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王道RPGのモブに転生した俺は、転職を繰り返し【努力】と【原作知識】を駆使して世界を『改変』する!  作者: 神田義一
第七章 四魔王編

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第二百三十一話 「援軍」【三人称視点】

 砂の粒が、風に鳴った。


 二体の魔界の魔物──負傷し、ただ立っているだけのはずなのに、夜の温度をさらに一段下げるような禍々しい気を放っている。


 目の前の現実が、これほど重いことがあるものか。


 ヴェンザルは片翼を縫い直し、四本の腕に骨色の刃を握っていた。

 グラヴォーンは片顔を半ば焼かれたまま、しかし依然とその圧倒的な存在感が空気を押しつぶしている。


「チッ……こりゃしんどい仕事になりそうだな」


 アベルが二刀を起こす。

 右に短い刺突刃、左に湾刀。商人の裏稼業で磨いた“実務の手”が自然に身構えを描いたとき――


「なんや……?」


 黒い海から、夜を裂く声が飛んだ。


「お困りと聞いてぇ! 寄り道してきましたぁ!」

「敵を視認。討伐を開始する」

「おぉ、お前らッ!?」


 白と黒の影が、同時にアベルの元に降りた。


 白は、白装束の祓い手。

 フードの内側から覗く瞳は快活で、両袖の内に細い札束と鎖の数珠を仕込んでいる。


 黒は、黒鉄の甲冑に身を包んだ騎士。

 背の長剣は鞘のままでも空気を震わせ、面越しの声は無表情に平板だ。


 ふたりとも、先ほどまで港で戦っていた“水術師”の伝手だった。

 アベルは思わず笑ってしまう。

 頼もしさ半分、苦手半分だ。


 その理由は──


「って、何あのコウモリとウマ!! アベルちゃん、何たった二体の雑魚に苦戦しちゃってるの!? えっ大丈夫!? リーダー代わろうか!?」

「……雑魚なら苦戦し──」

「えっいやだいやだ聞きたくない!! 我らがノルダリアの長たる者の言い訳なんてッ!! 雑魚に苦戦したリーダーなんて嫌っ!!」

「……お前、最初から聞く気ねぇだろ」


 実力こそ認めるが、性格がこの通り捻くれているせいである。


「けど、まぁいい。助かった」

「へへっ。港の方は一段落。お代は後払いでいいよ? 倍額で!」

「……後で値切り方を教えてやるよ」


 軽口が夜に弾む。

 その緩む空気を――最初に壊したのはもちろん、あの藍翼の悪魔だ。


「“雑魚”やてぇ!? ワシは麗しのヴェンザル様や! 雑魚の意味わかっとんのかいな!」

「“雑魚”とは魚、総じて海にいるもの。そしてここは砂浜。ゆえに文脈上の誤謬は観測されない」

「何賢そうなこと言うてんねや!! 白いのも意味わからんけど黒いのはもっとわからんわ!!」


 黒の騎士の淡々とした屁理屈に、ヴェンザルが地団駄を踏む。

 砂が鳴り、切断が終わったばかりの片翼が苛立ちに震えた。


「ガハハッ! 完全になめられてるなヴェンザル! だが、殺し合いの前口上として最高だ!」

「だまっとけウマ。口から血が漏れてんぞ」


 アベルは二刀を軽く持ち直す。

 白がその肩口を肘で小突いて、悪戯っぽく囁いた。


「ね、リーダー。俺達が来たからには――“いける”だろ?」

「……あぁ。こっちの手数は足りた。これなら――」


 言いかけて、セリエスの方に振り返ったアベルは口を止めた。


 セリエスがいない。

 声の届く場所に。

 

