第1話:「可愛げがない」と婚約破棄されましたが、この国の貸借対照表(バランスシート)は既にご臨終ですわよ?
皆様、ごきげんよう。作者の桐谷ルナです。
「完結おめでとう!」という温かいお言葉と共に、それ以上の勢いで押し寄せた**「もっとエルゼ様の監査が見たい」「シグルド様の溺愛の続きを」「他のジャンルもぶち壊して(整えて)ほしい」**という熱烈なご声援(という名の催促)……。
わたくしの脳内メモリは、皆様の期待という名の「膨大なトラフィック」によって、あわやオーバーヒート寸前でしたわ。ですが、これほどの需要を放置するのは、合理主義者の端くれとして最大の「機会損失」だと判断いたしました。
「物語」という概念を掌握したエルゼ様にとって、平和な日常はただの『待機時間』に過ぎません。
彼女の次なる獲物は、隣接する無数の次元で今まさに垂れ流されている**「非効率な悲劇」や「ガバガバな設定の不条理」**です。
理不尽に殺されるヒロインを、有能なエンジニアとして再雇用する。
終わらない戦争を、物流の独占によって物理的に成立させなくする。
「愛」という名の搾取を、契約書一枚で粉砕する。
本編以上にスケールアップした、次元を超えた「ざまぁ(監査)」の旅が始まります。
シグルド様も、エルゼ様の「世界最強の護衛」兼「物理的デバッガー」として、ますますその腕(と愛)を振るう準備は万端のようですわ。
「皆様、シートベルトをしっかりとお締めなさいな。これよりMAA(多元宇宙監査機関)、全次元の『不採算プロット』を強制執行に参りますわよ!」
「エルゼ・フォン・アシュバッハ! 貴様のような可愛げのない冷酷な女との婚約は、本日を以て破棄させてもらう!」
きらびやかな夜会の中心、シャンデリアの光を浴びて、婚約者であるエドワード皇太子がそう叫びました。
隣には、潤んだ瞳で彼に寄り添う男爵令嬢マリアンヌ様。
周囲の貴族たちは、待ってましたと言わんばかりの冷笑をこちらへ向けています。
私は、手にしていたグラスを微動だにさせず、無機質な視線を彼に向けました。
「左様でございますか。……それではエドワード様、こちらにサインを。婚約解消に伴う違約金、およびこれまでの投資回収に関する精算書でございます」
「な……精算だと!? この状況で、貴様が口にするのは金のことか!」
「当然ですわ。感情で腹は膨れませんもの」
私は脳内で高速演算を開始します。
費やした時間、一万四千六百時間。贈答品および交際維持費、概算で四十二億ゴールド。
それ以上に問題なのは、この国の財政状況です。
「可愛げがない、ですか。……確かにわたくしの心臓は、あなたのような『非論理的な熱情』では動きませんわ。ですが、わたくしの冷徹な計算がなければ、この国の国庫は三年前には底を突いていたはずです。……その事実に、一単位の感謝もございませんでしたのね」
私の視界の端に、いつもの「ノイズ」が走ります。
――[Error: Logic Consistency 98%]
ああ、またですわ。感情的な人間の無能さを目にするたび、世界の解像度が落ちていく。
わたくしの人生には、いつだって「数字」という冷たい避難所しかありませんでした。
「うるさい! マリアンヌは、君のように数字で人を測ったりはしない! 彼女の温かな愛こそが、この国に真の豊穣をもたらすのだ!」
「……愛で予算が組めるとお思いでしたら、どうぞご自由に。……ただし、エドワード様。わたくしを追放なさるということは、アシュバッハ家が保有する『国債の即時償還(一括返済)』を承諾したと見なしますが、よろしいかしら?」
「こ、国債だと……?」
エドワード様が、初めて顔を引き攣らせました。
彼は知らないのでしょうね。この国を支えるインフラ、兵士の給与、そして今彼が飲んでいる最高級のワインに至るまで、その原資がどこから捻出されていたのかを。
「アシュバッハ家は本日を以て、帝国に対するすべての融資を引き揚げ、資産を凍結いたします。……あ、それから。わたくしが個人的に買い取っておいた『帝都の水道権』と『穀物メジャーの優先交渉権』も、わたくしの新天地へと持ち出させていただきますわ」
「き、貴様……何を言っている……!」
「簡単な算数ですわ。わたくしという『有能な管理者』を解雇したのですから、わたくしの所有物を回収するのは当然の権利でしょう?」
ざわついていた会場が、一瞬で凍りついたような静寂に包まれました。
マリアンヌ様が「ひどいですわ、お金の話ばかり……」と泣き真似をしていますが、彼女の着ているドレスの絹代すら、まだ未払いの「売掛金」であることを、わたくしは帳簿で把握しております。
「……リィン。馬車の準備は?」
「既に。エルゼ様が廃嫡されることを見越し、三日前には全ての私財を『北方の封印地』へ転送済みですわ」
私の背後で、有能なメイドのリィンが淡々と告げました。
「北方の封印地」。かつて強大な龍が眠るとされ、今では不毛の地と見捨てられた呪われた場所。
「ふん、北の最果てへ行け! そこなら貴様の冷たい性格も、氷の魔物たちに歓迎されるだろう!」
エドワード様の勝ち誇ったような叫び。
ですが、わたくしはドレスの裾を翻し、最高に優雅な、そして最高に「可愛げのない」微笑みを浮かべました。
「ええ、喜んで。……あ、言い忘れましたわ。エドワード様」
扉に手をかけ、私は一度だけ振り返りました。
「一週間後、この国は『債務超過による事実上の経営破綻』を発表することになるでしょう。……その時、わたくしに『助けてほしい』と泣きついても、相談料は一分につき百万ゴールドからになりますので、ご了承くださいませ」
夜会の扉が、重厚な音を立てて閉まりました。
馬車に揺られながら、私は夜の帝都を眺めます。
これから向かうのは、死の地。
けれど、わたくしの胸は、かつてないほどの期待で高鳴っていました。
「数字」と「論理」だけが支配する、わたくしの理想郷。
そこには、世界をデバッグ(修正)するための、最強の『例外』が眠っているはず。
「……さて。まずは、眠っている龍の旦那様に、わたくしの『経営計画書』を叩きつけて差し上げましょうか」
エルゼ・フォン・アシュバッハ。
可愛げのない令嬢の、世界を買い叩くための「監査」が、今ここから始まります。
「婚約破棄=自由への切符」。
エルゼ様にとっては、帝国の財政難という泥船から脱出するための、最も「期待値の高い選択」だったようです。
しかし、追放先は誰もが生きて帰れないとされる封印地。
そこに眠る「最強の龍」さえも、エルゼ様の監査(詰め)の対象になってしまうのでしょうか……?
次回、第2話。
「龍の旦那様、あなたの維持コストは非効率すぎますわ」。
エルゼ様、伝説の龍相手に「リストラ案」を提示する。
もし「この合理的な令嬢、嫌いじゃないわ」と思ってくださったら、ぜひブックマークで応援していただけると嬉しいですわ!
エルゼ様の演算能力が、あなたの評価でさらにブーストされますのよ。




