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18-ギルド

 隣を歩く(エンリ)

 先程まで馬鹿げたことを考えていたが、エンリは誰にでも変身できるのである。

 店の看板娘、冒険者のエリート少女、気高い女騎士、この国の王女……姿だけならば触れずにでも化けられる。

 その気になれば、毎日別の女を連れて歩くことだってできてしまうのだ。

 街に女を取っかえ引っ変えするイケメンとして俺が認識されるかもしれない。


 ……まあ、化けた人間に鉢合わせても困るし、それ以外でエンリがイメージして化けた姿でも、脅して歩かせてるくらいにしか見えないだろう。その点この妹の姿は本当に便利である。


 だが、先程の様な例もある。何かしら他の姿についても考えておこうか。それに、この妹の姿で、依頼に連れ回すのも違和感があるからね。




 さて、本当に馬鹿な事を考えながらもギルドの前に到着した。

 向かいの店の騒動には気付かない振りをしよう。俺は関係ありませんからね……。


「えへへ、いよいよだね!」


 エンリが笑顔で俺を見上げながら言う。

 そう、いよいよだ。

 冒険者ギルドについては色々と下調べをしてある。主にエンリが。

 何か間違いを起こして問題になることも少ないだろう。


 だが、それでも対人だ。想定外の事は起きるし、何分冒険者には俺みたいなやつでもなれるんだ。荒くれ者もそれなりにいるので、トラブルになることもあるかもしれない。


 それでも、そんな事さえも楽しんでいってやろう。これが俺の人生だ。ネガティブなことは考えず、ポジティブにいこうじゃないか。


 俺はエンリに頷いてみせる。


「うし……じゃあいくぞ」


 ギルドの扉を開き、いざ中へ……!





 ギルドは二階建てである。

 しかし、二階は職員専用で、俺たちや冒険者が利用するのは一階のみ。二階では職員が書類仕事などしてるらしい。

 依頼をする、受ける、その他色々な手続きができるカウンターが入口を入って正面に。その右手には広い酒場のエリア。左手には大きな掲示板がどかんと構える、依頼が貼られたエリア。


 前の服屋よりも断然広い、この街でも有数のでかい建物である。


 外からでも聞こえていた賑わいは、俺がギルドへ入り数秒して静まり返った。

 皆が皆、俺の姿を見ると面白いように固まる。


 入口付近で会話をしていた男女の冒険者。料理を運んでいた可愛いウェイトレスの少女。酒場の席で朝から酒を煽ってるがたいのいい兄ちゃん。装備も良い、顔に傷が無数にあるいかにもなおっさんも、油断をしないためか、こちらを観察するようにして目を離さない。


 若干……いや、とてつもない居心地の悪さを感じながらも、入ってきた扉を閉めてカウンターへと歩いていく。


 目立つのは好きである。いい意味でなら。しかしこれは理由がわからん。俺はギルドでは何もしていない……せいぜいアーラが言っていた、力持ちさんの噂が街の奥さん方の間で少し出回った程度であろう。


 冒険者たちが犯罪奴隷に詳しいとも思えない。


 手を繋いで歩くエンリはとてもとてもご機嫌だ。鼻歌も混じる。エンリよ、流石ドッペルゲンガーだ、何を考えているのかさっぱりわからんぞ。だけどもその心の強さは僕も見習いたいですね。


 ギルドへ入ってまずやるべきは登録だ。幸いカウンターに並んでいる人も居なかったので、俺はずかずかとブーツで足音を鳴らしながらカウンターの前に立つ。


 受付対応のギルド職員は、見目麗しい美少女だった。肩口で切りそろえられた、右側の髪が少し長めなのが特徴の水色のショートへア。瞳も同じく水色で、俺を目の前にしてもびくともしないジト目に、メイド服の様な制服に包まれた小柄な体。


