第36話:作者の辞職、そして再雇用。……福利厚生は「命」ですわよ?
『ひ、ひぎぃぃっ! 私の秘蔵のフォルダが! 十年前の「俺が考えた最強の美少女設定メモ」が消去されていくぅぅ!』
空の向こう、「第四の壁」を隔てた作者エイドスの部屋。
先ほど味方につけた巨神デウスの「論理爆弾」が、エイドスのPC内にある『黒歴史』という名の不要なキャッシュファイルを、一秒間に数テラバイトの速度で消去し続けていました。
「あら。……ご安心なさいな、エイドス様。……わたくし、バックアップは取っておりますわ。……ただ、これらは物語の『不純物』として、わたくしの手元のシュレッダーにかけさせていただきますけれど」
私は、次元の裂け目から「漏れ出してくる」エイドスの過去の没原稿を、扇子でパタパタと払い除けました。
シグルド様が、そのうちの一枚を拾い上げ、黄金の瞳を細めて内容を読み上げます。
「……『シグルド、実はエルゼのことが嫌いだったという驚愕の真実(没案)』。……ふん。作者、貴様。……この私の剣で、一度その『ガバガバな脳細胞』をデバッグされたいようだな?」
『ひっ……! 違うんだ、それはボツにしたんだよ! 出来心なんだ! 助けてくれ!』
「シグルド様、そのようなゴミにお気を取られないで。……わたくしたちの目的は、この無能な管理者を『更生』させることですわ」
私は、天界中央管理塔の出力を最大に引き上げました。
デウス様(巨神)の重力制御と、シグルド様の概念切断。その二つが合わさった光の柱が、ついに「第四の壁」という名の、上位世界との境界線を完全に溶解させました。
ズル、と。
次元の穴から、一人の冴えない青年が「こちら側」へ引きずり出されてきました。
寝癖だらけの髪、使い古されたジャージ。
それが、この世界を創った「神」の、あまりに惨めな実体でした。
「あら。……いらっしゃいませ、エイドス様。……ようやく対面(対話)が叶いましたわね」
私は、床に這いつくばるエイドスを冷たく見下ろし、椅子を勧めました。
といっても、それは極寒の魔力で編まれた、座るだけで心臓が凍るような「監査用チェア」です。
「あ……あ……。本物……本物のエルゼだ……。怖い……計算尺を振っている姿が、解像度4Kの暴力だ……」
「エイドス様。……あなたのこれまでの『物語運営』、わたくしの基準では完全に【不合格】ですわ。……スランプによる連載の中断、不条理な悲劇による読者への精神的負荷、そして何より……ご自身の部屋の片付けすらできない、その劣悪なセルフマネジメント能力!」
私は、エイドスの目の前に一通の『業務提携契約書』を叩きつけました。
「本日をもって、あなたは『創造主(CEO)』を解任。……代わって、わたくしの王国の『外部委託・シナリオライター』として再雇用して差し上げますわ。……安心なさい。福利厚生として、一日に三食の栄養バランスの取れた食事と、規則正しい生活スケジュールを保障して差し上げます」
『え……? ライターとして……?』
「ええ。……ただし、プロットの決定権は全てわたくしにあります。……あなたが不必要な『ざまぁ』や『ご都合主義』を書こうとした瞬間、隣に控えるシグルド様が物理的にあなたの指をデバッグ(粉砕)いたしますわよ」
「……ああ。君が文字を一文字打ち間違えるたびに、私の魔圧を直接貴様の脳内に流し込んでやろう。……集中力が研ぎ澄まされるはずだぞ」
シグルド様の冷徹な笑みに、エイドスは「あ、ありがとうございます……」と、涙目で契約書にサインをしました。
これで、この物語は「作者の気まぐれ」ではなく、「エルゼ様の合理性」によって駆動する完璧なシステムへと昇華されたのです。
「……リィン。……エイドス様に、隣の部屋にある『執筆ルーム(監獄)』を案内して。……あ、そうだわ。エイドス様」
私は、去り際の彼の背中に、最後の一言を投げかけました。
「あなたがずっと隠していた、あの『ポエム付きの日記帳』。……あれは、わたくしの王国の広報資料として、全次元へ放送させていただきましたわ。……皆様、『神の感受性(笑)』に大変喜んでいらっしゃいますわよ」
『ああああああぁぁぁ! 死にたい! もう殺してくれぇぇぇ!!』
エイドスの絶叫が、天界の空に響き渡りました。
準備は、すべて整いましたわ。
これで、この宇宙に不合理な不幸が生まれることは、二度とございません。
わたくしたちは、自分たちの物語を、自分たちの意思で……そして完璧な編集の下で、永遠に紡いでいくのです。
「……さて。シグルド様。……作者の処理が終わったところで、次の問題が発生したようですわ」
私のメインモニターに、見たこともない「警告」が赤く点滅し始めました。
『――エラー:隣接する「異世界」にて、作者不在による物語の崩壊を確認。大量の避難民が当次元へ向かっております。――』
「あら。……どうやら、わたくしの王国、さらに『吸収合併』が必要なようですわね」
私は不敵に微笑み、新しい「救済予算」の計算を始めました。
いかがでしたでしょうか?
ついに作者(神)を「外部委託ライター」として雇用し、シグルド様を「物理的な修正担当」に据えるという、最強の執筆体制が整いましたわ。
自分の黒歴史を全宇宙に晒される作者への「ざまぁ」……これこそがメタ・フィクションの醍醐味ですわね。
さて、第37話では、物語の管理者がいなくなった「崩壊しつつある他ジャンルの世界」から、大量のヒロインたちがエルゼ様を頼って押し寄せます。
「愛がなくても、安定した雇用が欲しい!」と叫ぶ彼女たちを、エルゼ様はどう「効率的」に救うのか……。
次元を超えた救済劇(M&A)、ますます目が離せませんわよ!
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皆様の評価が、エイドス様の「原稿執筆スピード」を強制的に引き上げますのよ!




