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21-騎士

 今日は不思議ちゃんに化けたエンリに起こされ、ラジオ体操を行い、朝食をとり、トイレを済まし、革鎧と斧、ベルトにナイフを二本装備し、金貨三枚をポケットに入れて準備完了。


「目覚めましたね、世界を救う勇者よ。最早一刻の猶予もありません。さあ、冒険の旅に出るのです!」


 そんな感じで、神秘的な少女に起こされた。上に跨り、ゆっさゆっさと一生懸命に俺の体を揺らしながら。


 これが俺たちの朝である。言う必要もないと思うが、今日は快便だったので調子がすこぶるいい。この世界のトイレは、水の力を含んだ魔石のおかげで、ちょっとした水洗トイレになっているのでわりかし綺麗だ。


 魔石の利便性については、また後術するとしよう。


 それでもギルドの依頼には、便所掃除などもあるので、いつか俺も受けるかもしれない。


 流石に慣れてきたニーナにぎこちない笑顔で見送られながら、宿を出る。

 こちらの宿での進展はほぼない。金髪の厨房少女には相変わらず怯えられ、ネロットさんの夫は未だまともに見たことはなく、他の冒険者と話すこともない。


 けれども恐れられている……ということは軽減したと思う。食堂にいる人も減った様子もない。やはりエンリとのあ〜ん作戦が功を成したか。男の威厳が著しく低下しただろうが悔いはない。いつかおはよう、程度の挨拶がかわせればというのが最近の宿での目標である。


「今日もいい天気だ」


 陽の光を浴びて呟く。

 雲ひとつない快晴。洗濯物もよく乾くことだろう。ガンドの宿屋ではサービスとして衣類の洗濯もしてくれている。

 下着とかを預けてもよい、等で気にしないのであれば素晴らしいサービスだろう。俺は男で気にしないし、エンリも全く気にしていないので洗ってもらっている。


 流石に革鎧は洗えないので、自分で布で拭いたりはしなければいけないのだが、これも定期的に武具屋へ持って行った方がいいだろう。


「そうだね、お兄ちゃん! ……暑くはない?」


 俺の呟きに太陽にも勝る笑顔を見せてくれる(エンリ)。ぴょんと跳ねながら答えたので、ふわりと髪とスカートが揺れてとても可愛らしい。


 四月。ここプロージの街周辺の気候は前世の日本と比べ、比較的暖かいので今の四月でも快晴だと少し暑いくらいだ。

 通りかかる人々も、冒険者以外は防具で覆う必要もないので半袖半ズボンな薄着の人間も多い。いや、冒険者っぽい武器を背負ってるやつも半袖半ズボンだな。大丈夫なんだろうかあれ。


 今日の依頼も何を受けるのかは決めていないので、とりあえずフル装備にはしてある。なのでエンリも聞いたのだろう。

 暑いといえば暑い。が、何もせずにいれば汗をかくこともない。そんな感じだろうか。


 一応この世界で暮らして二十年。俺という自我がライクに芽生えてから十年。暑さにも耐性はあるし、山で狩りをしていた頃や石材積み上げていた時の方がキツかったので、この革鎧で動き回っても倒れることはないだろう。


