第22話:龍王の「文化祭」。……シグルド様の焼きそば、火力が過剰ですわ
「――さて。時間が動き出しましたわね。リィン、直ちに『文化祭』という名の非効率なリソース消費イベントの全容をスキャンなさい」
わたくしが扇子をパッと閉じると同時に、屋上のモノクロームな世界は一転、喧騒のるつぼへと戻りました。
呆然と立ち尽くすケンジ様と、何が起きたか分からず顔を歪ませる陽菜様。そして、先ほどまで「神」だった少女は、不機嫌そうにノイズを撒き散らしながら消え去っていました。
「……あ、エルゼ様……。時間は、動き出したんですね」
サトミ様が、震える声で尋ねます。その瞳にはもう、かつての弱気な影はありません。
「当然ですわ。わたくし、止まったままの時計に投資する趣味はございませんもの。……シグルド様、いつまで剣を抜いていらっしゃるの? 服装規定違反ですわ。今すぐその物騒な得物を収納し、エプロンを装着なさいな」
「……。え? ……おい、エルゼ。今、俺をなんと呼んだ?」
「焼きそば担当のシグルド様、ですわ。……サトミ様のクラスの出し物、わたくしの計算では開始三十分で『債務超過(在庫切れとオペレーション崩壊)』による倒産が確定しておりますの。……。わたくしのポートフォリオに、そんな汚点は許しませんわよ」
――十分後。
サトミ様の教室……もとい、即席焼きそば店「サトミのキッチン(わたくしが命名いたしました)」の前には、地響きのようなざわめきが起きていました。
「な……なんだよ、あの銀髪のイケメン……!? プロのシェフか!?」
「っていうか、佐々木さんの隣の女の人、何!? オーラがヤバすぎるんだけど……」
教室の中央。そこには、純白のエプロンを纏い、鉄板の前で不機嫌そうにコテを握るシグルド様の姿がありました。
「……おい、エルゼ。この鉄板という板……。熱伝導率が悪すぎる。じれったい。……。俺が直接火を吐いた方が早いのではないか?」
「おやめなさい。……。校舎が溶ければ、損害賠償金の計算が複雑になりますわ。……。シグルド様、あなたの魔力で鉄板の温度を、一ミリのムラもなく二百度に固定しなさい。……。そしてリィン、あなたは麺の投入タイミングを一秒単位で指示して」
「承知いたしました。……物理演算、最適化完了です」
シグルド様がコテを振るうたび、教室内には「龍の吐息」……もとい、芳醇なソースの香りが爆風のように吹き荒れました。
超高温で一気に焼き上げられた麺は、もはや屋台のレベルを超えた「究極の芸術品」。
サトミ様は、わたくしが用意した「高効率レジシステム(ノートパソコン)」を使いこなし、次々と押し寄せる注文を、一単位の滞りもなく捌き続けています。
「……。すごい……。私、あんなに怖かったみんなと、ちゃんと『仕事』ができてる……」
サトミ様が、汗を拭いながら微笑みます。
クラスの主導権を握っていた「陽菜様の取り巻き」たちは、もはやエルゼ様の圧倒的な指揮能力とシグルド様の威圧感の前に、忠実な給仕ロボットと化していました。
――$[Status: Class 2-A - Profitability Maximized]$
わたくしの視界に流れる青いログ。
昨日まで「当て馬」として無視されていたサトミ様は、今や文化祭の「中心」として、学校中の羨望の的となっていました。
ですが。
わたくしが最高級のハーブティーを一口飲み、売上グラフの右肩上がりを確認していた、その時。
「……。エルゼ。……。妙だ。……。肉の焼ける匂いではない、別の『腐った匂い』が混じり始めたぞ」
シグルド様がピタリと手を止め、黄金の瞳を廊下の向こうへと向けました。
わたくしの視界の端。
先ほどまで青かったログに、再び不気味な黒いノイズが走り始めます。
――$[Warning: Genre Interference Detected. Genre 'Love-Comedy' is being corrupted by 'Panic-Horror'.]$
「……。あら。……。管理者様。……。わたくしとの交渉に負けたからといって、別のジャンルの『不純物』を混ぜて不当に難易度を上げようというのですか?」
廊下から、生徒たちの短い悲鳴が聞こえました。
準備は、すべて整いましたわ。
ラブコメの世界に迷い込んだ「パニックホラー」の怪物様。……。わたくしの文化祭を邪魔するノイズは、たとえジャンル違いでも根こそぎ『強制清算』して差し上げますわよ。
文化祭、最高潮!……と思いきや。
エルゼ様の完璧な経営を邪魔するように、管理者が禁じ手の「ジャンルミックス」を仕掛けてまいりました。
焼きそばを焼いていたシグルド様も、ついにエプロンを脱ぎ捨てるお時間のようです。
最強の夫婦は、ラブコメ世界の日常を守り抜き、さらに「ホラー」という名の不採算部門を買い叩けるのでしょうか!?
次回、第23話。
「設定破壊(パッチ適用)。……『幼馴染』は、投資回収のフェーズに入りましたわ」。
校舎を彷徨う怪物と、それに怯えるケンジたち。エルゼ様、混乱する現場で「命の価値」を冷徹に査定し始めます!
エルゼ様の「ジャンル越境・ざまぁ」を応援してくださる投資家の皆様、ぜひ【ブックマーク】と【評価】をお願いいたしますわ。
皆様のその「投資」が、エルゼ様の監査能力に『パニック耐性』という名の最強パッチを適用させるのですから!




