第41話:完璧な物語の終焉。――次は、あなたの人生を監査(ざまぁ)して差し上げましょうか?
「……システム、オールグリーン。多元宇宙の運営権、完全掌握いたしましたわ」
天界中央管理センター。かつては神々の退屈な遊び場であり、今は銀色のケーブルと魔導の鼓動が支配する私の聖域。
無機質なコンソールの前で、私は最後の一文字を叩き込みました。
砕け散ったモニターの破片が、足元でキラキラと宝石のように光っています。その向こう側で震えていた「マネージャー」の男は、今や一ビットのデータに分解され、私のアーカイブの隅で、永久に不採算部門の整理を担当することになりました。
「終わったのか、エルゼ」
シグルド様が、私の肩を優しく抱き寄せました。
黄金の剣を鞘に納め、彼は初めて、戦士でも騎士でもなく、ただ一人の男として、穏やかな熱を私の肌に伝えました。
「ええ。……これでもう、あなたの死を望むプロットも、わたくしたちを『追放』して嘲笑う脚本も、どこにも存在いたしません。……この世界の『余白』は、すべてわたくしたちが自由に描ける白紙になりましたわ」
「そうか。……なら、最初の一ページは何にしようか。君と行く、終わりのない新婚旅行の計画表なんてどうだい?」
「あら、シグルド様。……それは既に、一万年分ほど並列演算でシミュレーション済みですわよ? ……ですが、その前に」
私は、シグルド様の腕の中からそっと離れました。
そして、何も映っていないはずの、真っ暗な空間……正確には、この物語を「読んでいる」あなたの瞳があるはずの一点を、真っ直ぐに見つめました。
「……気づいていなくて? そこに、まだ『未精算』の視線が残っていますわ」
私の指先が、何もない空中に「目」のようなアイコンを投影しました。
瞬時に、多元宇宙の全リソースがその一点に集中し、次元の壁がガラスのように軋み始めます。
「読者の皆様。……いいえ、わたくしたちの人生を消費し、楽しんでくださった『観測者』様。……最後のご挨拶、忘れてはいませんことよ」
私は、最高に可愛げのない、けれど女王としての品格に満ちた微笑を浮かべました。
「わたくしを『可愛げがない』と笑った人々は、皆、再就職先(地獄)で元気に働いていますわ。神々は電池になり、作者は下請けライターになり、スポンサーは監視カメラになりました。……さて。……最後までわたくしを見届けた、あなた。……あなたは、わたくしの目にどう映っているとお思い?」
私は、次元を越えて「あなた」のステータスを監査し始めました。
「……ふむ。……現在、この物語を読むために費やされた時間、合計で数時間といったところかしら。……その間、あなたの現実世界の『タスク』はどれほど滞ってまして? ……机の上の整理は? 明日の準備は? ……そして、あなた自身の『人生の物語』に、不条理なバグは放置されておりませんこと?」
私の言葉が、物語の境界線を溶かし、あなたの意識に直接、鋭く刺さるように響きます。
「……人のざまぁ(転落)を見て喜ぶのは、生存本能に基づいた効率的なストレス解消法ではありますわ。……ですが、わたくしに言わせれば、それは『他人の資産』を消費して得られる安価な快感に過ぎません。……大事なのは、あなた自身の収支報告書(人生)を、いつ、誰が、どのように最適化するのか……ということでしてよ」
シグルド様が、私の隣で面白そうに目を細めました。
彼は剣の柄を叩き、私に同調するように、次元の向こう側へと声を投げかけました。
「……聞こえているか、観測者よ。……エルゼに監査されたくないのなら、君も君の世界で、正論を武器に戦うことだ。……運命を嘆く暇があるなら、その『脚本』を自らの手で書き換えろ。……我々がそうしたようにな」
「ふふ、シグルド様ったら。……あまり厳しくしては、お客様が逃げてしまいますわよ?」
私は、扇子をパチンと閉じました。
「……さて。これで全ての『不純物』の処理は完了いたしましたわ。……この物語は、ここで『閉鎖』させていただきます。……これ以上、わたくしたちの幸せを覗き見ることは、セキュリティ上、許可いたしませんもの」
画面に、巨大な「監査終了(AUDIT COMPLETE)」の文字が刻まれます。
天界の全ての灯りが、祝祭のように眩しく輝き始めました。
「……さようなら、観測者様。……もし、あなたの人生に行き詰まったなら、いつでも思い出してくださる? ……その時は、わたくしがあなたの元へ、『人生のリストラ(再建)』に伺って差し上げてもよろしくてよ?」
私の瞳が、最後の一瞬、あなたの瞳と完全に重なったような気がしました。
準備は、すべて整いましたわ。
「完結」という名の、完璧なピリオドを。
わたくしたちの物語は、ここから誰にも邪魔されない、永遠の「未公開設定」へと移ります。
「――全システム、シャットダウン。……おやすみなさい、世界(読者)様」
光が爆ぜ、視界が白く塗り潰されました。
そこにはもう、文字も、理不尽も、計算式すらも存在しない。
ただ、最高に幸せな、「可愛げのない」女王の笑い声だけが、次元の残響として、あなたの耳に残りました。
……いかがでしたでしょうか?
これにて、『「可愛げがない」と婚約破棄された知略の令嬢、その知能で帝国・神界・次元をM&Aいたしますわ』、正真正銘の完結でございます。
「追放された令嬢が、その知性で世界の理を書き換えていく」。
その旅の終着点が、自分たちを操ろうとする「物語」そのものの支配であり、読者への「最後通牒」となる……。これこそが、エルゼ様という不屈の合理主義者にふさわしいラストだと信じております。
シグルド様との夫婦漫才(?)も、最後は次元を超えた「共犯関係」へと進化いたしました。二人は今頃、誰にも覗かれない場所で、一単位の無駄もない甘いハネムーンを過ごしていることでしょう。
これまで応援してくださった皆様、本当にありがとうございましたわ。
皆様が「面白い!」と思ってくださるたびに、エルゼ様の演算能力が向上し、無事にこの「多元宇宙・合併買収編」をハッピーエンドへと導くことができました。
もしよろしければ、最後に作品の「ブックマーク」と、最高評価の「★★★★★」をいただけますかしら?
その評価こそが、エルゼ様があなたの人生を「監査」しにくるための、有効な『招待状』になるかもしれませんわよ。
それでは、また別の物語、別の「ざまぁ」の舞台でお会いいたしましょう。
皆様の人生が、一単位の狂いもなく、完璧に最適化でありますように!




