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15-位

 結局、宿屋へと戻ったのは、日も落ち暗くなった後であった。

 俺たち二人が宿屋へ入ると、カウンターで何やら作業をしていたニーナが一度こちらを見てビクリとした後、慌てて営業スマイルを浮かべて「おかえりなさいませー」と挨拶をしてくれた。


 一応顔は覚えてもらえているらしい。絶対に悪い意味でだろうが、挨拶をもらうのは嬉しいものだ。


「ただいま」


「ただいま、お姉ちゃん!」


 俺は一言だけかけて、(エンリ)も続いて元気よく挨拶を返して、階段を登る。

 相変わらずぽかーんとしていたが、やはり本物のニーナはこうだよな。


 変な安心感を覚えつつ、扉の前までくると、部屋の鍵を革鎧の下に着ている麻服のポケットから何とか取り出し、鍵を開けて部屋の中へと入る。


 続いてエンリも入り、部屋の鍵をしめたところで、大きく息を吐いた。

 いやぁ、買い物といっても今日は疲れた。

 体力面のことではなく、精神面の方で。


 でも、エンリと食べ歩きをしたり、露店を見て回ったりと、良い気分転換もできた。何よりも、今気分良さそうにスキップしながらベッドへと飛び込んだエンリを見て、良かったと思える。


 時計に目を向ければ、七時半過ぎであった。

 夕食の時間は始まってはいるが、俺が行くと皆さんが安心して食事もできないと知っているので、人が少ないと思う終わり15分前くらいに行こうと思っている。


 とりあえず鎧やマント、グローブを全て外し、部屋の隅に並べ置く。うむ、さすがは60万Gもしたもの、見ているだけでも満足できそうな一品だ。


 眺めていると、ふと防具屋でエンリが口にした言葉を思い出す。


 位四のヴォルガルフ、という言葉だ。

 ヴォルガルフとは魔物のことを指しているのはエンリ、防具屋のおっさんから聞いている。

 残るのは、前につけられている位という単位か何かのものだ。


 俺は(エンリ)が枕をうつ伏せに抱きしめ、パタパタと足を振るというあざとい仕草をしている方ではないベッドに向かい、腰掛ける。


 正面にはチラチラとこちらの反応を伺いながら、あざとい行動を続けるエンリが映るが、俺は浮かんだ疑問をかけた。


「なぁ、防具屋で言ってた、位、ってのはなんだ?」


 俺の言葉を聞くと、ピタリと動きが止まり、バッと姿勢を正して向かい合うようにベッドへと座った。


「位っていうのは、ギルドが定めた魔物の危険度みたいなもの。同時に、ギルドに所属している冒険者の力を表すものにもなってるよ」


 あぁ、なるほど。つまりあれか、前世のゲームやらに出てくるランク付けやレベルみたいなものか。

 ゲームは子どもの頃にはよくやっていたので、すっと頭に入ってきた。


 しかし、位か。こう、評価が目に見える形でつけられているのは、俺にとっては好都合だ。やる気に繋がる。


 俺は興味の赴くままに質問を続ける。

 時間もまだある、問題はないだろう。


「位っていうのは、いくつあるんだ?」


「一から十だね、確か。人間も魔物も同じ」


「はー……それって、どんぐらいの強さで分けられてるんだ?」


「一が主があの村で狩ってた魔物とかで、アタシを襲ってた大猪が二くらいかな?」


「……マジか」


 前世の中途半端な知識と先入観がまた邪魔をした。

 一やら二やらは、雑魚のような魔物ばかりなのだと。

 俺が気を失うまで戦い続けた魔物の群れが位一で、子どもの頃に逃げることしかできない、今でも勝てるかわからないあの大猪が位二だと?


 俺が驚きを隠せずに、言葉を失っている中、エンリは話を続ける。


「人間の位も殆どが一から三で、今ある人間たちの知識から言っても、ギルドでは最高で位六の人間しか今はいないらしいよ。ま、魔物の方もそんぐらいだと思うけど」


 な、なるほど……位とは、一違うだけで大きな力の差があるのだな……。目に見える評価とは言ったが、これでは一から上がるのに結構な時間もかかりそうである。

 何を基準に、人間の位が上がるのかは知らないが……それは、明日ギルドに行く時に聞こう。


 今日で殆どの支度を済ませているので、明日はギルドで登録をして、仕事をしていくつもりだ。まだ大金があるといっても、何もしなければ減る一方。


 それに今日でその半分ほどを使ってしまったのだ、さっさと稼ぎを見つけるに越したことはない。


 俺が一人で考えていると、(エンリ)はすくっと立ち上がり、こちらへと歩いてくる。

 意識をそちらへ向けると、目の前には妹の顔があり、何やらニヤケを隠そうとしているような、そんな表情をしていた。


「どうした、エンリ?」


 こういったエンリの行動にも一応は慣れたつもりでいる。今回も声が上ずったりすることはなく聞けた。

 するとエンリは、その小さな口をゆっくりと開く。


「そ、れ、で。ふふん……アタシの位は、七なんだ!」


 言い終わると同時に、離れて両手を腰に当て、元の姿へと戻ってない胸を張るエンリ。

 そして俺は……思わず笑ってしまった。


「エンリ、面白い冗談だな! そういう普通の冗談は俺も好きだぞ!」


 いつもは化けられからかわれ、俺の反応を楽しむような冗談しかしてこなかったが、これはいい。

 疲れていた俺に笑いを提供してくれたのだろう、エンリも優しい奴だ。


 しかしエンリは俺の反応に不満のようで、「違う、本当なの!」と俺に詰め寄って言う。

 エンリにしてはバレバレな嘘だとは思うが、何せあの大猪の三倍以上の強さをエンリが持っているとは到底思えなかった。


 俺は立ち上がり、「はいはい」と受け流しながら立ち上がり、エンリを見下ろす。

 確かにドッペルゲンガーは強力な強さを誇っていたとも聞いているし、エンリ自身が昔は凄かったとも聞いてはいるが、見たこともないので想像がつかないのだ。


 こうして、頭を撫でると、「本当だもん……」としょんぼりしているエンリの姿を見ていると。

 するとエンリはキッと目を細め、俺を見上げる。


「いつか、主にアタシの本当の力を見せてあげるから! その時は盛大に驚いてくれてよね!」


 むぅ。エンリにも曲げられない何かがあるのだろう。その表情も真剣そのものだったので、俺は背伸びをしている我が子に向ける眼差しから、同じく真剣に変え、返事をする。


「あぁ、わかった」


 エンリは返事を聞くと、安心したようにほっと息を吐く仕草をする。


「そういえば、その下着、やっぱり似合ってるぞ」


「へ……? あ、あ、うん! ありが……と……」


 宿屋、部屋に戻ったら見せてくれると言っていたので、感想は言った方がいいだろうと。見せるといって元の姿へ戻ったわけではないが、その姿は見たので、率直な感想を何気なく述べてみたのだが、エンリはバッと距離をとって、ボロマントに包まる。


 その頬は照れからか、紅く染まっていた。


 ……うん、やっぱりこの可愛いエンリが、大猪よりも三倍も強いなんて信じられないよなぁ。



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