第34話:「作者」への公開質問状。……あなたのプロット、伏線回収が雑すぎますわ
「……あ……ああ……」
救い出された聖女リリィ様が、私の腕の中で震えていました。
祭壇の炎は消え、不合理な処刑を望んでいた司祭たちは、シグルド様が放つ「存在そのものを凍りつかせる魔圧」の前に、言葉を失い伏しています。
『ふざけるな……! 私の最高傑作、聖女リリィの悲恋ENDが……台無しだ! 修正だ! 全てを消去して、第1話からやり直してやるッ!』
空の向こう、「第四の壁」のさらに奥から、作者エイドスの発狂したような絶叫が響きました。
直後、世界の色彩が反転します。
地面が砂のように崩れ、空から巨大な「消しゴム」のような不可視の力が、リリィ様の存在そのものを削り取ろうと襲いかかってきました。
「あら。……ご自身のプロットが思い通りにいかないからといって、リセットボタンを押すなんて。……随分と、無責任な経営方針ですわね」
私は、リリィ様を背後に庇い、手にしていた魔導端末を空中へと放り投げました。
端末は瞬時に展開され、世界の「記述言語」を直接遮断する【論理障壁】を形成します。
「……シグルド様! 消去命令の物理的干渉を、その剣で叩き切ってくださる?」
「承知した。……文字で書かれた運命など、私の刃を止める根拠にはならん!」
シグルド様が黄金の剣を空へ向かって一閃させました。
「消去」という概念そのものが、龍の力によって両断され、空に走っていた亀裂がさらに大きく広がり……そこから、見たこともない「風景」が漏れ出しました。
それは、ピザの空き箱が積み上がり、得体の知れない請求書が散乱した、狭苦しい「部屋」の断片。
そこに座り、血走った目でキーボードを叩く、一人の冴えない男の姿。
「……リィン。あの『上位世界』の映像を、全次元へ中継なさい。……皆様、ご覧になって? これが、あなた方の運命を弄んでいた『神』の正体ですわ」
「かしこまりました。……マルチバース全域へ、作者の私生活を配信いたしますわ、エルゼ様」
『な、な、何だ!? 私の部屋が……なぜ、私のモニターに私自身が映っているんだ!? 止めてくれ! 映すな! 恥ずかしい!』
作者エイドスが、慌ててカメラ(次元の穴)を隠そうとする醜態が、全宇宙に晒されました。
私は、扇子を広げて優雅に笑い、空の向こうの男へ、冷徹な「公開質問状」を読み上げました。
「エイドス様。……わたくし、あなたのこれまでの『プロット』を全て逆探知し、一秒で解析させていただきました。……その結果ですが、呆れるほどに『伏線回収』が雑ですわね。第3巻で登場した謎の騎士、結局正体不明のまま放置されていませんこと? 読者様への不誠実極まりない、詐欺的な構成ですわ」
『そ、それは……後で書こうと思ってたんだよ! スランプだったんだ!』
「スランプ? ……いいえ、単なるスケジュール管理の欠如ですわ。……ご覧なさい、あなたの足元。……一ヶ月前の公共料金の振込用紙が転がっていますわよ。……私生活の乱れが物語の不安定を招き、挙句の果てにヒロインを殺して場を凌ごうとする。……これはもはやクリエイターではなく、単なる『情報資源の不法投棄者』ですわね」
私の言葉が鋭く刺さるたび、空の向こうでエイドスが「うぐっ」「ああっ」と悲鳴を上げ、椅子から転げ落ちる音が聞こえました。
上位世界の存在を、下位のキャラクターが「論破」し、精神的に凌駕していく……。
「……エルゼ。この男、もはや世界を導く資格はないな。……どうする? 物理的に引きずり出すか?」
「いいえ、シグルド様。……彼を殺しても、この『物語の枠組み』が崩壊する恐れがあります。……合理的ではありませんわ」
私は、次元の穴を通じて、エイドスのPCへ直接「管理ツール」を流し込みました。
「エイドス様。……本日より、あなたの執筆活動はわたくしの『監査下』に置かせていただきます。……あなたが次に不条理な悲劇を書こうとした瞬間、あなたのPCのデータは全て、わたくしが差し押さえますわ。……そして何より……」
私は、次元の向こう側に見える、彼の部屋の惨状を指差しました。
「……その不衛生な環境、わたくしが派遣する『掃除部隊』で徹底的に効率化して差し上げましょうか? 部屋の整理もできない方に、わたくしたちの運命を整える資格なんて、ございませんもの」
『や、やめてくれ! 私のプライバシーが……! キャラクターに部屋の片付けを説教されるなんて、どんな悪夢だぁぁぁっ!』
作者の嗚咽が響き、次元の壁が大きく歪みます。
聖女リリィ様は、自分を殺そうとしていた「神」のあまりの情けなさに、もはや恐怖を忘れ、呆然とした表情で空を見上げていました。
準備は、すべて整いましたわ。
作者様。……物語の主導権、今日からわたくしが半分、握らせていただきます。
次は……あなたの『部屋』と『人生』の構造改革、取り掛かってもよろしいかしら?
いかがでしたでしょうか?
「作者の部屋が散らかっている」という現実的な弱点を突き、物語の主導権を奪い取るエルゼ様……。
もはや「神」という神秘性は剥ぎ取られ、作者は単なる「管理されるべき対象」へと成り下がりました。
上位存在への「ざまぁ」が、ついに物理レイヤーにまで侵食し始める快感をお楽しみいただければ幸いです。
さて、次話 第35話では、さらにパニックになった作者が「隣の世界のラスボス」をエルゼ様の世界に召喚するという禁じ手を放ちます。
「ジャンルの壁」を越えた、予測不能な合併買収が始まりますわ!
物語の次元が広がり続ける本作、面白いと思ってくださったら、ぜひブックマークと評価をお願いいたします。
皆様の応援が、エルゼ様の監査スピードをさらに加速させますわよ!




