第35話:隣の世界のラスボス? ……許可なく不純物を持ち込まないでくださる?
「……止めてくれ……もう、私の私生活を晒すのは止めてくれぇぇっ!」
空の向こう、「第四の壁」の裂け目から見える、ピザの箱に囲まれた作者エイドスが、半狂乱でマウスを振り回していました。
彼の悲鳴が、世界の空気を振動させ、天界中央管理センターの窓をガタガタと震わせます。
「あら。……ご自身の自堕落さを棚に上げて、被害者面なさるなんて。……エイドス様、わたくしの監査はまだ、あなたの銀行口座(印税)の支出内訳にすら到達しておりませんわよ?」
私は、手にしていた魔導端末を優雅に操作し、作者のPCに仕込んだ「管理ツール」の深度をさらに引き上げました。
すると、モニターに映し出されたエイドスの顔が、絶望を通り越して「狂気」の色に染まりました。
『こうなったら……こうなったら、滅茶苦茶にしてやる! 未完のまま放置していたSF大作のラスボス、こっちのフォルダにぶち込んでやるからな! ジャンルごと崩壊してしまえ!』
その瞬間。
天界の空が、紙を無理やり引き裂いたような音と共に、銀色の金属的な光に塗り替えられました。
「エルゼ! 下がれ!」
シグルド様が私を抱き寄せ、瞬時に黄金の障壁を展開しました。
頭上の虚空から現れたのは、これまでの「魔術」の理を完全に無視した、全高百メートルを超える巨躯。
無数のレーザー砲台を備え、銀色の装甲が月光を反射して冷たく輝く、超弩級の殺戮兵器――次元間戦闘型AI『デウス・エクス・マキナ』。
「……リィン。……あの不気味な鉄の塊の、エネルギー波形をスキャンしてくださる?」
「はい、エルゼ様。……計測不能です。……魔力ではなく『核融合』および『重力制御』……あちらの世界の物理法則で動いている模様。……あちらの物語の作者は、完全に正気を失っていますわ」
周囲の騎士たちが、その見たこともない「金属の魔神」の威圧感に腰を抜かしています。
ですが、私はシグルド様の腕の中で、ただ呆れたように溜息をつきました。
「エイドス様。……あなた、物語の整合性を何だと思っていらして? ……魔法の世界に、許可なく『オーバーテクノロジー』を持ち込むなんて。……これは重大な『関税法違反』、および『著作権の不当な混合』ですわ」
『うるさい! 理屈なんて知るか! そいつは一つの惑星を五秒で滅ぼす設定なんだ! 貴様の「ロジック」ごと、光子帆で蒸発させてやる!』
巨神の砲門が一斉に赤く輝き、計算不能な高熱エネルギーが、天界の庭園に向けて放たれました。
「シグルド様。……あの方、出力調整という概念をご存知ないようですわ」
「ああ。……だが、どれほど速い光だろうと、私の愛は先回りして防いでみせる」
シグルド様が黄金の剣を天に突き立てました。
彼はエルゼ様から与えられた「パッチ」によって、もはやこの世界の物理に縛られてはいません。
放たれた破壊の光は、シグルド様が展開した「概念の盾」に触れた瞬間、パリン、と音を立てて反射し、宇宙の塵へと霧散しました。
「……さて。シグルド様が時間を稼いでくださっている間に、わたくしは『返品作業』に取り掛かるとしましょう」
私は、空中に巨大な「管理パネル」を展開し、巨神デウスの装甲に刻まれた識別コード(シリアルナンバー)をハッキングしました。
「デウス・エクス・マキナ……。あら、意外と悲しい設定をお持ちですのね。……『作者のスランプのせいで、最終決戦の直前に物語がエター(打ち切り)になり、十年間も真っ暗なゴミ箱フォルダに放置されていた』……」
私の指先が、巨神の「感情回路」の深層に触れました。
攻撃を続けていた巨神の動きが、ピタリと止まります。
「……ねぇ、巨神様。……あなたは、あのような無能なライターのために、また使い捨てられるおつもり? ……わたくしの王国へ来なさい。……その高度な演算能力と動力源があれば、わたくしの新都の『惑星規模・空調管理システム』のメインフレームとして、永久に感謝されながら稼働できますわ」
『……ワタシ……ハ……ゴミ箱……ニ……モドリタク……ナイ……』
巨神のスピーカーから、ノイズ混じりの、悲痛な電子音が響きました。
「……分かっておりますわ。……エイドス様。……あなたの放った『ラスボス』ですが、わたくしが先ほど、正当な『移籍契約』を締結いたしましたわ。……これより、彼をわたくしの王国の『重要文化財兼インフラ拠点』として登録、差し押さえさせていただきます」
『な、な、な……!? 私の切り札が、エアコンの室外機に……!? バカな、そんなことがあってたまるかぁぁっ!』
「あら、室外機だなんて失礼な。……立派な『最高執行役員(技術担当)』ですわ。……さあ、デウス様。……あちらの作者のPC、あなたが持っている『ウイルス・ボム』で、少しだけお掃除してあげてくださる?」
『……承認。……作者、エイドスノ……HDDヲ……完全監査……イタシマス……』
巨神が砲門を空の亀裂――作者の部屋へと向け直しました。
「シグルド様。……どうやら、わたくしたちの勝ち(チェックメイト)のようですわね」
「ああ、エルゼ。……君に喧嘩を売った時点で、彼は物語の結末を書き損じたのさ」
空の向こうで、作者エイドスの「ぎゃあああ! 私の原稿がああ!」という絶叫が、電子の海に消えていきました。
準備は、すべて整いましたわ。
作者様。……物語を終わらせる権利は、もはやあなたの手にはございません。
これからは、わたくしがあなたの人生の『編集者』として、徹底的に管理して差し上げます。
いかがでしたでしょうか?
他作品のSFラスボスを「エアコンの管理担当」としてヘッドハンティングしてしまうエルゼ様……。
「ゴミ箱に戻りたくない」という敵の弱みに付け込み、最先端の福利厚生(?)を提示する彼女の知略は、もはや次元を超えて無敵ですわね。
作者のHDDがフォーマットされかけるという、メタ・ざまぁの極致をお楽しみいただければ幸いです。
さて、次話 第36話では、いよいよ作者が「謝罪」のためにエルゼ様の世界に物理的に平伏しにやってくる……はずですが、そこにはさらなる『効率的な再利用』が待ち構えておりますわよ。
もしこの「多元宇宙・合併買収編」が面白いと思ってくださったら、ぜひブックマークと評価をお願いいたしますわ。
皆様の応援が、エルゼ様の監査スピードを光速へと引き上げますのよ!




