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22-次の依頼

「いやぁ、凄かった」


 ドラゴンも見えなくなってしばらく経ち、ようやく熱も収まり他の人々もいつもの日常へと帰っていく。

 俺は朝から気持ちが高揚し、とても良い気分であった。


「お兄ちゃんも凄かったね」


 苦笑いで返すエンリ。確かにあれほど興奮したのはいつぶりだろう。前世でもあんなに声を上げたことはない。

 肩車で近くにいたエンリには相当うるさかったに違いない。


 ごめんな、と一言謝って下ろそうとするも、ぎゅっと離さず降りないエンリ。どうやら肩車が気に入ったようである。


 偶にはいいかと、俺も再び立ち上がり、ギルドへと向かい始める。


「(そう言えばエンリ、さっきの女騎士には化けられそうか?)」


 笑顔で肩車を楽しんでいるエンリに小声で話しかける。あの女騎士……フィルティナは自らがドラゴンを倒したと言っていた。

 ならばフィルティナに化けられれば、大きな戦力にもなるし、記憶から俺に戦い方を教えてくれたり、稽古をつけてくれたりできるだろう。


「(無理。あの人間の女、そこそこ強いよ。姿だけなら、魔力ギリギリまで使えばいけそうかな……)」


 が、直ぐに返ってきた否定の言葉。

 俺の頭に胸を乗っけるような形で体を倒し、小声で話す(エンリ)。ふにふにと発展途上の物が当たって素晴らしい。


 まあ俺もそこまで期待していた訳ではない。あんな細い女性がドラゴンを討伐するのだ。鎧の下は筋肉で引き締まっていたり、魔力がとてつもなく多かったりするのだろう。


 エンリと契約して結構経ち、俺の魔力もそこそこに増えているようだが、まだまだ上には上がいる。俺だってまだ強くなれると体が言ってくれているのだ、焦る必要はない。


 俺が死なない限りはエンリもほぼ無敵であるので、エンリに無理をさせなくてもいいだろう。


 今のエンリの戦闘スタイルは、俺のベルトに刺してある二本のナイフ。元の姿のエンリでも、ナイフを突き刺すくらいの腕力は持っているので戦力としては申し分ない。


 だけど、もしもの時の為に、戦力になる人間の全模倣は一つは持っておきたい。絶対に鉢合うことのない、どこか遠く遠くへ旅に行って帰ってこないような人間がいいんだが……そんな都合のいい人はいないか。


「(まあ、そうだよな。しかしエンリが強いと言うなら、相当強いんだろうなぁ)」


「(ミィルの記憶からだけど、位で言えば5相当だって)」


 エンリが素直に強いと言うのは珍しい。冗談だがエンリは自称位7らしいので、評価は厳しめなのだ。

 しかし、5かぁ。5と言えば、エンリが化けた人達からの記憶で、今いる人類の最高が位6らしいので、それの一つ前。ギルドに属している人間も大半が位1〜3のこの世界。

 そもそも位とはギルドが定めているもの。先程のフィルティナのように、ギルドに属してなくとも強者と呼ばれる者は沢山いる。

 人間の位の基準などは、俺が上がる時や他の人間を見て確かめてやればいいが、魔物の位等はギルドにぞくしていない人間も参考にしているようだ。

 魔物の位は、数や特徴、毒持ちや素早さ、耐久諸々を合わせて、どうすれば、どのような人間が倒せるかによって決められているらしい。

 そこまで上がれば、俺もドラゴンを倒せるだろうか。


 体にやる気が満ち溢れる。ドラゴンを討伐すれば、竜殺しとして名が後世に残るかもしれない。


 討伐依頼はまだ避けておこうかと思ったが、今日は少し挑戦してみるか。

 何か手頃なものがあればいいなと考えながら、俺たちは最後まで肩車をしながら、ギルドへ向かうのであった……。




 〜〜〜




 と、意気揚々にギルドの扉を叩いたものの、手頃な討伐依頼はなかった。いや、俺の言う「手頃」の範囲が狭いだけだが。

 位2のポイズンビーや、位1のゴブリンの巣穴掃討の依頼は掲示板に残っている。


 されども位2はそもそも挑めないし、火の魔法を使える者を優遇と書かれている。位1のゴブリンの巣穴掃討だって注意事項としてパーティを組むか、単独であればゴブリン討伐を経験している位2から、とご丁寧に書かれている。

 魔物については、こういった位以外にも魔物の特徴を考慮して注釈が書かれているのでわかりやすい。


 位1から成り上がるには時間がかかりそうだ。

 (エンリ)もちょろちょろ動き回り、馬鹿でかい掲示板を手分けして探してくれたが、とぼとぼ近寄ってきて首を振った。やはりないらしい。


「何かお探しでしょうか」


 そうして二人して仲良く肩を落としていると、聞いた事のある声で話しかけられる。

 ゆっくりと振り向けば、いつものジト目無表情なミィルがカウンターを離れて立っていた。


「いや……俺の腕でもできる討伐依頼を探してたんですけど、いいのが見つからなくて……」


「貴方ならこのポイズンビーの依頼でも余裕でしょう。特例として許可を出してもいいですよ」


「はは、ご冗談を」


 俺も向き直るが、淡々と変わらぬ表情で告げるので、この冗談も本気で言ってるのではと錯覚してしまう。もし勘違いする冒険者がいたらどうするんだ。勘違いするのなら好意を寄せられていると勘違いしたい。ミィルに関してはそんな勘違いなど絶対ないが。


「ふむ。なら貴方向きの依頼がちょうどありますよ。後、敬語は気持ち悪いので普通に話して結構です」


 突然だが、普通の人は一回り年下の人の罵倒をどう受け取るだろうか。大人なら高校生の。学生なら小学生や幼稚園の子の言葉で想像してみてもらいたい。


 ミィルに化けたエンリから聞いたが、ミィルは十七歳らしい。俺は二十歳。前世も含めれば三十を超えている。精神年齢は24歳の死んだ時から変わってないが。


 そんな俺の答えは、普通に傷付く、だ。


 社会人なら当たり前の敬語を使って気持ち悪いと言われた俺は、胸をおさえてうずくまるのを何とか耐え、カウンターへと歩いていくミィルの後へ続く。


「お兄ちゃんはかっこいいよ!」


 そんな俺を慰めるように腕に抱きつく(エンリ)。これだけで心が修復されるのだから単純な男である。まあ本気でやられるほど傷付いている訳でもないし、深く関わりがなければ言葉も深くつき刺さらない。それに、エンリが好いていてくれれば、俺はそれだけで十分だ。

 エンリに本気で気持ち悪いなど言われたら多分死ぬ。


 ありがとう、と心の底からの礼を述べると、エンリが誰も見ていない事を確認し、ガルル……と獣のような唸り声でミィルの背中を睨み付ける。


 しかし俺向きの依頼とは一体何だろう。エンリはギルドに登録していないので、俺個人を指していることになる。

 それに依頼など昨日の薬草採取しかしていない。


 特技に書いた力持ち関係だろうか?


 考えながらカウンターの前につく。

 今日も受付はガラガラである。


「で、どんな依頼なんだ?」


 受付に戻ったミィルに、カウンターに肘をつきながら、早速敬語は止める。敬語は染み付いた癖のようなものだが、何とかやっていけるだろう。


「荷物運びですよ。力持ちな貴方にぴったりの」


 ミィルは変わらず、淡々と告げた。



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