼ様の「管理者権限(管理者パスワード)」のハッキング速度を最大化させるのですから!

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