第21話:ラブコメの神(管理者)、降臨。……規約違反につき、この世界を差し押さえます
「――誰が『やりすぎ』ですって? 一単位の礼儀も持ち合わせていない、不法侵入者に言われたくありませんわ」
時間が、止まっていました。
屋上のフェンスから飛び散った火花も、泣き叫ぶ陽菜様の涙も、風に舞うサトミ様の髪も。
すべてが、まるで低品質な動画を一時停止したように、不自然に静止しています。
そのモノクロームの世界で、唯一、色鮮やかに動く少女――「神」と自称する管理者が、空中を歩いてわたくしの目の前に立ちました。
『エルゼ・フォン・アシュバッハ。……。あなたのせいで、この物語の「エンゲージメント(読者の満足度)」がガタガタですわ。……。本来なら、当て馬のサトミが惨めに身を引くことで、メインヒロインの陽菜が輝くはずだったのに』
「エンゲージメント? ……。ふふ。……。神を名乗る割には、語彙が卑近ですわね」
わたくしは扇子を閉じ、無機質な視線を彼女に返しました。
時間の停止? ……。そんな安っぽい「管理者権限(管理者コマンド)」で、わたくしの思考まで止められると思っているのかしら。
「あなたの言う『輝き』とは、一人の少女の人生を犠牲にした上での『期間限定のセール』のようなものでしょう? ……。わたくしに言わせれば、そんなプロットは持続可能性がゼロの、不採算事業ですわ」
『うるさいわね。……。読者はね、スカッとする「勝ち」が見たいのよ。……。不純物であるあなたが介入する前の、綺麗な物語に戻してあげるわ』
管理者が指を鳴らそうとした、その時。
「――主を無視して指を鳴らすな。……。不愉快だ」
ドクン、と。
止まっていたはずの世界の心臓が、無理やり動かされたような衝撃が走りました。
シグルド様が黄金の剣を抜き、重力という名の規約を物理的にこじ開けて、わたくしの隣へ歩み寄ったのです。
『な……っ!? 時間を止めているのよ!? ……。どうして動けるの、その「重いデータ(シグルド)」が!』
「……。ふん。……。時間の流れなど、俺の魔圧に比べれば、凍った泥水も同然だ。……。エルゼ、この生意気な管理職、今すぐ細切れにして、この世界の『ゴミ箱(削除フォルダ)』に放り込んでいいか?」
「お待ちになって、シグルド様。……。暴力的な削除は、バックアップの喪失を招きますわ。……。ここは、わたくしが『法的に』差し押さえます」
わたくしは銀の計算尺を天に掲げました。
視界に溢れるのは、この世界の「利用規約(世界法則)」のソースコード。
「管理者様。……。わたくし、先ほどこの世界の『利用規約・第1条』を読み解かせていただきました。……。そこには『この世界の物語は、登場人物の自由意志に基づく行動を尊重する』と記されていますわ。……。あなたが今行おうとしている『修正』は、規約に対する明らかな『自己矛盾』であり、ユーザー(住人)に対する背信行為ですわよ」
『な、何よそれ……。……。そんなの、私が勝手に書いた……』
「書いた時点で、それは『契約』となりますのよ。……。わたくし、エルゼ・フォン・アシュバッハは、この世界の住民であるサトミ様、およびシグルド様の委任を受け、あなたの『運営権』の一部を差し押さえさせていただきますわ」
計算尺が青い光を放ち、管理者の足元に巨大な「監査(AUDIT)」の文字が刻まれました。
「――これより、この世界を『監査期間中につき凍結』いたします。……。あなたが次に指を鳴らしてプロットを改ざんしようとした瞬間、蓄積された不条理の『遅延損害金』として、あなたの神格エネルギーをすべて没収いたしますわ。……。よろしくて?」
『っ……! ……。あ、ありえないわ……。……。一介の令嬢が、物語の外側の論理で私を縛るなんて……!』
管理者の身体が、ノイズのように激しくブレ始めました。
わたくしのロジックが、彼女の「特権」を「負債」へと書き換えた証拠です。
「……。さあ、管理者様。……。あなたの不採算な経営方針を正すお時間ですわ。……。まずは、この屋上の『夕日の無駄遣い』を止めてくださる? ……。電力(魔力)の浪費は、わたくしが最も嫌う損失ですの」
準備は、すべて整いましたわ。
ラブコメの神様。……。あなたが言う「読者の満足」とやらを、わたくしが『真の黒字』として再構築して差し上げますわよ。
……。ただし、その代償として、あなたの権限を『根こそぎ』いただきますけれど?
「神」を規約違反で訴え、運営権を差し押さえる……。
エルゼ様の監査は、ついに世界の理を超え、メタ的な次元へと到達いたしました。
シグルド様も、神の停止命令を魔圧でぶち抜くという、まさに「最強の資産」にふさわしい活躍ですわね。
一方、権利を奪われかけた管理者の少女。
彼女もただで引き下がるほど、お人好しな「神」ではないはずです。
次回、第22話。
「龍王の『文化祭』。……シグルド様の焼きそば、火力が過剰ですわ」。
監査期間中として「一時停止」が解けた世界。……ですが、神の悪あがきによって、文化祭という名の「カオス」が襲いかかります!
エルゼ様の「神へのざまぁ」にシビれた方は、ぜひ【ブックマーク】と【評価】をお願いいたしますわ。
皆様の投資(評価)が、管理者の「神格」をさらに削り、エルゼ様の監査権限を盤石にするのですから!




