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13-防具屋

 エンリによると防具屋の方は、一応一つ見つけてくれているらしいが、中に入ったこともなく、噂も聞いたことがない。


 この広い街の中で見つけてくれるだけでも有り難いので、俺は礼を言って、その防具屋へと足を運んでいた。


 他の建物と何ら変わりない木造の建物で、外観からしてもさほど広くはなさそうである。

 しかし防具を売っていると分かることが書いてある看板は立てかけてあるので、間違いはない。


「よし、入るぞ」


「はーい!」


 早速俺たちは扉を開け、中へ入っていく。

 まず、入った時に感じたのは臭いだ。鉄臭いやら獣臭いやらで、臭いが充満している。

 俺はひどい臭いには慣れているし、エンリも嗅覚をなくすこともできるので問題はなかったが、店内に客のいる気配はなかった。


 壁にはところ狭しと鎧やらが掛けられて並べられ、男としては少しわくわくとしてくる。

 だがこれで儲かっているのだろうか……と、俺たちが入店してすぐ、正面にあるカウンターで頬杖をついて視線を向けていた、体格の良い角刈りのおっさんへとちらりと俺も視線を送る。


 だが来店の挨拶もなければ、態度を崩すわけでもない。

 まあ、前世の接客サービスが良すぎただけで、これが普通の姿なのだろう。宿は人が良かったのだ。


 俺は気にせずに店内を歩き、品定めをする。

 鉄の鎧でガチガチに固めるの安心できて良いが、やはり慣れ親しんだ革鎧で、ある程度柔軟性があり動きやすいものが良い。


 しかし、前は山賊の頭が用意してくれたが、防具に関しては俺はずぶの素人である。当然、エンリも防具に詳しい者に化けたことはない。


 二人、店の隅に固まって店主らしきおっさんに背を向け声を潜めて話し合う。


「やっぱり、こういうのは専門の人に聞いたほうがいいかな?」


「うん、私もよく分からないし、お兄ちゃんは体が大きいからねっ。それがいいと思うよ!」


「そうか……わかった、聞いてくる。……でも何だか怖いし、話しかけにくいなぁ……」


「…………主……」


 決めたはいいが、何だか凄くやる気のなさそうというか、ずっとこちらを睨んでいるような店主に、ちょっぴり話しかけずらく弱音を吐いてしまう俺。


 いや、俺は変わったのだ、ライクなのだ。いつも人を恐れさせている俺が縮こまってどうする!


 エンリの憐れむような声にも男の勇気が後押しされ、俺は振り返り店主の方へと向かっていく。


「どうした?」


 俺が木で出来たカウンターを挟んで、店主の元へ着くと先に声をかけられた。思わぬ先手を打たれたが、一応話は聞いてくれるようでひとまず安心した。


「実は、防具選びに困ってて……」


「……そうか。なら、ちょうどいいものがある」


 そう言うと、店主はカウンター裏、店の奥の部屋へと消えていった。

 サイズを測ったり、採寸したりなどはしなくてもいいのだろうか。俺の身体は大きいし、店にあるものもサイズが合わなく見えた。


 もしかしたら、合わせて作ってもらうか、サイズを合わせ直してもらう可能性も視野には入れていたが、いいものがあるとは。


 一応は見てみるが、俺の要望も何一つ言えていないので、多分いいものは、断ることになるだろう。


 どう波が立たず断れるかを考えていると、店主が奥から戻ってきた。その両手に、革鎧を抱えながら。


「よし、着てみろ」


 ドサリとカウンターにそれを置くと、店主は俺の目を見て自信ありげに言った。断ろうかと考えていたが、持ってこられたものが探していた革鎧だったので、俺はとりあえず手に持っていた紙袋を足元に置き、装備をしてみることにした。


 それは綺麗な漆黒をしており、俺としては好みの色である。革鎧なら装備もしたことはあるので、スムーズに着用していく。

 サイズはバッチリであり、違和感が全くない。多少大きめなことに驚いたが、紐でキツく縛ることで問題は全くない。動きも前の革鎧よりも断然柔軟性に富んでいて動きやすく、着心地も良い。耐久性はわからないが、同じ素材でできたブーツやグローブも一式揃っており、大変気に入っている。