 冒険者を相手するギルドと言えど、受付対応のお約束からは外れていないらしい。

 冒険者も七対三くらいの男女比なので、喜ぶ冒険者も多いことだろう。俺にはエンリがいるので、デレデレなんてしてはいられない。

 女性としても、多分受付が同性の方が安心できると思う。


 これはネロットさんと同じく、慣れているのだろう。冒険者ギルドの受付なんてやってるんだ、俺みたいなのも見慣れているはずだ。


「すみません、冒険者ギルドへ来るのは初めてなのですが……取り敢えず冒険者登録をお願いしたいんですけど」


 ざわ。


 俺がなるべく丁寧な言葉遣いで言うと、周りがざわついた。


「すみませんが、来る者拒まずのギルドといえど、人攫いの方を登録することはできません」


「ちげぇよ!」


 早くもトラブル発生である。







「では、この用紙に必要事項の記入をお願いします」


 なんやかんやあり、隣の(エンリ)が体を張ってくれたため、誤解も解けた俺はカウンターでギルドの登録書を書いている。


 ざわついた、静まり返った理由だが、これはもちろん俺の容姿がまずひとつ。

 そして更に、装備していた防具が問題であった。


 エンリの言っていたように、ギルドの人間は大体が位一〜三である。そして俺の装備している防具はヴォルガルフ、位四の魔物のものだ。


 金さえ積めば身の丈以上の防具が買えるだろうが、その可能性を俺の強面と傷のついた中古という要素が吹き飛ばす。


 皆、どこかの傭兵の慣れ果てか、別の国の猛者でもやってきたのか、と俺を観察していたらしい。


 加えて初めてと俺は言った。

 この強面巨漢歴戦の傷跡付き防具装備が、だ。

 当然ずっこける。ゲームで凄みを持ったダンディで大剣を持ったおっさんがレベル一の初心者だったら俺だってずっこけるわ。


 とまあ誤解も解けたので、ギルドの雰囲気は元通り。皆日常へと戻り、活気が溢れる。


 エンリが、絶対ないと思うけどと前置きし、気を付けるように言っていた、初心者に絡む冒険者もいなかった。俺が初めてと言った時に何人かが吹き出していたが、これは仕方ない。


 紙には、登録日や住所、性別に年齢、使う武器や自分の特技、自己PRの欄などがある。


 まるで就活のようだが、適当に書いても冒険者にはなれる。だが、パーティを組む時や、指名の依頼をして欲しい時等は、自分を売り込むことが大切だ。


 なので書く項目は色々とある。性別や年齢も、同年代や同性で組みたい冒険者に必要だろう。


 因みに俺は普通に文字も書けるし、識字率だってそこそこに高い。これから外に出て生活する時のためと、母さんに教えて貰っていたのだ。


 紙もどうやら魔法で作られているらしく、この世界の生活水準がよく分からなくなるが、便利なのでこの際気にしないでおこう。


 年齢とかは正直に……使う武器は斧、特技は力持ち……自己PR……なんだろう。俺が売り出せるところってなんだ。


 ふと、カウンターから視線を落とし、隣でずっとくっついて静かに待っていたエンリへ話しかける。


「なぁ、俺が冒険者として売り出せる、力持ち以外のことってなにかあるか?」


「かっこいいとこ!」


 満面の笑みを浮かべて即答する(エンリ)

 ははは、こやつめ嬉しいことを言ってくれおる。

 取り敢えずよしよしと頭を撫でておきながら、こいつの意見は参考に全くならないと諦め用紙へ視線を戻す。


 まあ……あれだ。責任感が強いとか、礼儀正しい紳士ですよ、とか書いておこうかな。冒険者としては多分珍しいタイプだと思うし。


 エンリのことをバカ正直に書ければ、これ以上ない程の売り出し文句となるのだが、ドッペルゲンガーは絶滅しているし、精霊使いだってほとんどいない。

 面倒になること間違いなしなので、エンリのことは引き続き隠しておくつもりだ。


「書き終えました」


 書き書き……筆を進め、書き終えると受付の少女、ミィルへと渡す。

 彼女の名前は、手持ち無沙汰だったエンリが、会話の途中で聞いていた。


 何となく冷たい印象を受ける、ダウナーそうなミィルであったが、幼い少女と話すのが新鮮な為か、よくエンリに話し掛けてくれていた。


 ギルドへの登録制限は年齢も十歳からとないようなものだが、やはり幼い少年少女は来ないよな。


 用紙を受け取ったミィルは、視線を上から下へ滑らせ、確認し終わると背後の棚へとしまい、代わりに一枚のカードを持ってカウンターの上に置いた。


「はい、問題ありませんでした。最後にこちらのギルドカードへ名前をお願いします。それと登録料、10000Gになります」


 俺は頷き、健康保険証程度の大きさのカードへ名前を書く。同時に大金貨をポケットから取り出して置いた。


「では、金貨四枚のお返しになりますね。そちら、依頼を受ける際に必要になるほか、身分証代わりにもなりますので、どうか無くさぬよう」


 ミィルの言う通り、ギルドカードは簡単な身分証にもなる。現住所も書かれているし、もしも死んでしまった時などにも対応ができる。


 一万円と高い気もするが、それ以上に価値があるのだ。


「さて、ライクさん……でしたか。初めてという事で、ギルドの簡単な説明をさせていただきます」


 淡々と続けるミィル。エンリと話していた時はもう少し温かみを感じたのだが、俺に対しては完全に事務対応である。


 ちょっと寂しいが、気にすることじゃない。ギルドの説明については、エンリからある程度聞いて予習していたが、復習として聞いておこう。


所持貨幣

大金貨15枚

金貨5枚

大銀貨2枚

銀貨4枚

大銅貨1枚


所持G

814500G


ギルド登録料10000G

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