16-二人の食事
心に決めた通り、食堂が閉まる15分前に来たのだが、まばらに人が残っていた。やはり食事というのは口が動くことで会話にも精が出る、食事が終わったとしてもそのまま残り話に花を咲かせていたのだろう。
そう思ったのは、まばらに残ってる人に一人きりで食べている者の姿が見えなかったからだ。
じゃあ俺が来たから一人きりの奴が一人増えたって?
ははは、馬鹿言うんじゃない。
「お兄ちゃん、今日のご飯はなんだろーね!」
食堂の部屋への入り口に立っている俺の脇から、ひょっこりと顔を出す可愛らしい妹。
俺の姿が目に見えた途端会話が枯れて静寂が支配していた空間に、また華が添えられたような空気が流れる。
視線はもちろん、俺から妹へとうつった。
視線の中には、「マジか……」「えっ、お兄ちゃんって、妹なの……?」やらの困惑が含まれているような気がするが、俺を恐れることを大きく上回っている。
恐れの視線を向けられるより、奇妙なものを見る視線の方が俺はまだマシだ。そしてエンリも視線自体全く気にしていない。
俺たちは二人並んでカウンターへといくと、立っていた金髪少女に食券代わりの鍵を見せる。
少女はぽかーんと一瞬俺と妹を眺めていたが、すぐに気を取り戻して今日の献立が乗ったおぼんを持ってきた。
受け取って、誰も座っていない席へと足を運ぶが、背中には少女の視線が未だ付きまとっていた。
木の椅子を引いて座ると、対面の席へと妹はちょこんと座った。座って向かい合うと、背の低さが改めて伺える。
「いただきます」
「いただきまーす!」
俺は目を瞑り頭を軽く下げ、手を合わし。
妹は笑顔でパンっと手を合わせて元気よく。
挨拶を終えてフォークに似た飲食用の食器を手に取り俺は食べ始める。美味い。今日も米のようなものがあるが、これは固定メニューなのだろうか。だとしたら嬉しい。
咀嚼し、深く味わっていると、視線が集中しているのがわかる。今度は非難も混じっている。
それは俺だけが食べ、対面に座っている妹は両手で頬杖をつきながら俺をニコニコと眺めているだけなのが原因だろう。
ふっ……。
しかし対策はバッチリとできている。
俺は一旦食べるのを止め、フォークからスプーンへと持ち替え白米をすくうと、妹へと手を伸ばす。
「ほら、エンリ。あーんだ」
「ん……あ、あーん……」
口元へと差し出されたスプーンに、頬を赤く染め少し恥じらいながらも、髪を抑えて小さな口を開きパクリ。
もきゅもきゅと可愛らしい効果音が聞こえてきそうなほど、頬を動かし笑顔で食べている妹を見て心が和むが、続けておかずをすくい再び口元へと運ぶ。
慌てて口を開けてパクリと口に含む妹。白米だけの旨味、からのおかずを合わせて食べた時の美味しさ。
やはり人と食事をするのは、一段と美味しくなるなぁ。
俺は自分の食事へと戻りながら、辺りを気づかれないように見渡す。すると、非難の目はすっかりとなくなっており、代わりに微笑ましい者を見る目が向けられていた。
この世界でも、小さな子に対しての思いは同じなのだろう。これならば、妹がいれば俺へ対しての恐れやクレームなどがなくて済む……。
俺はほっと一安心して息を吐くと、妹が机に乗り上げる勢いで身体と腕を伸ばし、俺の持っていたスプーンを奪った。そのまま流れるように白米のよそわれていた食器から白米をすくい、俺の口元へと運ぶ。
「はい、今度はお兄ちゃんの番だよ! あーんしてっ」
「あっ、いや俺は……」
さすがに恥ずかしい、という気持ちは俺も持ち合わせている。すっかり食べ終わり、会話もせずにただ俺たち二人を眺め続けている他の客たちの視線は、未だに離れない。そんな中、こんな小さな妹にあーんをされる見た目強面の男というのは……。
色んな意味を込めて、遠慮をしたのだが、我が妹は全く気にしていない様子の笑顔のままスプーンをさらに近づける。
「あーん」
「いや、食堂もそろそろ閉まるし、そういうのはいいから……」
「あーん」
「あの、お兄ちゃんの威厳とかそういうのがですね……」
「あーん」
「…………あーん」
有無を言わさない妹のよく分からない迫力に観念して、口を開ける俺。あーん、なんてされたのは牢屋以来のことだが、やっぱり恥ずかしいものだ。
俺がスプーンに食い付き白米を口の中へと受け取ると、妹はスプーンを離して笑顔で俺を眺める。
その後は調子に乗ったエンリが、殆どの料理をあーんで俺に食べさせるという食事を終えた。
時間ぎりぎりであったが、何とか全て食べきることができ、何とも言えぬ気持ちのまま部屋に戻り、この日は眠りにつくのであった。
他の客の俺を見る視線が、気持ち柔らかくなった気がするのは、気のせいではないだろう……。




