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王道RPGのモブに転生した俺は、転職を繰り返し【努力】と【原作知識】を駆使して世界を『改変』する!  作者: 神田義一
第七章 四魔王編

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第二百二十九話 「浜沿いの死闘」【三人称視点】

 海鳴りと血の匂いが、夜気に解けていた。


「──『妖瞳穿光(デモンズ・レイ)』ッ!!」


 ヴェンザルの眼が針の如く細くなった瞬間、世界が白一色に輝いた。

 目そのものから伸びた魔力の光線が、アベルへと高速で伸びる。


 その致命の一閃を、アベルは真正面から迎えた。


「チッ、けったいな目やな……!」


 片手に細身の刃、もう片手に幅広の湾刀。

 ノルダリア式二刀流──商人の裏“外仕事”で磨き上げた双牙。


 右の刀でまず光線を払う。

 刃の腹で押し流し、ギリギリの角度で横へ弾いたのだ。


 閃光が彼の耳を掠め、後ろの岩を溶かしながら一直線に地面を抉り抜ける。

 砂利がガラスのように溶けて、黒い筋になって固まった。


「くかかっ!! ええなぁ、お前ッ!」


 ヴェンザルは笑う。

 黒い翼を小さく震わせ、楽しげに。

 その顔は柔らかいのに、声だけは底冷えした獣の音。


「魔物のくせに訛ってんじゃねぇよッ!」


 アベルが毒づきざま、踏み込み一歩で、既に懐へ。

 二刀が逆方向に走る。

 右の刺突で喉を狙い、左の斬撃で羽根の付け根を裂きにいく。


 彼の速度は、決して人間離れはしていない。

 しかし、人間の速度でここまで迫ってくること自体が異常だった。


 ヴェンザルは首だけを滑らせて喉を外し、肩を沈めて躱す。

 頬に、愉快そうな熱が灯った。


「二刀か。器用やけど、そんなんでワシを止めれるかなぁ」

「止めるつもりなんざねぇ。潰すんだよ」


 顔面スレスレですれ違い、アベルは片足軸で回転。

 湾刀の背でヴェンザルの顔を横薙ぎに叩いた。

 刃ではなく、敢えて“殴る”。


「お゛ッ──!?」


 ボギ、と嫌な音。

 ヴェンザルの頬骨がわずかに陥没する。


「好機ッ!!」

「ちょっ、剣撃だけじゃないんかいなッ!?」

「俺は剣士じゃないもんでねッ!!」


 アベルから、同時に二撃目。

 右手の短い刃が抉るように肋の隙間を差し上げる。


 しかし──


「まぁ、ほな……これならどうやっ!?」


 ヴェンザルは、そこで笑った。


 ぐちゅ、と不快な音が走る。

 ヴェンザルの肩から肉が盛り上がり、筋肉が蠢いて割れた。

 そこから生えるのは──“腕”。

 一本ではない。左右、元々ある腕の下から合計二本、ぬるりと飛び出す。


 そしてその手には、どこから取り出したのか刃が握られている。

 刃は骨のような色。

 血管みたいな紋がうっすら走って脈打っている。


 まるで身体から武器が生えたように、そこに存在していた。


「ッ──!」


 四本の刀身が同時に襲いかかる。

 斬撃が重なる角度がいやらしい。

 二つは正面からの十字、残り二つは死角からの“あと出し”。


 アベルは瞬時に下がる──それがもう間に合わない。


「ぐッ!!」


 右肩に浅い線が刻まれる。

 焼き付けるような痛みが走った。

 その感触からして普通の刃じゃない。

 斬られるだけで、内側に何かが入り込んでくるような感覚がある。


 アベルの眉が歪む。

 その一瞬すら、ヴェンザルは見逃さない。


「往生せえやぁあああッ!!」


 四本の刃は止まらず、むしろ加速する。

 一本弾いたと思ったら、弾いた刃ごとさらにもう一本がそこへ滑り込んでくる。


 逃げ場を削り取る四刀。

 防戦を強いられる中、それでもアベルは二刀で受け、こじり、払って角度を殺す。

 だが──明らかにジリ貧なのは言うまでもない。


「くッ、キモいッ、身体ッ、しやがって……ッ!」

「キモい言わんといてーや、傷つくわ〜」


 アベルは歯を食いしばり、後ろへ砂を跳ねて距離を取ろうとする。

 そこをヴェンザルは間合いを詰めさせない。

 翼で砂を巻き上げ、視界を裂き、その砂ごと光線を混ぜてくる。


「──『妖瞳穿光(デモンズ・レイ)』ッ!!」


 まるで魔力の底など見せない、目潰し兼焼灼の一撃が迫る。

 直撃を躱せど、光が砂粒を一緒に溶かし、ガラスの礫が雨のようにアベルを襲った・


「────ッ」

「アベルさんッ!!」


 彼の窮地を見て、叫んだのはセリエスだ。

 咄嗟に手を伸ばし、少しでも助力になればと意識を向ける──が。


 ──ドォン!


