第33話:隣の世界の合併買収(M&A)。……不幸なヒロインは「戦力」として買い取りますわ
「――キャアァァァッ!!」
次元の壁の向こう側、ノイズ混じりの「白い空白」から、一人の少女の絶叫が中央管制室に木霊しました。
モニターに映し出されたのは、燃え盛る祭壇の上、鎖に繋がれた聖女。彼女を囲むのは、涙を流しながら「世界のために死んでくれ」と唱える身勝手な群衆と、冷笑を浮かべる司祭たち。
「……リィン。あの世界の『悲劇係数』、測定してくださる?」
「はい、エルゼ様。……絶望指数は最大値を突破。……あちらの物語の作者は、彼女の死による『感動のラスト』を演出しようとしている模様ですわ。……非効率極まりない、感傷の垂れ流しですわね」
私は、手にしていた魔導計算尺をデスクに叩きつけました。
扇子を広げる指先が、その「美しくないプロット」への不快感で微かに震えています。
「……感動? ふふ、笑わせないで。一人の有能な魔力保持者を、ただの『雰囲気作り』のために消費させるなんて。……その損失、ゴールドに換算すれば小国一つ分は下りませんわよ。……シグルド様、次元のボルトを緩めて。……あちらの『運営権』、今すぐわたくしが買い取りますわ」
「ああ。……不条理な生贄など、私の世界には不要だ」
シグルド様が黄金の剣を次元の亀裂に突き立て、力任せに抉じ開けました。
ギギギ、と「物語の法則」が悲鳴を上げる不気味な音が響き、天界の白銀の光が、隣の世界の泥臭い「中世悲劇」の空間へと溢れ出します。
次の瞬間、私たちは燃え盛る祭壇の真上に降り立ちました。
「な……何だ、お前たちは!? 聖なる儀式の最中だぞ!」
肥え太った司祭が、狼狽えながら私を指差しました。
私は、煤で汚れた祭壇の床を、汚いものを見るような目で一瞥し、司祭の鼻先に一枚の「次元間営業停止命令書」を突きつけました。
「あら。……『儀式』、ですか。……わたくしの鑑定によれば、この祭壇の魔力回路、十箇所もリーク(漏電)していますわよ? ……これでは世界を救うどころか、周囲の土地に深刻な魔力汚染(公害)を撒き散らすだけ。……管理能力の欠如した宗教組織による独断的な処刑……。これは重大な『安全基準違反』ですわ」
「な……何を言っている!? これは神の啓示だ! 聖女が死なねば、闇が世界を――」
「神、ですか。……その『神』という名の無能な経営者なら、三日前にわたくしが炭鉱へ送らせていただきましたわ。……今のこの多元宇宙の暫定管理者は、わたくし、エルゼ・フォン・アシュバッハですの」
私は、鎖に繋がれたまま呆然としている聖女リリィへと歩み寄りました。
彼女の頬に触れ、その瞳に宿った「設定された絶望」を、私のロジックで上書きしていきます。
「リリィ様。……あなた、その『自己犠牲』という名の無給労働に、何の価値があるとお思い? ……あなたがここで死んでも、この世界は三百年後にまた同じバグ(闇)を吐き出しますわ。……それは、根本的な解決ではない『その場しのぎのパッチ当て』に過ぎませんもの」
「え……あ……」
「わたくしの下へ来なさい。……あなたのその膨大な魔力、もっと建設的なことに……例えば、わたくしの新都の『二十四時間稼働・超高速演算ユニット』の冷却担当として、正当な報酬を支払って雇用して差し上げますわ。……死ぬよりずっと、やりがいがありますわよ?」
『バ、バカな! エルゼ、勝手に他作品のメインイベントを壊すな! プロットが、私の連載が台無しだぁぁ!』
空の彼方、次元のノイズから作者エイドスの悲鳴が聞こえます。
私は、空を仰ぎ見ることすらなく、指先ひとつで「物語の強制力」を遮断する魔導防壁を展開しました。
「エイドス様。……あなたのガバガバな設定、わたくしがすべて監査させていただきます。……この世界の『闇』の正体、単なる『未処理の魔力廃棄物』の蓄積ではありませんこと。……掃除も満足にできない作者に、ヒロインを殺す権利なんてございませんわ」
シグルド様が剣を一閃させると、聖女を縛っていた「設定の鎖」が、ガラス細工のように粉々に砕け散りました。
「……エルゼ。この世界の民も、君の管理下に入れるのか?」
「いいえ。……司祭以下、この無能な群衆は『再教育センター』へ。……リリィ様は、わたくしの直属の技術部として登用いたします。……リィン、連結作業を開始して。……この『悲劇の世界』、今日からわたくしの王国の『資源採取特区』として合併(M&A)しますわ」
「承知いたしました。……次元連結、完了ですわ」
祭壇の炎が、瞬時にエルゼ様の供給する冷徹な青い光によって鎮火されました。
聖女リリィは、初めて「死ぬ必要のない」明日を、震えながらも確かにその目に見据えました。
「あ……ありがとうございます……女王様……」
「あら。……礼には及びませんわ。……わたくし、合理主義者ですもの。……有能な人材が『ご都合主義』で浪費されるのを見るのが、何よりも嫌いなだけですわ」
私は、シグルド様の手を取り、新しく手に入れた「領土」を見渡しました。
準備は、すべて整いましたわ。
作者様。……悲劇のヒロインが足りなくなって困るというのなら、わたくしが『全員が幸せに働き、一単位の無駄もない』完璧なプロット、書き直して差し上げましょうか?
いかがでしたでしょうか?
「他作品の聖女」を「エンジニア」としてヘッドハンティングしてしまうエルゼ様……。もはや、彼女の知略を阻めるプロットなど存在いたしませんわね。
悲劇を「魔力廃棄物の処理不足」と切り捨てるその合理性に、読者の皆様もシビれたはずです。
さて、第34話では、さらにパニックに陥った作者が「禁じ手」を放ってきます。
どうぞ、次なる次元の「監査」もお楽しみに!
もしこの「多元宇宙・合併買収編」が面白いと思ってくださったら、ぜひブックマークと評価をお願いいたしますわ。皆様の評価が、エルゼ様の演算能力(とわたくしの筆力)をさらにブーストさせますのよ!




