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17-模倣成功

 俺という人間はどうやら正直者らしい。

 戻る途中、他の者に何度も顔を見られ、怯えられた。


 その際、すれ違いざまにガイに言われたのがこうだ。


「悪魔が微笑んでるみたいだぞ」


 自然な足取り、いつものように何事もなく。

 たったそれだけなのに、考えれば考えるほど逆に不自然な態度をとってしまう人も多いだろう。


 俺の場合はどうやら顔に出てしまっていたらしい。

 妙に意識しすぎて強張ってしまい、恐ろしい笑みを浮かべているように見えていたようだ。

 鏡があれば一度その顔を自分で見てみたいものだ……。


 しかし、本来の目的であるアーラと親方には気付かれてはいない。未だ話し合っている。


 やがて橋から河岸に着くと、俺は石材へ、蜥蜴に化けているエンリはアーラへと別れる。


 ほぼエンリ任せなので、気にすることは何もないのだが、エンリに頼んでやらせている大元は気が気でない。


「それじゃあ、また来ますね!」


「おう!」


 どうやら話も済んだようで、アーラがバッグを背負い親方に背を向け帰ろうとする。

 だ、大丈夫だろうか。

 間に合うだろうか。


 馬車の中に積んである石材に手をかけながら、チラチラと様子を見る俺。そんな俺に他の者から訝しげな眼差しが向けられるが、俺の気は完全にアーラとエンリにある。


 そして、アーラが五歩を歩き始めたところだった。


「きゃあっ!」


 可愛らしい悲鳴が上がり、ぴょんぴょんと跳ねている。


「ど、どうした!?」


「ふ、太ももに何かが、何かが!」


 親方が慌てて駆け寄る。

 当のアーラは身体を捻らせ、ブーツとスカートの合間に見える絶妙な肌色の部分を手で払っていた。


 そのせいで、ふわりとスカートがめくれ、見える肌色の面積が多くなる。


 そんな光景に、俺だけではなく他の男たちの視線も自然に向いた。


 すると、しばらくして、ぴょこんと一匹の蜥蜴がアーラのスカートの中から飛び出し、素早く近くの茂みへと消えていった。


「なんだ、ただの蜥蜴じゃねえか。毒蜘蛛か何かかと思ってヒヤッとしたぜ」


「うぅ、ごめんなさい……」


 原因が知れ、呆れて禿頭をかく親方と、しょんぼりと項垂れるアーラ。

 ニヤつかせ、だらしない顔を見せる男たち。

 ……うーむ、何だか悪いことをしたな。


「お前ら! 見てないでさっさと仕事に戻りやがれ!」


「「は、はい!」」


 親方の声により、慌てて作業に戻る俺たち同志。

 動揺のせいか、返事も俺が人一倍大きくなってしまった。


 積まれた石材を持ち上げ、橋へと運ぶ。

 歩いていると、何かが身体を這い登ってくるのを感じた。

 肩へと首を回せば、いつもの可愛らしさが微塵ももない爬虫類が、一仕事やり遂げた戦士のような雰囲気で張り付いていた。


 俺は視線を戻し、持ち運びながら小さく労いの言葉をかける。


「(ご苦労さん、エンリ)」


「(へへ、バッチリだよ、主)」


 自信満々に返すエンリ。

 どうやら記憶模倣も可能だったようだ。

 これは夜が楽しみだ……。


「……おい、また顔が悪魔になってんぞ」


 再びガイに注意され、顔を引き締める。

 それにしても、人のことを悪魔悪魔と……。

 エンリにポーカーフェイスでも習おうかしら……。




 〜〜〜




「じゃ、化けるね〜」


「おう、頼んだ」


 その日の夜、牢屋。

 待ちきれない俺は、運ばれてきた晩飯を急いで平らげ、エンリに早速化けてもらうことにしていた。


 鉄格子に背を向け、あぐらをかいて座る俺。

 壁を背に、俺の目の前で裸マントで立っている元の姿のエンリ。


 牢屋は左上角にベッド、右角上に排泄用の穴。

 広さはそこそこにあるので、こうしてゆっくりとできるスペースもある。


「じゃ、へんしーん」


 そう、間の抜けた声で、エンリが化ける際にたまにする、何の意味もないくるりと回る動作も問題なく行えるほどの広さはあるのだ。


 瞬き一つすれば、そこにはエンリではなくアーラが立っていた。

 服装も昼間と同じで、鮮やかな長髪も健在。

 若干フリルのスカートが短くなっているような気もするが、多分気のせいだろう。


 ぽかんと見ているだけの俺に、アーラは四つん這いになって顔を近づかせる。


「えへへ、やっとゆっくり話せますね!」


「お、おう……」


 今までの俺との付き合いは、記憶の模倣により完全にエンリは把握しているだろう。

 牢屋の事情を知り、周りに響かないよう声を落としてさえいなければそのまま俺もアーラとして接してしまうところであった。


 いや、このままでは悪戯好きのエンリのことだ、何かしらしかけて来るに違いない。

 そしたら俺の負けである。エンリが満足するまでからかわれるだけだ。

 なので、そうなる前に俺は話をすすめることにした。


「じゃ、じゃあ早速質問なんだが……」


「はい、何でも聞いてください!」


 薄暗い部屋の中、眩しい笑顔を見せるアーラ。

 元気な子だよなぁと思いつつ、身体を引き離してとりあえず四つん這いから座らせる。

 このままでは少々、服が垂れて襟ぐりの隙間から小さな胸が見えそうになるのだ。


 さて、落ち着かせるために咳払いを一つ。


「こほん……まずは、年齢を教えてくれるか?」


 何を聞いてるんだろうか俺は。

 そんなことどうでもいいじゃないか。落ち着いてさえもいない。相変わらず女の子に対して耐性もなく、動揺しまくって変な質問が飛び出た。


「十五歳ですよ。前に力持ちさんと話した時は本当にビックリしました! 三歳しか違わないなんて」


 しかし、アーラは変わらず笑顔でどうでも良い質問に答えてくれる。それもだいぶ前に話したことを交えて。


「そうか、俺もその歳で働いてるなんて驚いたよ。次の質問だけど……」


「十五歳で働くのなんて普通ですよ。あたしも何年も前から錬金術の勉強をしていましたし!」


 何気ない話に、俺も何とか冷静を取り戻し、本題へと戻そうとする。が、適当な相槌にコメントを返されてしまった。

 あぁ、そうなのねとは思うし、アーラは昔から頑張っていたのかと感心もしたがそうじゃない。


「……なぁエンリ。ただ質問するだけだから、別にアーラになりきらなくてもいいんだが……」


 このままでは話が進むのに時間がかかるだろう。後主としての威厳がピンチである。

 そう思い、その意をエンリに伝えたのだが。


「? えと……なりきらなくてって、エンリって誰ですか? あたしはアーラですよ?」


 ちょこんと首を傾げ、不思議そうに聞き返すアーラの姿をしたエンリ。

 完全に己の姿を把握し、相手にどう見えるかを知っていてのこのあざとい仕草だ。

 このやろう、初の絶対服従の命令でもしてやろうか。


 とまあそんなことでムキになる俺ではない、俺は大人、前世も合わせれば三十を超える大人だ。

 女性に耐性がなくても、大人の余裕を見せろ、俺。


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