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『完璧すぎて可愛げがない』と婚約破棄されましたが、帝国の魔力供給・経済・外交を全て停止して隣国へ移住しますわ。――今更「戻ってきてくれ」? どこのどなたかしら?  作者: 桐谷ルナ
続編・第1章:多元宇宙監査機関MAA:不当な「悲劇」はわたくしが損切り(損害賠償)いたしますわ

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第7話:騎士の誇りと雇用契約。……タンパク質は「名誉」では補えませんわ

「……来ましたわね。リィン、ステーキの焼き加減は? 彼らの胃袋の門限、もう過ぎておりますわよ」


 極寒の北方領、その境界線に設置された特設検問所。

 私は防寒用の毛皮に身を包み、優雅に椅子に腰掛けていました。

 目の前のテーブルには、じゅわじゅわと音を立てる最高級の牛ステーキが数百人分。香ばしい脂の香りが、凍てつく風に乗って南へと流れていきます。


「エルゼ様、完璧です。内部温度五十四度。騎士たちの空腹による苛立ちが、絶望的な食欲に変わる瞬間を計測しております」


 リィンがストップウォッチを片手に報告した直後、地響きと共に現れたのは、帝国の象徴たる「白銀騎士団」の主力五百騎。

 先頭を行くのは、かつて私を「冷酷な会計女」と疎んでいた堅物の騎士団長・レオン卿です。


「――エルゼ・フォン・アシュバッハ! 殿下への不敬、および国家財政への不当介入の罪により、貴殿を拘束する!」


 レオン卿が剣を抜き放ち、叫びました。

 ですが、その声はどこか力なく、甲冑の隙間からは「ぐぅ……」という、極めて非論理的な音が漏れ聞こえています。


「……あら、レオン卿。拘束なさる前に、まずはその震える手でナイフを持たれてはいかが? 計算によれば、あなた方は三日間、まともな食事を摂っていませんわね。帝国からの給与支給、二ヶ月連続で『ゼロ』でしたでしょう?」


「な……なぜそれを!」


「わたくし、帝国のメインバンクのオーナーですもの。……誇り高い騎士の皆様が、飢えで馬の飼い葉を奪い合っているという報告を受けた時、わたくし、悲しみで計算尺を落としそうになりましたわ」


 私はわざとらしく溜息をつき、シグルド様に目配せをしました。

 私の隣で、巨大な肉の塊を素手で引きちぎって食べていたシグルド様が、面倒そうに立ち上がります。


「……おい、鉄クズども。オーナーが『食え』と言っているんだ。黙って座れ。……それとも、空腹のままこの俺と踊るか?」


 シグルド様が黄金の瞳を細め、わずかに魔圧を解放しました。

 それだけで、騎士たちの馬が恐怖で膝をつき、レオン卿の剣がガチガチと音を立てます。

 

「……くっ……。だが、我らには騎士の誇りが……!」


「誇り、ですか。……レオン卿、あなたのその『誇り』とやらは、部下たちの家族の空腹を癒せますの? 家賃の滞納を止められますの? ……わたくしが提示するのは、誇りではなく『対価』ですわ。……リィン、彼らに給与明細案を配布なさい」


 リィンが風魔法で飛ばした紙束が、騎士たちの手に収まりました。

 そこには、帝国時代の三倍の基本給、完全週休二日制、家族への住宅手当、そして何より――「本日の食事:アシュバッハ特製・霜降り牛ステーキ(おかわり自由)」の文字。


「……三、三倍……? しかも、有給休暇がある……だと?」


「……おい、この肉……信じられないほどいい匂いだ……」


 騎士たちの陣形が、一瞬で崩れました。

 一人が、耐えきれずにステーキの一切れを口に放り込み、その瞬間、涙を流して叫びました。


「う……旨い! こんなに旨い肉、生まれて初めてだ……! それに、この契約書……嘘じゃない! エルゼ様の印章が押されている!」


「レオン卿。……あなた一人の意地で、この若者たちの未来を『無給労働』という名のゴミ箱に捨てさせるおつもり? ……帝国は既に債務超過。あなた方を守る力も、報いる意志もございません。……わたくしが欲しいのは、あなたの忠誠ではありません。その『武力』という名のリソースの、正当な独占使用権ですわ」


 レオン卿は、震える手で剣を収めました。

 そして、テーブルに並んだ肉と、自分の部下たちの「希望に満ちた顔」を交互に見た後、がっくりと膝をつきました。


「……私の、負けだ。……エルゼ様。……いや、エルゼ社長。……白銀騎士団、これよりアシュバッハ・セキュリティの一部門として、契約を締結させていただきたい」


「賢明な判断ですわ。……リィン、全員分の印鑑を用意して。……さあ皆様、まずはその冷えた身体に、最高級のタンパク質を流し込みなさいな!」


 極寒の地で、かつてないほど「合理的」な祝宴が始まりました。

 帝国最強の騎士団が、肉と契約書によって、一晩で私の私兵へと作り変えられたのです。


「……はは。……エルゼ、君は本当に恐ろしいな。……戦わずして最強の盾を手に入れるとは。……これでは、俺の出番がなくなるじゃないか」


 シグルド様が私の腰を引き寄せ、耳元で低く笑いました。


「あら、シグルド様。……あなたの力は、もっと『高くつく』相手のために取っておいてくださいな。……わたくし、安売りは……大嫌い……です……から……」


 言いかけたその時、視界がわずかに歪みました。

 ――[Error: Critical Brain Load 102%]

 

 脳を焼き切るような鋭い痛みが、一瞬だけ走ります。

 

「……エルゼ? おい、顔色が……」


「……大丈夫……ですわ。……少し、計算量が……多かった……だけ……」


 私はシグルド様の腕の中で、意識が遠のくのを感じました。

 

 準備は、すべて整いましたわ。

 帝国は今、剣をも失いました。……あとは、わたくしが倒れる前に、チェックメイトをかけるだけです。

「誇り」よりも「ステーキと給与明細」。

エルゼ様の放った現実的な一撃が、帝国最強の騎士団をあっさりと陥落させました。

シグルド様も呆れるほどの「買収無双」ですが……どうやらエルゼ様の脳内CPUが限界を迎えてしまったようです。


最強の知性にも、避けては通れない「糖分不足とオーバーヒート」という弱点が……。


次回、第8話。

「計算外の『体温』」。

倒れたエルゼ様を、シグルド様が彼なりの「龍の方法」で看病します。

冷徹な令嬢と、過保護な龍の旦那様。……二人の距離が、非論理的に縮まる予感ですわ!


エルゼ様の健康状態が気になる方は、ぜひブックマークで応援をお願いいたしますわ。

皆様の評価が、エルゼ様の脳を冷やすための最高級氷魔法の資材になりますのよ!

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