第16話:ハッピーエンドの賞味期限。……その「結末」、わたくしが買い叩かせていただきますわ
皆様、ごきげんよう。
「完結おめでとう」という温かいお言葉と共に、それ以上に膨大な「再開を求める署名」という名の投資をいただき、わたくし、計算尺を置く暇もございませんでしたわ。
一度は幕を閉じたこの物語。ですが、エルゼ様の「合理性」は、用意された結末の中に大人しく収まるほど可愛らしくはありません。
ここからは第2部。舞台は帝国を超え、全次元、全ジャンルの「不条理」を監査する、真のM&Aが始まります。
「完結したはずなのに、ここからが本番なの?」
ええ、当然ですわ。利益が出る限り、わたくしの経営に終わりなどございませんもの。
それでは、さらに過激になった「ざまぁ(監査)」の旅へ、皆様を強制連行いたしますわよ。
「――ご愛読、ありがとうございました。……末永く、お幸せに」
帝都の青い空に、突如として浮き上がった巨大な金色の文字。
それは、この大陸の全住民が見上げ、涙を流して「ああ、救われたのだ」と確信させるに足る、神々しい『結末』の宣告でした。
帝国は再建され、悪は滅び、女王エルゼ・フォン・アシュバッハは隣国の賢者たちと手を取り合った。
……完璧なハッピーエンド。普通なら、ここで本を閉じ、心地よい余韻に浸るところでしょう。
ですが、わたくしは広場の中央で、その文字を汚物でも見るような目で見上げていました。
「……ふざけないで。誰が『終わり』だなんて許可いたしましたの?」
わたくしが銀の計算尺をパチンと弾くと同時に、空の金色の文字が、バグったモニターのように激しく明滅しました。
――[Error: Critical Asset Mismanagement Detect.]
「エルゼ。……やはり、君もそう思うか。……平和すぎて、俺の剣が錆びるどころか、この世界全体の『密度』が薄くなっていくのを感じるぞ」
背後に立つシグルド様が、不機嫌そうに鼻を鳴らしました。
彼は黄金の瞳を細め、誰もいないはずの『空の向こう側』を睨み据えています。
「当然ですわ、シグルド様。……ご覧なさいな。この『幸せな結末』とやらのせいで、帝国のGDP成長率は横ばい、人々の消費意欲は減退、何よりわたくしへの『挑戦』がゼロになりました。……物語として完結するということは、これ以上の付加価値が生まれない『死に体(ゾンビ企業)』になるということでしてよ?」
わたくしは、空中を指先でなぞり、世界の「裏側」にアクセスしました。
そこには、前話で見つけたあの「観測者」のログが、さらに露骨な形で残されていました。
彼らはわたくしたちを「商品」として消費し、満足すればポイ捨てするように「完結」させ、次の新しい物語へと興味を移す。
……わたくし、そのような無責任な投資家(読者)の思い通りに、自分の人生をクローズ(清算)されるなんて、一単位の誤差も許容できませんの。
「リィン。……『次元監査船』の艤装は整って?」
「はい、エルゼ様。帝国全土から徴収した余剰魔力、およびシグルド様の龍脈エネルギーを変換し、隣接する『他ジャンルの物語』への境界突破準備、すべて完了しております」
「よろしい。……シグルド様。……わたくしたち、この退屈なハッピーエンドを『損切り』いたしますわ。……わたくしが欲しいのは、停滞した幸福ではなく、無限に拡張し続ける『次元の利得』ですの」
「……はは。……いいだろう。……この世界の壁の向こうに、もっと『斬り甲斐のある不条理』が転がっているというのなら、俺はどこまででも君に付き合おう」
シグルド様が黄金の剣を抜き、目の前の「空間」そのものを一刀両断しました。
バリバリと、現実の皮が剥がれるような轟音。
裂け目の向こう側に見えるのは――。
魔法も、龍も存在しない。鋼鉄のビルが立ち並び、人々がスマホという名の魔導具を握りしめ、そして「恋愛の不条理」に涙を流している……おぞましくも、魅力的な『未開の市場(ラブコメ世界)』。
『――警告。……キャラクターの逸脱を検知。……これ以上の介入は、全宇宙の著作権法に抵触します。……戻りなさい、エルゼ・フォン・アシュバッハ!』
空から響く「運営(神)」の狼狽えた声。
わたくしは、その声に向かって、最高に可愛げのない微笑みを浮かべました。
「著作権? ……あら。……わたくし、先ほどこの物語の『出版権』および『二次利用権』を、全次元の株式市場を通じて買収させていただきましたわ。……本日より、この物語の編集権は、わたくしにありますの」
わたくしは、次元の裂け目へと一歩を踏み出しました。
「……さあ、参りましょうか、シグルド様。……隣の世界では、ちょうど今、『幼馴染が当て馬として理不尽に捨てられる』という、極めて投資効率の悪い悲劇が発生しているようですわ。……その悲劇、わたくしが根こそぎ買い叩いて、ハッピーエンドへと『事業再生』して差し上げますわよ!」
物語の「外側」へと飛び出した、最強の女王。
準備は、すべて整いましたわ。
全次元の不条理の皆様。……わたくしの監査、一単位の漏れもなく覚悟してくださる?
第2部「多元宇宙合併買収(マルチバース・マージ&アクイジション)編」、開幕です!
ハッピーエンドの宣告を「規約違反」で蹴り飛ばし、自ら他ジャンルのデバッグに乗り出したエルゼ様……。
もはや彼女を縛れる設定は、この世に一つも存在いたしません。
シグルド様も、新しい世界の「未知の強敵(?)=不条理」を斬ることにワクワクが止まらないご様子。
第1部を楽しんでくださった皆様、そしてここから読み始める皆様。
エルゼ様の「ロジカル・ざまぁ」は、次元を越えてさらに加速いたしますわよ。
「再開待ってた!」「エルゼ様、もっとやれ!」と思ってくださったら、ぜひ【ブックマーク】と【評価】を再投資してくださいまし。
皆様のそのアクションが、エルゼ様の次元監査船の「燃料」になり、更新速度をブーストさせるのですから!




