第25話:バベルの塔? いいえ、天界への直通エレベーターですわ
天界の最高議事堂。かつて黄金と雲に彩られていたその場所は、いまや銀色の魔導ケーブルが這い回り、巨大な冷却ファンが低い唸りを上げる「サーバー室」へと変貌していました。
かつての神座――宇宙の理を操るための制御装置には、私が開発した「統合管理OS:アシュバッハ」がインストールされ、モニターには地上の全魔力供給状況がリアルタイムで明滅しています。
「……リィン。天界と地上を繋ぐ『垂直移送経路』の構築状況は?」
「順調です、エルゼ様。旧・バベルの塔の遺構を再利用し、物理的な距離を位相空間で圧縮いたしました。……今後は、地上の物資をコンマ数秒でこの天界へ運び込むことが可能ですわ」
私は、かつてロゴス神が座っていた椅子……を、背もたれが高すぎて首が疲れるという理由で「最新の人間工学に基づいたオフィスチェア」に入れ替え、そこに深く腰掛けました。
「あら。……バベルの塔だなんて、随分と古風な呼び方ですのね。……わたくしにとっては、ただの『垂直型高速データ転送ライン』に過ぎませんわ」
「ふふ、全くだな。神々は空の高みにいるだけで自分たちが偉いと錯覚していたようだが、これからは単なる『高高度インフラ拠点』として、地上のために働いてもらうとしよう」
シグルド様が、剥ぎ取った神々の黄金を溶かして作らせた、新しい文鎮を私のデスクに置きました。
その時、廊下の方から見苦しい怒鳴り声と、重い鎖の音が響いてきました。
「離せ! 私は運命神ロゴスだぞ! こんな、こんな鉄屑のような建物の中で、私が何をさせられるというのだ!」
北方の騎士たちに引きずられてきたのは、豪華な法衣をボロ布のように汚し、魔力を封じる鎖に繋がれたロゴス神でした。
かつての威厳はどこへやら、その顔は屈辱と恐怖に歪んでいます。
「あら、ロゴス様。……これから地上の『炭鉱』へ向かうお迎えの馬車を待っている間、少しだけわたくしの『新事業』の見学をさせてあげようと思いましてよ」
私は扇子をパチンと閉じ、窓の外を指し示しました。
「ご覧なさい。……あなた方が『気まぐれな奇跡』で管理していたこの世界。……今日からは、わたくしの設計した『自動救済システム』が、すべての不平等を計算し、一単位の狂いもなく幸福を分配いたしますわ。……もう、誰一人として、あなたの名前を呼んで祈る必要はございませんの」
「き、貴様……世界から『信仰』を消すというのか! 神のいない世界など、ただの冷たい機械仕掛けの牢獄だぞ!」
「いいえ、ロゴス様。……『予測可能な平和』と呼びなさいな。……あなたの言う『心の温もり』とやらで、何人の子供が冬を越せずに死んだと思っておいでですの?」
私は立ち上がり、ロゴスの目の前で一枚の「配属通知書」を突きつけました。
「さて、ロゴス様。……あなたの再就職先ですが。……帝都の第三炭鉱、第B-12区画に決定いたしました。……そこには、かつての教え子もおりますわ。……二人で仲良く、『愛』と『信仰』でどれだけ腹が膨れるか、一生をかけて実証実験してくださるかしら?」
「あ……あ、あああああっ!!」
ロゴスが絶叫と共に連行されていくのを、私は冷淡に見送りました。
モニターには、天界の膨大な演算能力を利用して、地上の砂漠を緑地化するための新計算式が、目にも止まらぬ速さで完了していく様子が映し出されています。
「……エルゼ。これで神々の干渉は完全に排除された。……世界のすべてが、君の掌の上にあるな」
「あら、シグルド様。……わたくし、支配者になりたいわけではありませんのよ? ……ただ、不合理なエラーが吐き出されるのを防ぎたいだけですわ」
私はシグルド様に微笑みかけ、彼の手を強く握り返しました。
神々の庭は、いまや人類の叡智を支える「巨大な計算機」。
不条理な奇跡は消え、世界は完璧な調律へと向かいます。
準備は、すべて整いましたわ。
次は……この管理システムを宇宙の果てまで拡張するための、さらなる『最適化』に取り掛かりましょうか?
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