第37話:不毛な最終決戦は予算凍結ですわ。……今日から全員、わたくしの社員(リソース)です
『アラート:隣接次元「ファンタジーA-03」にて、プロットの強制終了を確認。
当該世界の「勇者」および「魔王」が、物語の消失に伴い当次元へ物理干渉を開始します。』
天界中央管理センターの全モニターが、警告の赤色に染まりました。
窓の外、次元の裂け目からは、崩壊する世界の「文字の残骸」が雪のように降り注ぎ、そこから巨大な「魔」のオーラと、それに抗う「聖」の光が、もつれ合いながら転がり込んできます。
「……リィン。……あの不衛生な魔力衝突のせいで、わたくしの庭の芝生が焦げていますわ。……直ちに『次元間・不法投棄料』を算定して差し上げて」
「かしこまりました、エルゼ様。……あちらの世界、作者が『エター(失踪)』したことで、勇者と魔王が永久に決着がつかないループに陥っている模様です」
私は、執筆用監獄でガタガタと震えながらキーボードを叩いているエイドス様を、冷たく一瞥しました。
「エイドス様。……同業者のしりぬぐいも、あなたの業務の内ですわ。……あちらの『最終決戦』、今すぐわたくしの権限で『予算凍結』なさい」
『ひ、ひいぃ! 無理ですよエルゼさん! あっちのジャンルは俺の担当外……あだだだだ!』
エイドス様が言い訳を始めた瞬間、シグルド様が彼の手首を軽く……デバッグ(粉砕)しない程度の強度で握りしめました。
「……エルゼが『書け』と言っている。……一文字ごとに指を一本残したいなら、早くしろ」
『書きます! 書かせていただきます! ……あ、あいつらの戦い、今すぐ停止! 全てはエルゼ・フォン・アシュバッハの『資産整理』として統合される! ……はい、エンターキー!』
その瞬間、宮殿の庭で殺し合っていた勇者と魔王の動きが、糸の切れた人形のように静止しました。
激突していた聖剣と魔剣が、パリンと音を立てて「単なる金属片」へとダウングレードされます。
「な……何だ!? 俺の聖なる一撃が……消えた!? 闇が、霧散していく……!」
「……ク、クク……。魔王たる我の結界が、紙切れのように破られるとは……。何者だ、貴様らは!」
煤まみれの勇者と、角の折れた魔王が、揃って私を仰ぎ見ました。
私は、バルコニーから扇子を広げ、彼らに向かって「雇用契約書」をヒラヒラと舞い落としました。
「あら。……ご苦労様ですわね、お二人とも。……ですが、あいにくわたくしの王国では、『決着のつかない戦闘』は『時間の浪費』として、最も重い過失に分類されますの」
私は優雅に階段を降り、呆然とする二人の前に立ちました。
「勇者様。……あなたが世界を救うために費やした十年間のコスト。……そして魔王様、あなたが軍勢を維持するために搾り取った税収。……それらが『作者の飽き』という、たった一つの理由で無に帰そうとしている。……それを、合理的だと思っていらして?」
「それは……だが、俺たちはこうして戦う宿命なんだ!」
「宿命? ……ふふ、そんな安い言葉で、ご自身の労働価値を安売りなさらないで。……お二人とも、既にあなた方の世界は『破産宣告』を受けました。……これからは、わたくしが設立した『多元宇宙救済事業部』の社員として、新しい人生を歩んでいただきますわ」
私は、勇者の聖剣を手に取り、その「聖属性」を「発電用魔力変換効率」に変換するコードを書き換えました。
「勇者様。……あなたの魔力は、新都の『二十四時間・公共街灯システム』の動力源に。……魔王様。……あなたの軍事統率能力は、大陸全土の『高速物流・配達網』の司令官に。……戦うよりも、はるかに世界のためになりますわよ?」
『バ、バカな……! 私の看板作品だった勇者と魔王が、ただの『インフラ担当』に……! 読者が怒るぞ!』
エイドス様の叫びを、私は鼻で笑いました。
「読者、ですか。……いいえ。……本当の『お客様』は、こんな不合理な浪費を望んではおりませんわ。……リィン、他次元からの避難民の受け入れ状況は?」
「はい。……魔法少女ジャンルから三十名、ロボット大戦ジャンルから五十機。……現在、全員が『エルゼ様の社会保障制度』にサインを済ませ、適材適所の配属を待っております」
「左様。……さて。……作者様。……物語を『消費』するだけで、この理不尽を放置している『上位読者』たちにも、そろそろ請求書を送る準備をしてくださるかしら?」
私は、空の向こう――次元のさらに外側で、この物語を「楽しんでいる」不可視の存在たちに向けて、鋭い視線を投げかけました。
「準備は、すべて整いましたわ。……これからは、わたくしたちが『読まれる側』ではなく、物語の価値を『決定する側』になりますの」
準備は、すべて整いましたわ。
勇者も魔王も、わたくしの王国という名の「巨大な機械」の一部。
次は……わたくしたちの幸せを邪魔する『ジャンルの壁』、すべて買い叩いて差し上げますわ。
いかがでしたでしょうか?
勇者と魔王の「最終決戦」を、単なる「非効率なプロジェクト」として打ち切り、速やかに再就職させるエルゼ様……。
「宿命」という情緒を「インフラコスト」に変換してしまう彼女の知略は、もはや次元を超えて救済の光となっていますわね。
さて、第38話では、いよいよこの物語を「娯楽」として支援していた上位存在が登場いたします。
「金さえ出せば不幸を注文できる」と思い上がった彼らに、エルゼ様がどのような「経営監査」を行うのか……。
物語のスケールが銀河すら飛び越える、驚愕の次話!
もしこの「多元宇宙・合併買収編」が面白いと思ってくださったら、ぜひブックマークと評価をお願いいたしますわ。
皆様の評価が、エルゼ様の「多元宇宙・統合予算」をさらに増大させますのよ!




