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16-知識を得るために

「……というわけなんだが、エンリは何か知らないか?」


 その日の夜。

 いつものようにベッドに二人で腰掛け、錬金術師という職業と、あの女の子についてやっぱり気になったので、エンリに聞いてみることにしていた。


 下心は何もない。

 何もないが、わざわざ俺に話しかけにきてくれたような女の子だ。最後にも何か言いかけていたし、理由があるのかもしれない。


 と、色々と建前を作って聞いて見たのだが、エンリの反応はあまり著しくはなかった。


「ごめん、わからないなー。……主は強面だから油断してたけど、そっか……」


「うん? どうかしたか?」


「いや、何でもないっ。だったら、次にその女が来る時はいつ? アタシが化けて話してあげるよ!」


 途中の言葉の意味は分からなかったが、確かにエンリに化けてもらった方が色々と便利かもしれない。

 いや、単純に仕事中に長々とも話せないし、いつ会えるかもわからない人だ、それならエンリが化けて夜にゆっくりと話してもらった方が絶対に良い。


 ……俺は誰に言い訳しているんだ。


「来る時は俺も分からないが、これからは定期的に依頼品を届けに来るようだからエンリの休みの日と被る時があるかもしれない。その時によろしく頼むよ」


「へへ、りょうかーい♪」


 記憶の模倣は全てを知れる。

 エンリにもしもアーラに化けてもらっても、深いことは聞かないでおこう。内心で馬鹿にされてたり……なんてことを暴露されたら仕事に支障が出る勢いでへこむ。それにプライバシーもあるしな、うんうん。


 防腐剤や風化防止剤……薬剤の調合か何かか。

 前世の錬金術師についてのイメージが曖昧すぎて、まるで何をやっているのか想像がつかない。


 まあこれも楽しみの一つとしてとっておこう。

 まだまだこの世界は知らないことで溢れている。


 俺はそのまま倒れるように横になり、エンリそれに続くように横になる。

 相変わらず硬いベッド。

 たまに虫が這っていたりもする。


 この世界に来てからは、虫程度気にしないくらいには図太くはなったが、エンリにはもっと良い環境で暮らさせてあげたいものだ。


 一ヶ月置きくらいに水の入った桶と布を渡され身体を拭くことや、獣の毛でできた歯ブラシで歯を磨くこともあるが、俺の体臭や口臭はエライことになっているだろう。


 この生活の中での不満はそれぐらいか。

 エンリは構わずベッタリとくっついてくるが、他の人に迷惑がかかる程の臭いは発したくないものだ。


 ……アーラにも臭い! なんて思われていたら嫌だなぁ。


 そんなことを思いながら、今日は眠りにつくのであった。




 〜〜〜




 それからしばらくアーラが来ることはあったが、運が悪いことにエンリと出会う日は一度もなかった。

 親方にも目をつけられ、俺と話そうと近づいてくることもあったがすぐに引き離される。


 そんな、なんとなくむず痒い思いをしながら過ごし、気温も暖かく過ごしやすくなり、三ヶ月が経った頃。


 ついに、エンリとアーラが出会う日が来た。

 この日は明るい、雨が降る気配のないような、そんな曇り空。

 昼の休憩も終わり、午後の作業が開始されてから幾分か経った頃であった。


「はい、今回の作り終えた分です!」


「おう、あんがとよ。作る早さも上がってきたんじゃないか?」


「ふふん、あたしも成長してるんですよ!」


 石材を運びながら、ちらちらと親方とアーラの方を様子見れば、置かれた便の数を見て感心している親方と、腰に手を当て小さな胸を張り得意げに鼻を鳴らすアーラ。


 ここへ来る頻度が増えたわけではないが、持ってくる数は増えているのだろう。

 今までは石材を積んでいるだけであったが、アーラが薬を持ってきてからはその薬を撒きかけながら積んでいっている。


 何でも石の風化を抑える薬らしく、そのまんま石材風化防止剤というらしい。液体の色は灰色で、石材へかけるとみるみるうちに染み込んでいく。


 効果が出るのを知るには時間はかかるが、あの親方が依頼しているのだから効果は期待できるのだろう。


 人や馬車が通る橋だ、いつか風化していきなり崩れたりしないためにもこの薬は有効だ。

 こんな薬を作れるアーラは、もしやわりと凄い人なのではないだろうか。


 エンリが化けた時、聞き出せる知識に俺の期待も高まる。

 作業も進み、土台の輪石が見えなくなるくらいには積み敷かれた壁石。さらに平坦にするために、また上に積んでいく。


 俺が石材を置き終わり、一汗拭うと、肩から小さく声が聞こえた。


「(あの女か……)」


 見れば肩に、チロチロと舌を出しながら引っ付いている蜥蜴がそこにはいた。

 あの魔女のコスプレのようなアーラの肩に乗っていれば、喋る使い魔のような感じで似合うのではないだろうか。


 なんてくだらないことを考えるが、何やらエンリの様子がいつもと違う。まるで縄張りを荒らしに来た者へ対する獣のような雰囲気だ。


 声にも気合いが入っているようで、何だか俺も緊張して、ゴクリと唾を飲み込んだ。


「(いけるか?)」


「(大丈夫)」


 小声で確認するが、力強い返事が戻ってきた。

 よし、ならば後は任せよう。


 俺は自然な足取りで、再び橋から石材を取りに河岸へと、アーラがいる方へと歩いていくのであった。


 その肩に、ドッペルゲンガーを乗せながら。

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