 振り向けば、砦と沖のあいだ――これほどまでに心強い助っ人が来たというのに、彼は海の奥を凍りついたまま見つめていた。

 白の甲高い声すら届いていない。

 血の気が引き、額の汗は冷たく、指先は僅かに震えている。


「……どうした、セリエス?」


 アベルのその言葉に、返事は来ない。

 代わりに、ほとんど唇の形だけで零れた。


「駄目……だ……」


 鼓膜に届いていないのに、胸の裏側だけが理解してしまうような重さ。


「……あ? なんだってんだセリ――」


 アベルは舌打ちを飲み込み、肩へ手を置いた――その瞬間。


「アベルさんッ!!」

「うおッ!? どうした!?」

「すみませんが、ここは任せます!!」


 即断。

 刃物のような声。


「はァ!? おい、任すって――どこに行く気だよ!」

「今は……言えません。ですが――」


 セリエスは深く息を吸い、喉の奥の迷いを切り捨てる。


「このままだと、人類は滅びます」


 唐突で、途方もなくて、でも嘘の温度ではない。

 アベルは言葉を失い、白は目を丸くし、黒は面越しにほんの僅か首を傾けた。


 沈黙の二拍。アベルは舌の裏で溜めていた言葉を別の形に変える。


「……わかった。いいだろう。けどこれは、貸しだからな」


 セリエスの眼が、そこで初めてこちらを見た。

 頷きは小さい。

 だが、既に迷いは消えていた。


 彼が外套の内から取り出したのは、薄青く脈打つ羊皮紙――転移のスクロール。

 アベルの指先がわずかに上がる。

 訊くべき問いは山ほどあるが、ヴェンザルの声が、それらを容赦なく泡立てて消した。


「おしゃべりは終いや! ――『妖瞳穿光(デモンズ・レイ)』!!」


 針のように細まった瞳から、白が走る。

 瞬時に白は壁になった。


 しかし、その一閃を――


「――『結界術・八方鏡(はっぽうきょう)』!」


 祓い手の袖から五色の札が散り、三重に組んだ鏡面結界が咄嗟に立ち上がる。

 甲高い金切り音とともに、熱線は海へ弧を描いて逸れる。


「ちょちょちょ何!? 目から何!? コウモリのくせに狙撃手なのアイツ!?」

「海産物の範疇にコウモリは含まれない。該当するのは――」

「今その話いらないよ!! っていうかお前も戦えよ!!」


 白の歯切れに被せるように、黒が前へ一歩。

 鞘から長剣を半寸だけ抜くと同時に、刃が夜気を噛んだ。


「『月光斬』――」


 ただ一言と共に、放たれたのは三日月状の軌跡。

 空の黒に薄い白が描かれ、湾曲する剣閃がヴェンザルの光線を喰い破って走る。

 遅れて砂塵が舞い、ヴェンザルの頬に紙一枚の切線が刻まれた。


「い゛っだッ! また顔ォ!? ほんま台無しやわ!」

「雑魚ほどよく喋る」


 黒の面越しの声は相変わらず平板だ。

 だが、重い。


 その間に、セリエスは羊皮紙へ細い指を走らせていた。

 座標を書き施された文字へ、魔力で印を結ぶ。

 その座標は、グランチェスター伯爵とセリエスが作った特別製――故に行先は、彼らにしか知らない。


「――セリエス」


 アベルが呼べば、短く、視線が返る。


「言っておくが、ノルダリアのトップ三人の時間を買うのは、少々値が張るぜ?」


 セリエスは笑わない。

 けれど、その目尻だけは柔らかかった。

 彼は一歩、光の円へ踏み入れ――


「――必ず、倍にして払ってやりますよ」


 呟きと同時、光が閉じた。


 同時に、ヴェンザルの瞳にまた白が宿る。


「コラ! どこ行く気や!? 逃がすかボケェ!!」


 光条が転移陣の残光を撃ち抜く――しかし、そこにはもう誰もいない。

 熱だけが砂を焼き、黒い線をひとつ、残した。


 アベルは肩を回し、唇の端を吊り上げる。


「さて――こっからが本番だ」


 白が札を叩きつけ、黒が刃を水平に据え、アベルは二刀を交差させる。

 灯台の光が三拍目で砂を撫で、夜は再び牙を見せた。


「ノルダリアの時間は高ぇんだよ。相応の踊りを用意しろ、魔界の雑魚ども」

「雑魚ゆうな言うてるやろがぁぁ!! たかが二人が三人に増えたところで――」

「“魚”は海にいる。君たちはここにいる。従って――」

「黙れや黒いの!!」


 怒号と笑いと殺意が、波頭に交じって弾ける。

 夜戦は、ようやく正しい温度に達した。

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