 気になるところがあるとすれば、多少の傷が目立つところくらいか。


 俺が腕を回したり、屈伸したりしているのを店主は眺めていると、ニッと笑って口を開く。


「それはヴォルガルフっつー魔物の皮でできた装備でな。おめえみたいなでっけー奴が売っていった中古品だが、耐久性も動きやすさも兼ね備えた一品よ。だが、買い取ったはいいが、客のサイズも合わなきゃ作り直すにも金がかかる素材でな、どうするか困ってたんだ」


「は、はぁ……」


 ヴォルガルフ、なんて名前を言われても、俺は全く知らないので反応することができない。しかし店主の顔を見る限りは嘘は言っていないようだ。


 ふむ……防具屋の言葉だ、耐久面も問題はなさそうだし、着心地も良いし見た目も良い。

 それに俺に合う防具もそう見つからなそうだし、俺はこれでも良いと思う。

 問題は、値段だ。


 この世界では魔物と戦い、金を稼ぐことを生業としているものもいる。その者たちの身を守るための防具だ。決して安くはないだろう。


「それで、これは全て合わせて、おいくらくらいなのでしょうか……?」


 俺はある程度の覚悟を決めて、少し緊張しながら店主へと値段を聞く。

 すると店主は、先程よりも大きく口角をつり上げ、にやりと歪んだ笑みを見せた。


「そうだな……中古であることを入れても、そいつは相当な質のものだ。……ざっと、1000000Gといったところか?」


「百万!?」


 覚悟していた金額よりも大幅に上回った金額を提示され、思わず俺はカウンターへと手を叩きつけてしまった。同時に、胸をスッと冷えるような感覚が襲う。


 店主は全く動じず、腕を組んで椅子に腰掛けている。


 足りないことはないが、エンリが一生懸命に稼いでくれたお金だ。それを防具だけで三分の二以上も使うなんて、俺には考えられない。

 百万なんて大金の買い物、前世でもしたことがない。あって分割払いや、学費くらいである。


 ちょっと残念ではあるが、断ることにしよう。

 このお金は貴重な資金だ、もしもの時のためにもとっておいたほうがいい。


 考えをまとめ、「すみません」と断ると、返ってきたのはこれまた予想外の言葉であった。


「あ? そりゃないぜ兄ちゃん。防具を着たってこたぁ、買ったも同じってことだ。それくらい常識だぜ? 勘弁してくれねぇか」


 なんだと……? この世界では試着と言う概念がないのか? というか着てみろっていったのは店主のおっさんだし……もしかして俺、騙されてないか!?


 しかし、完全に動揺してしまった俺は、上手く言葉を返すことができない。こんな常識、母からも教えてもらったことなんて当然ない。

 ……そうだ、ここはエンリに聞こう!


「お、おいエンリ! ちょっと来てくれ!」


 俺は振り返り、店内へ響き渡るくらいの声量で呼ぶが、返事はかえってこなかった。そういえば、俺が店主の元へと聞きにいった時から見ていなかったな……。


「で、兄ちゃん。今金が足りねえってなら、契約書にでも名前を書いてもらってもいいぞ。それともなんだ? 買えねえっつって逃げる気か? その場合は騎士さんに面倒かけちまうことになるが……」


 ニヤニヤと俺を眺めながら笑う店主。

 クソっ……やられた。傭兵が、俺が人質を本気で殺すつもりではないと判断できた時のように、この店主も俺が完全にど素人だと気付けたのだ。


 入店してからずっと見ていたのは、俺の観察だったのだろう。


 どうする、どうする……!

 頭で何かいい策はないかと考え、逡巡していると、カウンターをドンと拳で叩いて店主が俺の意識を引く。


「で、どうすんだ兄ちゃん? 早く決めてくれねぇと、こっちも困んだよ!」


「ぐっ……」


 ダメだ……完全にペースをあっちにとられている。ここはもう、正直に百万Gを渡した後、エンリに謝るか……。

 もしくは、他の客が来てくれて助けてはくれないか……!


 そう、俺の心が折れかけている時であった。


「待ってください!」


 バンッ!


 勢いよく音を立てて扉が開き……店の中へと、ガンドの宿屋の受付、ニーナが入ってきたのは。




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