「クッ──!」


 巨大な斧の一撃が、彼の行手を阻む。

 彼もまた、別の地獄の真っ只中にいた。


 四本脚の巨躯、グラヴォーン。

 上半身は鬼。下半身は馬。三メートルを超す図体。

 その両腕で振るっているのは、ひと振りで船のマストすらなぎ倒せる大斧。

 柄だけで人族の身長を遥かに超える長さだ。


 その巨斧が、縦横無尽に跳ね回る。


「ぬぅんッ!!」


 グラヴォーンが踏む度、大地が鳴り響く。

 四肢で地面を押し込んだ瞬間、巨体が信じられない速度で回転した。


 超量とも言える金属の塊はずなのに、速度が落ちることはない。

 四足の利点を最大限利用した踏ん張りと、彼の剛腕があってこその力技だ。

 それでいて狙いも精密。

 斬線が全て、セリエスの首・肩・鳩尾・膝にピッタリと外さない。


「ぉおッ──!」


 それに対し、セリエスは飛ぶ。

 足裏に魔力を走らせ、反動を爆発させて地を離れる。

 肩をかすめた風圧だけでスーツの袖が裂け、白いシャツが覗く。


 だが、それでも──

 斜めに跳び、空中で身をひねり、背中を丸めて刃の表面を滑らせ、寸止めで最小限だけ距離を取る。

 

「がははッ! 上手く避けるな!!」


 グラヴォーンは笑う。

 狩りを楽しむ重く太い笑いで。

 自らが敗北するとは微塵も考えていないが故の悦楽。


「だァが──」


 セリエスの背筋に悪寒が走る。


「──ッ!?」

「飛びすぎだッ!!」


 気づいた時には、既に遅い。


 一撃を避けた勢いそのまま高く跳ばされた軌道。

 先ほどまでのグラヴォーンの攻撃は、本命ではなかった。


 大斧が一瞬で“逆手”に持ち替えられた。

 常識的に言えば無茶だ。

 あの質量を、あの遠心力で振り切って、そこから一拍で逆方向に回すなんて、普通に考えれば腕がちぎれる。


 だが、グラヴォーンは平然とやってのけた。

 四本脚全てで地面を蹴り、腰そのものを軸にして、巨斧をありえない角度から振り上げ直す。

 彼だからこそ出来る芸当──


 狙いは、空中のセリエスの死角。

 彼の“視界の外側”──つまり、避け終わったと思った位置に最短で刃が走る。


 セリエスに迫る、不可避の一撃は──しかし。


「──っ……!」

「なんとッ!?」


 グラヴォーンの目が、初めて驚きに見開かれた。


 セリエスは空中で身を捻り、斧の平たい側面に掌を貼りつけるようにして掴む。

 常識的に言えば、掴んだ瞬間に片腕ごと吹っ飛ぶはずの衝撃。

 彼はそれを、手のひらに展開した魔力で流すように逸らしたのだ。


 そして、そのまま斧の軌道を“足場”にした。

 セリエスは掴んだ斧を支点に、自分の身体をさらに一回転。


「ぐっ!!」


 空中で逆さまになったセリエスと目が合う。至近距離。

 その瞬間、セリエスの左手がグラヴォーンの顔面に突きつけられた。


「燃えろ」


 低い呟きと同時に、魔術が重なる。

 火属性と地属性──二つの系統が重なる混合魔術。


「『紅蓮岩弾(クリムゾン・バースト)』」


 空気が粘る音と同時に、セリエスの上半身サイズはある岩塊が、二人の間に生成された。

 赤黒く脈打つ岩。内側から火が滲んでいる。

 ほぼゼロ距離から放たれたソレが、グラヴォーンの顔面に直撃する。


「ぐぉッ──!?」


 だが、当然それだけではない。


「──爆ぜろ」


 握った手が合図になる。

 岩塊が、内側から破裂した。


 ──轟音。


 夜の海を割るような爆圧が、至近距離で炸裂した。

 オレンジの閃光がグラヴォーンの顔面から半円状に開き、熱が一瞬で海霧を蒸発させる。

 砂利と血と破片が、雨のように飛び散った。

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