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14-交渉

 扉を閉め、ズカズカと歩いて近寄ってくる一人の少女、ニーナ。宿屋の受付をしている彼女が何故ここへ?

 考えればすぐに分かる疑問も、今の混乱している俺にとっては分からず固まったまま見ていることしかできない。


 しかし店主は違う。

 俺の横へとたち、キッと睨みつけるニーナに対抗するよう席から立ち上がり、カウンター越しで睨み合う。


「いきなりなんだ、嬢ちゃんは。今は商談中でね、邪魔しないでくれねぇか?」


 角刈りの、俺には遠く及ばないが、漢の凄みで威圧する店主。だが、俺へ恐れていた時とは違い、どこ吹く風とも言わんばかりに受け流し、ニーナは口を開く。


「貴方、このお客さんに詐欺、しようとしてましたよね?」


 聞いた瞬間、ウッと反射的に声を漏らす店主。

 さ、詐欺?

 やっぱりこれ、詐欺られてたのか!

 俺も店主を睨みつけるが、どこからが詐欺なのかもわからないので、何も言葉を挟むことはできない。更に店主の視線はニーナに集中したままである。


「な、何を証拠に……」


「偶然この辺りに買い出しに来てたら、この店の中から聞き覚えのある、驚くような声が聞こえたんですよ。で、外から聞き耳立ててたんです。最初から最後まで知っていますよ」


「聞き耳って、たちが悪いな……それに、嬢ちゃんには関係ないだろ? 俺はこの男と話してんだ」


「私、この人が泊まっている宿で働いてるんで、お金を騙し取られちゃうと困るんですよ。関係大ありです!」


 おぉ……あんなに俺のことを恐れていたニーナが、こうして助けに来てくれるとは。聞き覚えてくれるような声をしていて助かった……本当に運が良かった。


 そして、ペースは完全にニーナが奪っている。

 店主は歯を食いばしり、ぐぅの音も出ない状態だ。


 そこへニーナが、最後のとどめと言わんばかりに、指をさして高らかに声を上げて言った。


「さあ! 分かったならちゃんとした金額を提示して、キチンとした商売をしてください! 終わるまで私はここにいますからね、もしまた詐欺みたいなことをしたら、街中に言いふらしますから!」


 言い終わると、ふぅと息を吐き、俺の方へと顔を向けるニーナ。俺が気が付き視線を向けると、ニッと笑った。


「あ……すまん、助かった」


 ここでようやく俺は、ニーナがボロマントを羽織っていたことに気が付く。まずニーナがここにまで助けに来てくれるわけもないし、声が聞こえたなんて都合の良いことなんてない。


 胸が冷えるような感覚がしたのは、模倣により魔力が抜けたからだろう。ニーナとの身長差も少しある。


 助けられてばっかりだな。


 俺は助け舟を出され、相棒にいてくれることによって落ち着きを取り戻した。深呼吸をすると、表情を引き締めて店主へと向き合う。


「それで、本当はいくらなんだ?」


 敬語なんてものは使わない。詐欺をされたのだ、俺も騎士に突き出しても良いと思ったが、ちゃんと店を構えた奴がこんなことをするには理由があると思い踏み止まった。それに、この革鎧もバッチリ合っているし、まああの牢獄生活をさせるには心苦しい……というのもある。


 俺とニーナ(エンリ)が睨みつけるようにしていると、店主はようやく観念したように話し始めた。


「……80万Gだ。すまない、買い取ったはいいんだが、本当に買い手が見つからなくて困ってたんだ。兄ちゃんがいい反応するんで、金額も上げちまった。許してくれ」


 ふむ……。確かに素材は良さそうだし、店主もそれなりの値段でこれを買い取ったのだろう。傷が少しある程度で価値が大幅に下がり売り物にならないほどではない。


 だがそれでも80万Gか……うーむ、俺も二十歳となったし、これ以上身長が伸びることもそうないだろう。ならこれから長く使い続けていくとしたら、先行投資的な意味ではありなのではないだろうか。


 チラッとニーナの方を伺う。

 だがニーナはこちらを振り返ってはくれず、店主へと疑惑の目を向けていたままであった。


「もう少し値段、下げられますよね? 位四のヴォルガルフの素材を使ったものといっても傷がありますし、何より中古品ですし」


「ぐっ……な、なら70万Gでどうだろう?」


「この大きさの防具じゃ、買い手だってもう見つからないんじゃないですか? かといって素材としてバラして売っても大したGにはなりませんし」


「ぬぅ……なら、60万! 60万Gだ! これ以上は下げられない!」


 おぉ……凄い、凄い値下げだ。言葉巧みに、40万Gも下げてもらっている!

