17-再開
日が差し込んでだいぶ経つ。
エンリと二人で朝食を食べ終えた俺は、部屋に戻ると支度を始めた。
革鎧を装備し、マントを結ぶ。
ギルド登録料やもしもの時を考え、大金貨一枚をポケットへ突っ込む。
エンリの方もボロマントを胸の前に結んで、妹の姿に化け準備完了。
「さて……それじゃあいくか!」
「おー!」
二人して片腕を上げて気合いを入れるも、なんてことはない。
今日はついにギルドへと登録する日。
俺が無職から職持ちに変わる大切な記念日である。
未だぎこちない笑みを浮かべて見送るニーナに、笑顔で返して外に出れば、今日は余計な寄り道もせずにギルドへ向かった。
時間は午前の九時。ギルドに開いてる時間は長いらしいが、確実に受付もやっているであろう時間に合わせて出てきた。
手を繋ぎ、横を歩くエンリも、俺の表情も明るい。スキップまでしてしまいそうだ。
どんな依頼があるのかは分からない。
中には魔物討伐や賊の討伐等、命の危険に関わるものも少なくないだろう。
しかし、兼ねてからの目標、誰かの役に立つ、名を残すという目標を達成するには必要なことなのだ。
死ぬことは恐ろしい。だが、死んだように何もせぬまま生きるのも恐ろしい。
そんな覚悟はとうの昔に終えている。エンリも俺を心配するどころか、応援してくれた。
ならば華のある人生を。
母に恥じぬ、エンリの主に恥じぬ生き様を見せつけようじゃないか。
と、一人決意を新たに歩いていると、急にエンリが立ち止まった。
「ん? どうした、エンリ?」
声を掛けると、そそくさと俺の背に隠れる。
はて。エンリが隠れるなど、元の姿でない限り有り得ない。隠れる事のないようにと姿を変えているのだから。
ただ、親父……山賊に関係あるとしても、俺の手も引っ張り隠れることだろう。
何事かと、警戒しながら辺りを見渡せば……こちらに気付いた人物が、手を振りながら走ってきた。
「ライク! おーい、ライクじゃないか!」
金の短髪に相も変わらず人懐っこそうな顔。
数年会っていないせいか、少し大人に成長しているが……間違いない、数年前に俺より早めに出所した牢獄の先輩、リベルである。
俺も警戒をとき、手を振り返し応えるが、エンリが隠れる理由が分からない。
別にこの妹の姿でなにかした訳でもあるまいし、だいたい街壁修復作業の時にカランの姿でエンリもリベルとは関わっている。
頭に?を浮かべていると、エンリがぼそりと答えてくれた。
「あいつ……アタシが店で働いてる時、しつこく告白してきたヤツ……」
「あ〜〜〜!」
納得。そう言えばエンリが、仕事から帰ってきて牢屋の中で話してくれていた時にそんな話が出てきた。店で働いてたら告白されたっていう。
何度も断ったらしいがめげずに告白し続けてきたらしい。流石のエンリも面倒になったらしく、あまり関わりたくないようだ。
「それに、アタシは今主の妹だし。言い訳とか、考えるの面倒でしょ?」
エンリに言われて気付く。
そうだ、遠くから物珍しげに俺たちを眺めている奴はいい。
しかし、俺と親しい者……リベルくらいだが、には妹の姿のエンリの事について聞かれてしまう。
その際、親や家、牢獄に捕まっていた時には妹はどうしていたかなどを聞かれれば、咄嗟には理由など思いつかないだろう。
エンリのファインプレーに、頭を撫でる。
えへへ……とふにゃりと笑顔を見せた。
隠れていてくれれば人見知りと察してくれ、深くは聞かれないだろう。もし聞かれたとしても、話題を逸らしやすくなる。
そして我が相棒エンリは口が恐ろしい程に回る。俺がボロを出さなければいい話なだけてある。
まあ、完全に逃げるわけでもなく、背中にきゅっと体を寄せてくれている。さすが我が妹、可愛い。守ってやらねば……。
そういやリベルも街壁修復の休み時間に言ってたな。カランちゃんに告白しよっかな……と。