 だが、水分補給はこまめにとるとしようか。


「大丈夫だ、心配してくれてありがとうな」


「えへへ……」


 礼を素直に言うと、ふにゃりとした笑顔に変わる。エンリはこの姿であれば、暑さや寒さ、痛覚等を感じるかは自由に出来るので問題ない。


 さて、太陽よりもあつあつな俺たちの絆を宿の前で道行く人々に見せ付けた事だし、そろそろギルドへ行こうかね。

 こういうちょっとした積み重ねが大事なのだ。いつかは俺も妹思いの優しいお兄ちゃんとして街の皆さんに認識され───


「「「おぉおおおおおお!!!!」」」


 と、一歩を踏み出した瞬間、何やら歓声が耳に届く。かなり遠くのもので、門の方から聞こえてきたものだ。サッカーでゴールが決まった時のようなあれである。


 現実逃避と足をぴたりと止め、そちらの方へ視線をやれば、歓声を聞いた人達が何事かとみんな門の方へと走り出していた。

 野次馬根性はこの世界の人間も変わらない。


 無論、俺もだ。


「何かあったのかな……? お兄ちゃん、行ってみよっ?」


「あぁ、ちょっと気になるしな」


 くいくいと手を引いてくるエンリも気になるようなので、二人で頷いて足先を門へと向け直して走り出す。


 この街は娯楽大好きな人間たちが集まる街だからな。辺りを見渡しても走っている人間しかいない。


「騎士様が、ドラゴンを倒したらしいぞ!」


 途中、同じく門へ走っていた男二人組みがそんな話をしているのが耳に届いた。

 ドラゴン。騎士。どちらも俺はよく知らないが、単語からの想像ならいくらでもできる。

 想像が間違いないのなら、英雄譚の一説にはなるぐらいだ。


 俺も日本男児、そう言った話は大好物だ。

 胸を踊らせつつ、あくまで見た目は冷静に。


「……お兄ちゃん、顔怖い…………」


 エンリを転ばせないよう、人の波に飲まれぬよう守りながら、門へと向かうのであった。




 〜〜〜




「道を開けろ!」


「あけ……開けろ! えぇい邪魔だ!」


「分かったから脇に寄れ!」


 民衆の歓声の中、騎士が叫んでいる。

 人、人、人。いつもそこそこに人が通っている大通りは、今やその比でないほどに人で埋めつくされていた。

 例えるなら渋谷の交差点。秋葉原の歩行者天国。辺りだろうか。


 ちょうど大通りの道幅も、秋葉原の道路と同じくらいだ。


 先行する騎士が人を脇に払い、その後ろから数十メートルもある台車が馬に引かれ、ガタガタと大きな音を立てながら大通りを通る。


 その上にあるのは……ドラゴン。片翼が切り落とされ、緑の鱗にはいくつもの傷があり、胸には大きく穴を空けていた。そんな絶命しているドラゴンが、横に倒れた状態で台車の上に縄で固定されている。


 それを見てまた沸き立つ民衆。

 俺も静かに興奮していた。


「エンリ、ドラゴンだドラゴン! 本物だぞ!」


「うん、すっごく大きいね!」


 門へと走る途中で人混みが激しくなり、人をかき分けて進むのも難しいため諦めていたのだが、騎士の声が聞こえたことによりその場で待っていたのだが、進行ルートだったのだろう。ドラゴンが運ばれてきた。


 まるで戦争に勝利して帰ってきた王の凱旋のよう。


 人が多く見えないと思いきや、俺の無駄にでかい高身長。俺以外にそうそう背の高い者はいないのでよくドラゴンや騎士の様子が見えた。


 しかしエンリはそうではない。元の姿どころか、妹の姿に化けているため人混みに埋もれてしまう。なので今は俺が肩車をしてやっている状態だ。


 何だか親や、従兄弟の小さな子と遊んであげてる叔父さんのような気分である。悪くない。

 (エンリ)は小さな手を俺の頭に乗せ、細か柔らかな太腿できゅっと俺の首を締めて落ちないようにしている。いい匂いもする。悪くない。

 俺も両手で足を掴んではあげているのでバランスはばっちりである。


 と、ドラゴンを眺めていると、そのドラゴンが乗せられている台車の前に立ち、剣を天へと掲げる者がいた。


「家畜を食い荒らし、行商人を襲い、辺りを騒がせていたヴェルデドラゴンは、このフィルティナ・バルビタートが討伐した! もう安心しても良い! そしてこれからも怯えることはない! 我が剣がある限り、この地の平穏が乱されることはないのだからな!」


 うぉおおおおおおおおお!!!!!!!


 地響きの如く、地面が揺れる程の大きな歓声。

 力強く言い切ったのは、美しい銀髪をなびかせた、白銀の鎧に身を包んだ女騎士。

 フィルティナというようだ。


 頭は完全に晒し、腰まで伸びる銀髪で、身長は遠目で見ても高く、170cm程だろうか。瞳の色までは見えないが目は鋭く、凛とした表情。

 体は脇を露出させた腰まで覆う白銀の鎧。腋だけは動きを妨げない為だろうか白い肌を晒しており、腕には篭手が装備されている。


 そして下半身は何と白を基調とし、黒のラインが入ったひらひらとしたミニスカである。訳が分からない。むちっとした太腿が少し顔を出し、直ぐに脚の鎧に隠されている。


 式典用の鎧か何かだろうか? いや、でも門から来たし討伐してきた帰りだよな? よく目を凝らせば鎧にも傷がついている。


 以上が、前世よりも良くなった視力で観察したフィルティナの姿である。

 まあ眼福であるし、この世界には魔法がある。魔力で守られている魔防具かもしれない。


 それに、そんな事を気にする余裕もないくらい、俺も周りの熱に呑まれていた。

 一際大きな、獣のような声を民衆と一緒にあげてしまったくらいだ。


 かっこいい。

 相手は女性だが、一目見ただけで素直にそう思ってしまうほどのカリスマ性を彼女は持っていた。


 何となく、俺の目指すべきものが見えた気がした。

 ドラゴン退治か。

 いつか、成し遂げてみたいものだ。


 俺は、ドラゴンがこの街にある領主の館の広場へと運ばれていき、その場から見えなくなるまで興奮して人々と一緒に声を上げていた。

4月24日


所持貨幣

大金貨15枚

金貨5枚

大銀貨2枚

銀貨7枚

大銅貨1枚

銅貨1枚


所持G

817700G

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