 これがニーナとしての知識等で可能にしているのか、それともエンリ自身で可能にしているのか。


 どちらにしてもエンリの成果であり、それは変わらない。それに、値下げをしてくれているということは、買っても問題ないとエンリが言ってくれていることにも繋がる。


 店主の必死な態度を見て、こちらを向くニーナ。

 その顔は笑顔で、「どうする、主?」と聞いているようであった。


 当然俺は――


「じゃあ、その値段で買わせてくれ」


 足元においていた紙袋を持ってから麻袋を取り出し、大金貨をカウンターへと並べていく。

 そうして十二枚の大金貨を並べ終わると、俺は店主の方へと顔を上げた。


「これで成立だ。俺は見逃してやるが、今後一切詐欺をするんじゃないぞ」


 俺は言い終わると、紙袋に麻袋を入れ、革鎧によって重みの増した足音を鳴らしながらマントを翻して立ち去る。


 その背後からは、「二度としねぇよ……」との、憔悴しきった声を聞き、俺は安心して店から出るのであった。後ろに、ニーナも続く。




 〜〜〜




「助かった、ありがとうな、エンリ」


「へへっ、さすがエンリちゃんってところでしょ? もっと褒めてくれていいよ〜」


 道を外れ、お馴染みともなった人気のない路地裏への移動後。ニーナへの変身もとき、妹の姿へと戻ったエンリに俺は改めて礼を言っていた。


「本当に助かった。それと、鎧のこともな」


「ん……」


 ぽんぽんと頭に手を置いてから、癖っ毛混じった頭を優しく撫でる。金のことについては自由にしてほしいともう言われているので、これ以上のことは何も言わない。


 しかし、あのままでは本当に百万Gを渡してしまっていたところだ。


「エンリには、助けられてばっかりだな」


 頭を撫で、それを目を細め、とても嬉しそうに受け入れる(エンリ)の姿を見ながら、自嘲気味に呟く。

 主とは一体、威厳とは一体と、助けられてばかりである。エンリが助けてくれることは嬉しく思うが、男としては少し情けない気持ちであった。


「そんなことない」


 すると、俺はまた顔に出てしまっていたのだろう。

 エンリは俺の撫でていた手を、その小さな両手で包んで胸の前にやる。


「主が知らないだけで、アタシは主に何倍も多く助けられてる。だから気にしないで、主らしく堂々としててよ!」


 ニコッと笑顔を見せるエンリ。その言葉に、嘘の色は見られない。

 そうだ、情けないなんて思うよりも、相棒のしてくれたことに感謝だけすればいい。足りない所は補い合えばいい。エンリを助けた……という自覚はないが、エンリ自身がそういってくれているのだ、もううじうじしている場合じゃない。


 右手を掴まれているため、紙袋を持ったままの左手でエンリを優しく抱き寄せる。

 何だか、そうしたい気分だったのだ。


「あぁ……なら、これからも俺の力になってくれ、エンリ」


「……当然! むしろ、ドンドン主はアタシを頼ってよね!」


 革鎧で阻まれてはいるが、温かさは伝わる。

 俺たちは数分抱き合った後、今日の目的は完全に済み、街の探索でもしながら、宿へと帰るのであった。




「それにしても、何で店を構えてるような奴が、詐欺なんてしたんだろうな……俺じゃなくても、言いふらされたら信用もガタ落ちだろうに」


「本当にそれが売れなくて困ってたってのもあるんだろうけど、やっぱりお兄ちゃんが素人丸出しで、しかも言いふらされても困らないような人間に見えたからじゃない?」


「……………………」


 道中、帰るまでに複雑な気分と反省が心をしめていた。




所持貨幣

大金貨16枚

金貨1枚

大銀貨2枚

銀貨4枚

大銅貨1枚


所持G

824500G


出費

600000G(ライクの革鎧、グローブ、ブーツ、一式)


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