「よう、リベル。久しぶりだな」
「おうよ! 出所おめでとさん! にしてもライクは本当に分かりやすいな! デカいし強面、またでっかくなったが一瞬でわかったぞ!」
久しぶりに会ったが、リベルとの仲だ。妙な遠慮もいらないし、昨日まで会っていたかのような気軽な会話。
こういう仲は俺は大切だと思っているし、大切にしたいと思っている。リベルは間違いなくいい人だしな。
「ありがとうな。イケメンに磨きがかかっただろ? リベルは出所した後、何してたんだ?」
「……。あ、あぁ、オレは下着泥棒から足を洗ったよ。これからは干してある、風に揺れる下着を眺める事にした! これなら捕まらないしな!」
いい人だったかなぁ。
下着の件は流すが、俺のイケメン発言をスルーするのは多分悪い人だと思う。
などと、二人して白い目で眺め合っていると、ばつが悪そうにリベルが先に口を開いた。
「冗談だよ……今はギルドで冒険者やってる。雑用の依頼ばかりだけどさ」
ほう、と俺は声を漏らす。
リベルは牢獄だけでなくギルドでの先輩にもなっていてくれたのか。
これはいい、何か困ったことがあればリベルに聞ける。俺という人間は交友関係が全くと言っていいほどないのでこれはとても運がいい。
それに信頼できる奴から情報を得られるのは重要だ。先輩の冒険者でも、嘘の情報を流したり、金を取られたりすることなんてざらだろうしな。この世界はそんなに甘くないことは知っている。
「で、ライクはどこに行くつもりなんだ?」
「これからギルドに行くところだ。俺も冒険者志望だよ」
「そうか、ならまたオレが先輩だなぁ。何か困ったことがあったら聞いてくれよ? 討伐依頼以外のことならだいたい教えられるからな!」
「元よりそのつもりだよ。頼りにしてるぜ、先輩」
互いに握手を交わす。
本当に頼りになる先輩だよ、リベルは。
「リベルの方はどうしたんだ、こんなところで」
背に隠れているエンリが、はやく、はやくと革鎧を叩いてくるが、久しぶりの再開なんだ。もう少し我慢してくれ。
ちなみにリベルは全くエンリに気付いているが、それについて聞いてこない。
背に隠れていることから、人見知りの子だと察してくれたのか。
相変わらず気の利く奴である。
妹について心配がいらないとなれば気にする事はない。
と、俺が聞くと、リベルは「聞いてくれよ!」と話し始めた。
「オレさ、カランちゃんに告白するって言ってただろ? あれからめっちゃカランちゃんの店に通って、何回もアプローチかけたんだけど全部躱されちゃってさ! でもオレも諦めるつもりはないから、通い続けてたんだけど……なんとカランちゃんが急に店を辞めちゃったんだ! で、さっきも店の店長に抗議を入れてたんだが何も変わらなくてさ……」
…………。
一人冷や汗を浮かべる。
よーし、時間もないしそろそろ切り上げてギルドへ向かうか。
「それは災難だったな。まあそのなんだ。頑張れ……と、俺も急いでたんだ。これからはまた会えるだろうし、またな」
俺はかなり適当な言葉を掛けて、止めていた足を進める。もうカランはいないんだ、はやく風化していってほしい。
背に張り付いていたエンリもそのまま歩き始める。
「あぁ、ライクも頑張れよ! ……あと、その嬢ちゃん、はやく解放してやれよ? もう捕まったりしてもイヤだろう?」
やはりリベルは悪いやつかもしれない。
察してくれてはいたが別で察していやがった。
俺はエンリの手を引き、仲良く手を繋いで横に並ばせて歩かせる。
エンリも、もういいの? と、きょとんと首を傾げる(可愛い)も、えへへと笑って横を歩いてくれた。
これで誤解も解けただろうか。
とけてなかったらそうだな、今度はお前の愛しのカランちゃんに腕にでも抱きついてもらいながら横を歩いてもらおうかね。
ふふふ、と最低な事を考えながら、再び俺たち二人は歩き始めるのであった……。




