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王道RPGのモブに転生した俺は、転職を繰り返し【努力】と【原作知識】を駆使して世界を『改変』する!  作者: 神田義一
第七章 四魔王編

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第二百二十八話 「感づかれていた連合」【三人称視点】

 北風の下、弓なりの泊地に三色の旗がはためく。

 ノルダリアの第五部隊――貨客と戦の両用で鳴らした“錨戦隊”が、島風裏で半月の陣を敷いていた。


 甲板は忙しい。

 弩砲は脂を差され、投光器は舷側だけを淡く洗い、術師班は船腹の結界紋をなぞっている。


「で……魔物はどこに現れたんだ?」


 顎髭に塩を噛ませた船長が、欄干にもたれたまま若い見張りに声をかけた。

 肩から油布、腰には短剣。

 緊張はあるが、口元にはまだ余裕がある。


「島の裏側だそうです! 現在はアベル様とセリエス様が様子を見に行って、そのまま戦闘になっているようですっ!」

「ふむ、他にもいるかもしれん。全員、戦闘配置につけ!」


 ばばっと両手を仰ぐ。

 それだけで甲板の空気が色を変えた。

 舵手が舵輪に手をかけ、弩砲班が弦を引き、術師班が祈句を整える。

 投網班は網口に鎖を噛ませ、補助索を肩に回した。


「せ、せせ船長!!」


 しかし、見張りの若いクルーだけは、双眼を外せずに震えていた。

 膝がわずかに合板を叩く。


「どうした、ボーイ!?」

「ふ、船がッ! 爆発していますッ!!」


 全員の目が、一拍遅れて望遠鏡の先へ向く。

 そこにあったのは、黒い海に花開く白い水柱と煙。

 暗がりに紛れて詳細は掴めない。

 だが、何かが沈められているのはわかる。


「慌てるな、ボーイ!」


 髭の船長は彼の肩を“ドン”と叩き、望遠鏡を奪うようにして覗き込む。

 目の奥の余裕は、まだ消えていない。


「大丈夫だ落ち着け。冷静に距離をとりながら回り込んで敵を確――」


 言い切る前に、船長の顔から余裕が剥がれ落ちた。


 海の上に、立っている。


 真っ二つに割れた船体を、両の腕でずるりと持ち上げる“それ”が。

 潮と塩を固めて出来たような、灰色の巨躯。

 海底の岩と船の破片が鎧のように貼り付き、波の上に自重で沈まない。

 眼窩にあたる窪みが、青白く燐光した。


(ロック)ゴーレムっ……!?」


 信じ難い。

 だが“それ”は、何のためらいもなく。

 割れた船片を片手でぶん、と振りかぶり、投げた。


 火の尾が空へ弧を描き、爆ぜる。

 破片が雨になり、油が海を火に変える。

 遅れて、遺骸のようなマストが波を叩いた。


「たっ……退避ッ!! 退避ーーーッ!!」


 腹から怒鳴る。

 合図旗がはためき、鐘がけたたましく鳴った。

 第五部隊の小型武装船は横滑りするように離脱、楔形に広がって距離を取る。

 舷側に回った魔術師が詠を切り替え、側面からの撃ち込みで間を押さえる。


「右舷、氷撃三、風圧一! 舵に鎖、切り離し急げ!」

「投網班、前へッ! 網は舵輪狙い、絡め取れ!」


「ゴォォォォォオオッ!!」


 白く輝く氷弾がゴーレムの膝を撃ち、塩の鱗が砕け飛んだ。

 風の弾で飛沫を押し返し、視界を作る。

 バリスタが唸り、鉄の矢が岩ゴーレムの肩口を打ち抜く。


「後ろは空けた! アイツらはまだかッ!?」


 撤退は逃走ではない。

 押さえ、離れ、間合いを繋ぐ。

 商人の船が退きながら弓と魔術で“幕”を張る間、前衛が出る。

 予定どおり、冒険者ギルドの旗が風を裂いて前へ躍り出た。


「遅れてごめんね、"闘う商人"さん」

「潮路、借りるぜ!」


「清らかなる水の力よ、敵歩を拒み、我らに活路の陣を――『氷槍界域アイシクル・フィールド』!」


 最初に海面へ道を作ったのは、水術師の女だった。

 杖先で海を薙ぎ、氷の薄橋を連続生成。

 白い道が波間に走る。


 そこへ、槍騎士が踏み込む。

 靴裏の魔符が水踏みを支え、長槍が塩岩の脛の継ぎ目を正確に穿つ。

 ガッ、と嫌な手応え。

 塩の鱗が割れて、そこから蒼い塩水が噴いた。


「硬ってぇ――なッ!?」

「まかせてッ!」


