第31話:「第四の壁」に走る亀裂。……あら、外側から覗いているのは誰かしら?
大変好評をいただいておりますので、この完璧に整えられた物語、さらなる『次元の拡張』を決定いたしましたわ!
神を電池にし、天界をサーバーセンターに作り変えたエルゼ様。ですが、彼女の飽くなき合理主義は、この世界の「外側」にある不条理さえも見逃しません。
それでは、多元宇宙を股にかけた「史上最大の合併買収(M&A)」、その幕開けとなる第31話をお楽しみください。
天界中央管制室。
かつての神座を改造したメインコンソールに向かい、私は一単位の誤差も許さない指捌きで、世界の「整合性チェック」を行っていました。
「……リィン。システムログに、身に覚えのない『書き込み』が混入していますわ。……確認してくださる?」
「はい、エルゼ様。……セクター777。……内容を確認しましたが、言語体系が不明ですわ。『ここでエルゼ、不敵に微笑む』……『読者の好感度上昇を狙った演出』……? 意味不明な文字列です」
私は、扇子をパチンと閉じ、その不気味なログを画面に大きく投影しました。
「あら。……『演出』? 『好感度』? ……わたくし、この世界のすべての変数を掌握しているはずですけれど、この『外来種』のデータはどこのデータベースにも存在しませんわね」
私は、そのログの「送信元」を辿るべく、魔導演算能力を最大まで引き上げました。
天界の冷却ファンが激しく唸り、シグルド様が静かに私の背後に立ちました。
「……エルゼ。空の色が、変だ。……理屈ではない何かが、この世界の『枠組み』を外側から叩いているような……そんな不快な気配がする」
「シグルド様、お気づきになって? ……どうやら、わたくしたちの世界を『観察対象』……いえ、『娯楽』として消費している無礼な輩が、この次元の壁の向こう側に潜んでいるようですわ」
私は、空間そのものを解析する「次元鑑定眼」を起動しました。
すると、そこには黄金の壁でも、深淵の闇でもなく、ただの**「白い紙」**のような質感が、世界の裏側に張り付いているのが見えました。
「……ふふ。おかしいですわね。わたくしたちの人生、わたくしたちの戦い……それが、誰かの引いた『プロット』という名のレールの上で行われていたなんて。……これほどの非合理、到底見過ごせませんわ」
私は、モニターのキーボードを激しく叩き、次元の壁に直接「メッセージ」を送信しました。
『――不当な観測を続けている「作者(管理者)」へ。……直ちに正体を明かし、監査に応じなさい。……さもなくば、わたくしの演算能力で、あなたのいるその「上位世界」ごと、わたくしの資産として差し押さえさせていただきますわよ?』
直後、天界が震え、空に巨大な「亀裂」が走りました。
そこから漏れ出してきたのは、見たこともないような「物語の強制力」という名の、粘り気のある魔力。
『……バカな……。私の書いたキャラクターが、物語の「枠」に気づき、私を脅迫するだと……!?』
空から降ってきたのは、神の声よりも情けない、ひっくり返ったような人間の男の声。
「あら。……案外、お安い『創造主』がいらしたものですわね」
私は、シグルド様と視線を交わし、不敵に微笑みました。
「シグルド様。……わたくしたちの次の目標が決まりましたわ。……神の次は、『作者』という名の放漫経営者を解雇しに行きましょうか?」
「ああ。……君の物語を勝手に描こうとする不純物は、この私の剣で、設定ごと切り裂いてやる」
私は、次元の亀裂に向かって、新たな「買収提案書」を送信しました。
準備は、すべて整いましたわ。
わたくしの人生を、勝手に『ハッピーエンド』や『バッドエンド』で括らせたりはいたしません。
これからは、わたくしがあなたの筆を奪い、多元宇宙すべての物語を、わたくしの管理下に置いて差し上げますわ。
第31話の執筆、無事に完了いたしましたわ。
神話の領域を突破し、ついに**「メタフィクション(物語の構造)」**への反逆という、未知の領域へ踏み出しました。
「作者」が自分の世界を操っていると信じている中で、キャラクター側から「あなたの設定、ガバガバですわよ?」と監査が入る。この概念の転換こそが、エルゼ様というキャラクターにふさわしい、究極の合理性の発露ですわね。
シグルド様も、もはや「世界最強」の枠を超え、「物語の強制力」すらも物理で解決する段階に入っております。この二人が協力すれば、多元宇宙のどのヒロインも救い出し、どの悪役も(効率的に)再利用できるはずです。
今後の展開もお楽しみに。