 槍騎士が歯噛みするより早く、水術師が杖で継ぎ目をなぞった。

 ひゅう、と海気が吸い込まれ、ひびに沿って氷の楔がずぶずぶ生まれる。

 塩岩が内側からきしみ、亀裂が星形に走った。


「おおッらぁああああッ!!」


 そこへ――現れた剛剣士が即座に氷橋へ踵を打ち込み、氷柱を蹴って跳ぶ。

 鉄の大剣が月光を弾き、落下の重さごと膝頭へ叩きつけられた。


 膝が抜け、岩ゴーレムの巨体が半身だけ沈む。海面が爆ぜ、火が塩水で悲鳴を上げた。


「まだだッ!」


 槍騎士は滑るように脛の隙間へ穂先をねじ込む。

 ガラガラと装甲めいた破片が剝がれ、胸郭の奥――青白い燐が脈打つ核があらわになった。


「ゴォオオ――ッ!」


 弱点が露出された岩ゴーレムは残った片腕で、沈みかけの船片を棍棒のように振るった。

 空気が唸り、火の尾を曳いた巨塊が襲いかかる。


「――っ! 『水盾(ウォーターシールド)』!」


 水術師が手首を返し、海面から水盾を盛り上げる。

 火と水がぶつかり、蒸気が白い壁になって衝撃を殺した刹那――


「――いい加減にッ! 沈めやッ!!」


 剛剣士が蒸気の幕を裂いて踏み込む。

 大剣の刃が震える。

 柄頭にかけた左の拳で一打、刃全体に細かい震動を走らせる秘技。


「『震刃断(しんじんた)ち』!」


 金敷に熱鉄を置いたみたいな甲高い鳴り。

 塩の殻ごと燐光の核が割れて、海の音が一瞬だけ消えた。


 ぐらり、と巨体が傾いだ。目窩の青がすうっと消え、粘った重みも反発も、ただの瓦礫に変わる。塩の雨と岩の雨が、ざああっと海へ崩れ落ちた。


 波が一度、深く呼吸する。


「……ふぅ、初手でこんなの聞いてないって」

「やはり、感づかれてた可能性が高いな」


 水術師が杖先を軽く一振り、薄橋を溶かして道を消す。

 槍騎士は穂先を返して余熱の塩を払った。

 剛剣士は刃を肩に担ぎ直し、肩で息をひとつ。


 甲板側から歓声と、安堵の息が一斉に上がる。


「た、助かったぁああ……!」


 髭の船長が胸を叩き、見張りのボーイは双眼を抱きしめたまま腰が抜けている。

 冒険者三人が舷側へ飛び移ると、ボーイが半泣きで頭を下げた。


「あ、ありがとうございますッ! オレ……オレもう死んだかと……!」

「ふふっ。ちゃんと生きてるわ。それに、しっかり見張りの仕事もできてるし、えらいえらい」


 水術師がボーイの頬色を覗き込み、細い指先で頭を撫でた。


「次もよろしくね!」

「は、ハイッ!」


 槍騎士が穂先を肩に乗せ、遠くの夜を睨む。

 直後――


 ドォン……ドン、ドンッ!


 島の裏手、さらに沖合。

 白い水柱が連続して花開き、遅れて低い雷鳴のような爆音が胸板を叩いた。

 投光器が角度を大きく振り、舷側だけを洗う白が、遠い炎の影を拾い上げる。


「右舷、結界紋もう一度なぞれ! 弩砲、対空角へ! 投網班は索を持って後退、甲板中央で待機!」


 髭の船長が矢継ぎ早に怒鳴る。

 鐘が鳴り、信号旗が跳ね、魔術師が祈句を早口に詠む。

 錨戦隊は退きながら繋ぐ段取りを崩さない。


「ア、アベル様の方は大丈夫なんでしょうか……」


 ボーイが双眼を抱えたまま、思わず声を上ずらせた。

 顔にはまださっきの白い爆ぜが映っている。


「心配ないわ!」


 水術師が即答した。

 目は笑っていないが、声音は軽い。


「あっちにも私たちギルドの強いのが向かったから。――ほら、不安にしてる暇はない、次が来るわよ!」

「……ッス!」


 ボーイは胸に息を入れて頷く。

 冒険者たちは一拍で表情を切り替え、持ち場へ散ろうとした――その時だ。


 ひゅううううう……


 北風が一段冷えて、影が甲板を横切った。

 月に、幾条もの黒が重なる。


「上だ!」


 誰かが叫ぶより早く、翼の鱗擦れが夜を裂いた。

 翼竜(ワイバーン)の群れ。

 喉に火を抱えた影が円陣を描き、こちらを見下ろす。


「さぁッ! 第二波ももらうわよッ!!」

「「おぉおおおおおおッ!!」」


 士気は上々。

 武者振るいの笑いと怒号が重なって、凍てた海面を震わせる。

 氷の薄橋が再び生まれ、弩の弦が次々に張りきる――


 ――夜が、牙を剥いた。

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